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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第5章 勇者の足跡
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第36話 北国の歓待

 

「非常に心苦しいが、これ以上我輩が馬車を牽くと拙いらしいのだ」


「いいえ、これが私の役目ですから」


「すまない…」



 しおらしく俯く彼女のたてがみを、ベルゼが慈しむように撫でる。

 眼前で繰り広げられる三文芝居にルナルナはどう突っ込めばいいかわからず、

 とりあえず彼らの気が済むまで好きなようにさせることにした。





 ベルゼが快調に飛ばしてくれたおかげで、

 馬車で通常5,6日はかかるミュルズホッグまでの道程を、およそ2日にまで短縮していた。

 ミュルズホッグは山地を越えた盆地に広がるセレンズ連邦を構成する国の一つである。

 そしてその地は、伝説の勇者が最後にその消息を絶った場所とも言われていた。


 遠目にもわかる巨大にして強固な門は、その国力を示すかのように堂々と構えていた。

 山道を抜けて広い平地の道に入ったところで、悪魔の人力車は元通りの馬車に戻っていた。

 人の姿をしたベルゼが馬車を牽くその様は、やはり誰から見てもおかしいのである。

 通常の速度に戻ったその豪奢な馬車は、悠然と構える巨大な門にゆっくりと近づいていった。


 街に入る為の検問は基本的に緩く、盗賊や余程怪しい者でもない限り咎められることは無い。

 今までのルナルナは、その怪しい装いの為に検問は鬼門となっていた。

 だがこれからはガルタンの防寒具のおかげでむやみに視線を隠す必要は無くなった。

 だから今回はこのまま進んでも何の問題も起こらないはずであった。


 そのはずなのだが、眼前に巨大な門が近づくにつれてルナルナの不安は大きくなった。

 心配の種は当然、今は隣でおとなしくしている四天王の2人である。



「お前等、頼むからこのままおとなしくしていてくれよ」

「何をおっしゃいます、我々がお嬢様の旅の邪魔をするわけがないではありませんか」

「はうぅ、私達ってそんなに信用ないのかな…」


 無駄に良い笑顔で胸を張る悪魔にしょげ返る淫魔であった。

 そもそも悪魔の方は平気で嘘をつくし、淫魔の方は欲求を我慢できない時点で信用はない。

 ルナルナは引き続き二人の動きに警戒しつつ、門の根元でお勤め中の兵士達に視線を送った。






「こんの馬鹿野郎!何でこんな大仰なことになってるんだよ!」

「フハハハハ、はしたないですぞ我が姫よ」


 敬礼する兵士達に見送られ、ルナルナは隣の悪魔に蹴りを入れていた。




 ルナルナが門の前で素顔を晒して馬車を降り、兵士に話しかけようとした所に、

 後ろからベルゼがルナルナに先んじて兵士に声をかけていた。


「我々はこの国の同盟国の姫君とその家臣である。この地にはある任務を帯びて訪れた。

 ここに我が国王の書状がある故、早急にその旨をこの地の王に伝えてもらいたい」

「はぁっ!?」


 唖然とするルナルナを尻目にベルゼは話を進め、厳重に封をされた書状を兵士に手渡した。

 慌てて報告に走った兵士は、しばらくすると大勢の兵士達を引き連れて戻ってきた。

 現れた兵士達はルナルナ達の眼前に見る見るうちに人の壁で道を作っていく。

 彼らは一糸乱れぬ敬礼をし、ルナルナ一行の通過を待ち構えていた。


「ふむ、なんとも壮観な眺めですな。さあルナルナ様、先に進みましょうぞ」

「こ、この野郎…」


 衆目の前でベルゼを殴るわけにもいかず、ルナルナは兵士達に会釈して再び馬車に戻った。



 ベルゼからは何かしら嫌がらせを受けるだろうと警戒していたルナルナだったが、

 もっと直接的なものを予想していただけに、この展開はルナルナにしても意外であった。

 ルナルナは既に大勢の兵士達の前で姫としてその素顔を晒し紹介されてしまっている。

 おそらくこの国にいる間監視を受け、姫として立ち振る舞わなければおかしく映るだろう。

 それはルナルナにとって完全に精神攻撃であった。


「ご丁寧に書状まで用意してたってことは、最初からこんなこと目論んでたのか?」

「いいえ、これはエルドの指示ですな。尤も我輩も諸手を打って賛成しましたが。

 どの道この地の王には会うのでしょう。手間が省けて良かったではないですか」

「ぐっ、お前等は…」


 ルナルナはベルゼの背後に、嫌なら帰っておいでと諸手を広げるエルドが見えた気がした。



「それからもう一つエルドから言付かってますが、よろしいですか?」

「……正直あんまり聞きたくないんだが、なんだ」


 頭を抑えたルナルナは、半分投げやりに聞き返した。


「ルナルナ様が国の代表として人に会う場合、きちんとした正装をさせろと」

「はぁ!?ちょっと勘弁してくれよ。大体服なんて今着てるこれしか持ってないぞ」

「心配ご無用ですぞ。そんなものはこの街で仕立てさせればよろしいでしょう」


 声を上げるルナルナに、ベルゼは当然とばかりに答えた。

 その話に、突然横から女性陣まで加わってきた。


「ふわぁ、ルナルナ様またお姫様してくれるのですか?とっても楽しみです」

「お姉様!服選びは是非私も参加しますわ!」

「ヒヒィーン!」




 ああでもないこうでもないと、興奮気味にルナルナの衣装を検討する同行人達を見て、

 この世に味方等いなかったとルナルナは天を仰いだ。


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