第38話 正装の裏側
「やっぱりお姉様は白よ!これだけは譲れないわ」
「いや、我輩は黒を推奨しよう。
お嬢様の扇情的な色香を引き立たせれば、人間の男などコロリと…あイタ!
こんなところではしたないですぞ我が姫よ」
「ふわぁ、これなんてすごいですよ。ピンクのフワフワのひらひらでステキです」
思い思いの衣装を手に取って楽しそうに吟味する3人を目の前に、
ルナルナは引き攣ったプリンセススマイルと青筋を同時に浮かべていた。
話はさかのぼり、ルナルナがガリエル国王と対面する一日前のこと。
ルナルナ一行はミュルズホッグのある高級服飾店に足を運んでいた。
店の入り口には頼んでもいないのに護衛の兵士が立ち、
かなり広い店内はなぜか貸し切り状態となっていた。
普段からルナルナの服装に色々不満を漏らしていたアリスはこの状況にタガが外れたのか、
店に入るなり目をキラキラと輝かせて次々と服を手に取り、ルナルナに試着を薦めていた。
そのどれもが白を基調とした清楚なお姫様然とした衣装であった。
対してベルゼが手に取るのは黒や紫など色合いの濃く、肌の露出も多いものが主であった。
アイラは過剰なフリルやレースの付いたファンシーな衣装を手に取っていた。
「これを着ろと…」
一時間後、山と盛られた色とりどりの衣装を目の前に、ルナルナはため息をついた。
「当然よ、お姉様ならきっと何着ても似合うんでしょうけど、やっぱり実際着てみないと」
「フハハハハ、別にすべて買っても良いのですぞ。
こんなこともあろうかとエルドに指定された金額より余分に国庫から拝借してきたゆえ」
「ふえぇ、じゃあこの衣装私の分も買っていいですかぁ?」
「いや、お前らはだめだろう」
色々掻き回してくれるお礼に、今度エルドに報告してやろうと決心するルナルナであった。
何にしても一着は購入しなければこの場を逃れられそうにない。
ルナルナはなるべくシンプルなデザインの衣装を手に取り、意を決して試着室に入った。
「ほれ、着たぞ。これでいいのか?」
「はうぅ、ステキですお嬢様」
「ふむ、我輩の好みとは少し違うがこれはこれでなかなか良いものですな」
試着室から出てきたルナルナを見て、四天王の二人は思い思いの感想を述べていた。
「…アリス?おいアリス」
先ほどから反応のないアリスは、惚けた表情でルナルナを見つめたまま停止していた。
「おーいアリス、起きろー」
「はっ」
ルナルナに軽く頬を叩かれてようやくアリスは再起動した。
「さ、流石お姉様ですわ。似合うとは思ってたけど、まさかこれほどの破壊力だなんて」
「俺は趣味じゃないし動きづらいから好きじゃないんだけどな、こういうのは」
「確かに四六時中こんな格好してたらちょっと窮屈で疲れそうかも。
でもお姉様はお姫様なんだから、たまには我慢しないとね」
アリスの非常にごもっともな意見にルナルナは返す言葉も無かった。
「というわけで、これ全部試着してね」
「はぁ!?もうこれだけで十分だろ」
にっこりと衣装の山を指差すアリスに、ルナルナは抗議の声を上げた。
「だめよ、もっと良い物があるかもしれないし、こんな機会めったに無いんだから」
「そうですよぉ、私も一生懸命選んだんですから着てくれないと寂しいのです」
「こんなお子様衣装より、もっと相応しい物がある事をお嬢様には知って頂きましょう」
「いやもう勘弁してくれよ…」
その後ルナルナは3人に押し切られ、1日中着せ替え人形にされてしまった。
ルナルナ達は、最初に試着した衣装とアクセサリー類を数点買って店を出た。
結局最初の物でよかったんじゃないかと抗議したかったルナルナだが、
3人の無駄にやりきった顔を見ると、ため息と共にその言葉は引っ込んでしまった。
既に太陽はどっぷりと沈み、ミュルズホッグの街は煌々と人口の光で照らし出されていた。
店の外はなぜか遠巻きに人だかりが出来ていたが、ルナルナは気にせず馬車に乗り込んだ。
すると店の入り口の兵士とは別の兵士が人垣を割り、宿への道を開けて誘導する。
これからルナルナ達が向かう宿も、団長と呼ばれた兵士から指定されたものであった。
おそらくその宿も相当クオリティの高い所であると予想された。
普通に考えれば至れり尽くせりなのだが、ルナルナはこの状況を喜べなかった。
ルナルナの求める旅はもっと自由気ままなものである。
大勢の注目を浴びて行動や言動に制限の多い現状は、その理想からかけ離れたものだった。
つくづくエルドとこの悪魔は余計な事をしてくれたものだとルナルナは頬を膨らませていた。
宿に着いて夕食を取った後、ルナルナは気疲れで重くなった体をベッドで休ませていた。
そこにアリスが、先ほど買った衣装とは別の大きな包みを抱えて部屋に入ってきた。
ルナルナが聞く前に、アリスはその中身をベッドの上に広げた。
「これは私からのプレゼントよ、受け取ってもらえるわよね!」
それは大量の服であった。
先ほど購入したドレスとは違い、中身はカジュアルな物が大半を占めていた。
その服の種類は、上着、下着、夏用、冬用と様々であった。
確かに魔眼の効果の現れない今なら、色々着まわせる楽しみも出てくるだろう。
そういう意味では衣服の選択肢が広がる事はルナルナにも喜ばしいことであった。
ただ一つ、目の前の衣装が全て女物であるという問題を除けば。
「ね、受け取ってくれるわよね、お姉様」
「こ、断る!」
妙に迫力の篭った笑顔で迫ってくるアリスに、ルナルナは思わず後ずさった。
「大丈夫よ。試着の時にサイズはちゃんと測ったからお姉様にぴったりのはずよ」
「さ、サイズの問題じゃないやい」
「受け取ってもらえないと困るな、これで私のお小遣いかなり飛んじゃったんだから」
「そんなくだらないことに使うより、もっと有用な使い方があるだろ!」
「くだらなくなんか無いわ。これはとっても重要なことだもの」
あくまで一歩も引かないアリスであった。
ルナルナが逃れるようにちらりと衣装に目を移すと、
何故かその中にはベルゼが選んだスケスケネグリジェまで含まれていた。
その夜、二度目の着せ替え人形と化したルナルナは、遅くまで眠ることを許されなかった。




