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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第5章 勇者の足跡
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第35話 悪魔の超特急

 

「フハハハハハハ!我輩にかかれば3人や4人同時に載せるくらい朝飯前よ」


「ふわわわぁ、ベルゼさんすっごく速いですぅ」


「……ステキ」


「はぁお姉様、温かい…」


「何だコレ」



 ベルゼの人間離れした動きに断続的に体を突き上げられながら、

 4人の美女達は、柔らかなクッションの上でそれぞれ震える声を上げた。






 ルナルナは、結局あれからアリスに事情を話すことは出来なかった。


 宿に戻るまでに一度は全てを明かそうと決心したルナルナだったが、

 部屋に戻るなり、いつも以上に明るいアリスに迎えられて気勢を削がれてしまった。

 食事の時も寝床を用意する時も、いざ話を切り出そうとするとアリスは笑顔を返してきた。

 その笑顔を見るたびルナルナの決心は揺らぎ、その一歩を踏み出す勇気をしぼませた。


 アリスの隣に用意した寝床で、ルナルナが枕を抱えて唸っていると、

 枕のカバーが宿屋の主人のパンツにすり替わっていることに気づき、彼女は悲鳴を上げた。

 実に良い笑顔を浮かべて現れた悪魔にパンツを返却させ、

 高ぶった気分を落ち着かせようと体を横たえると、ルナルナはそのまま寝入ってしまった。

 彼女が眠りに落ちる寸前、すぐ隣からため息のようなものが聞こえた気がした。




 ルナルナが朝の光に目を覚ますと、寝ぼけまなこを擦りながらアイラが部屋に入ってきた。

 く~と可愛い音を鳴らし、「朝の一番絞りー」と室内で『食事』を始めようとした。

 ルナルナは人類の限界を遥かに超えた速度でアイラを連れ出し、村の外に置いてきた。

 外で男の歓声のようなものが風に乗って聞こえてきたが、もはや彼女の知る所ではない。

 朝からげっそりとしながら、彼女は少し早い朝食をとった。


 そんな調子で、ルナルナはまたしてもアリスに打ち明ける機を逸してしまったのだ。



 ルナルナ達は宿を出ると、馬車の前で北へ向かうメンバーの点呼を取った。

 ルナルナの隣にはぴったりとアリスが身を寄せ、腕を絡ませている。

 彼女達の目の前には四天王の二人が立っていた。

 アイラは十分『食事』を取れたのか、満足気にお腹を擦っていた。

 ベルゼは何故か馬車の馬の毛並みを確かめるように、そのたてがみを撫でていた。

 ポールは彼らと同じ四天王のはずだが、

 彼らとはそりが合わないのか、ずっと姿を消したままルナルナの肩に止まっていた。

 ルガールは村の自警団の檻の中でお勤めを果たしていた。



 さあこれから出発というところで、ベルゼが突然妙なことを言い出した。


「ふむ、この馬はなかなかの美人ですな。

 ルナルナお嬢様はもちろんのこと、そちらのお嬢さんといい美女ばかりに囲まれて、

 ハーレムとはこのような光景のことを指すのでしょうな。フハハハハハハ」


 ルナルナ達が「何言ってるんだこいつ?」といった視線をベルゼに突き刺していると、

 ベルゼは「お嬢様方は中でゆるりとおくつろぎ下さい」と馬車の中に女性陣を押し込んだ。


 ベルゼの事を気にしたら負けとルナルナが改めて腰を落ち着けると、

 そこで彼女は馬車に乗り込んだ人数がおかしいことに気付いた。

 外に残ったベルゼ、ルナルナの肩で姿を消しているポールを除くと、

 今ルナルナの傍にいるのはアリスとアイラだけのはずであった。

 しかし今ルナルナの周囲には二人以外の見覚えの無い女性が座っていた。


「だ、誰だお前!?」


 その第4の女性は、清楚な印象を醸し出す薄布の衣装に身を包んだ栗毛の女性であった。

 しなやかに筋肉の付いた引き締まった長い手足。程よく焼けた健康的な肌。

 女性としては少し大柄な彼女は、スラリとした印象の顔の長い美女だった。

 彼女はルナルナの呼びかけに反応せず、馬車の外のベルゼを見てうっとりとしていた。

 ルナルナは、彼女のそのあまりに特徴的な顔に、見覚えがあることに気付いた。


「……う、馬?」


 彼女は首から下は人間だが、首から上は今まで旅を共にしてきた馬そのものであった。



「フハハハ、彼女のような美女に労働を強いて足を休めるなど無粋!

 ここは我輩が彼女の代わりに足となり、お嬢様方の力となりましょうぞ」


 ベルゼは馬車をつなぐ梶棒を握り、ルナルナ達に向かって優雅に一礼した。

 馬面の彼女はしなやかな指先を頬に当て、ベルゼの流し目に更に顔を赤くしていた。


「つーかこの馬って、雌だったんだな…」


 色々どうでも良くなってきたルナルナは、

 熱いアイコンタクトを交わすベルゼと馬を眺めながら、ただそんなことを考えていた。






 ルナルナ達の馬車改め人力車は、現在猛烈なスピードで一路北へと向かっていた。

 既にかなり気温は下がり、本来ならばルナルナの生命を脅かすほどになっていたが、

 新しく装備した防寒具の効果により、ルナルナの周囲は快適な暖気に包まれていた。


「お姉様の傍って、すごく暖かいわね」


 アリスは、朝から変わらずニコニコとルナルナに身を寄せていた。

 昨日から彼女の目の前では異常な事態が起こりまくっているのだが、

 もはや感覚が麻痺したのか、彼女はルナルナに何も言ってくることはなかった。

 ルナルナはそれに対して、なぜか喜ばしいことだとは思えなかった。


「今のが5本目の河川だから…すごいわね、今日1日だけで3日分の道程を進めそうよ」



 地図を広げ、すっかり平常運転に戻ったように見えるアリスを横目に、

 ルナルナははたして彼女とこのままの状態でいいものかと思案に暮れていた。



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