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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第4章 北へ
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第34話 彼女の隠し事

 

 ガルタンが本格的に防寒具製作に取り掛かって3日後、

 ルナルナの元に防寒具が完成したとの知らせが入った。



「ほー、こいつがそうか。一見普通の腕輪にしか見えないな」


 防寒具の形状は、結局腕輪の形に落ち着いていた。

 完成した防寒具はシルバーのアームレットで、

 ワンポイントに赤の宝玉が輝く、シンプルだが意匠を感じられる出来栄えとなっていた。


「そういえば火竜の鱗はどこに使ってあるんだ?」

「うむ、そのまま魔力を流すと発火しかねぬほど高温になるからの、

 その宝玉の中に小さく砕いた物が封じ込められておる」


 ガルタンの言葉通り、宝玉の中にキラキラと輝く粒子のような物が多数浮いている。

 よく見れば腕輪の内側には細かい文様のような物がびっしりと彫り込まれていた。


「へぇ綺麗なもんだな。竜の鱗もこんな使い方が出来るのか」

「使用したのは極少量じゃからのう、残った分はお譲ちゃんが持っていくが良い」


 ガルタンはルナルナが持ってきた時より少しだけ小さくなった火竜の鱗を差し出した。


「いやいいよ。俺が持ってるよりガルタンの方が有効利用できるだろ」

「これだけでも相当な価値になるのじゃがの。それなら腕輪のお代は安くしておくぞぃ」

「いいのか?」

「うむ、久しぶりにやりがいのある楽しい仕事をさせてもらったからのう」


 ガルタンの示してきたお代はただの腕輪と変わらない、本当に格安のものだった。

 ルナルナは流石に悪く思い、もうすこし上乗せしようとしたが、

 ガルタンはそれ以上のお代は受け取らなかった。


「ほれ、そんなことより早速そいつを身に着けてみるがよい」

「あ、ああ」


 ガルタンに促され、ルナルナはしぶしぶ腕輪を装着した。

 装着した瞬間からルナルナは体内を流れる魔力の流れに変化を感じた。

 今まではただ体外に漏れ出すだけだったそれは腕輪の方向へと一筋の流れを作り、

 宝玉を通った魔力は程よい暖気に変換され、ルナルナの体を螺旋を描くように包み込んだ。


「へーすごいなこれ。いきなり南に戻ったような暖かさになったぞ」

「ふむ、どうやら上手くいったようじゃのう」


 そこでルナルナはもう一つ気になっていた肝心なことをガルタンに訊ねた。


「それでどうだ、今俺の魔眼は効果が出てるか?」

「いや、お譲ちゃんから放たれる魔力は、今は全て暖気に変換されておる。

 その魔眼を使うには、腕輪とは別に魔力を注ぐか腕輪を外す他ないじゃろう」

「そうか、よし!」


 必要以上に素顔を隠す必要が無くなったことに、ルナルナは喜んでいた。

 普段から視線を晒さないよう周囲に気を配るのは、思いの外精神力を削るものだった。

 またアリスと度々ぶつかる自分の服装に関しても、これからはかなり融通が利くだろう。

 ルナルナの魔眼は当然有益な面もあったが、今のところは不便な面の方が目立っていた。


「うむ、どうやら問題ないようじゃの」

「ああ、正直想像以上の物だ。良い仕事をしてくれた。ありがとう」

「何かあればまた来るが良い。お譲ちゃんの依頼なら出来るだけ優先して請け負うぞい。

 といってもこの閑古鳥では常に一番で片付けられるじゃろうがな」


 そう言ってガルタンはからからと笑った。

 その彼の姿からはエロ魔人などではなく、一仕事終えた男の風格が感じられた。


「ああ、その時にはまたよろしく頼むよ」


 ルナルナはその手を差し出すと、力強い握手が交わされた。

 その彼の手は幾重にも年輪を重ねた、まさに稀代の職人の名に恥じないものであった。




「そうそう、あのアリスというお譲ちゃんには優しくしてやるんじゃぞ」


 ルナルナが店を後にしようと扉に手をかけたところで、不意に後ろから声をかけられた。


「うん、今でも結構そうしてるつもりだけどアリスが何か言ってたのか?」

「ここでお譲ちゃんを待っている間かなり心配しておったぞ。

 彼女の不安になるようなものは早いうちに解決しておくんじゃな」

「うーん、そうは言ってもアリスは戦えないから常に一緒にいるわけにもいかないだろ」


 アリスを置いていかざるを得ない場面はこれからも出てくるだろうし、

 それは自体はどうしようもないことだとルナルナは考えていた。

 しかしガルタンはルナルナの言葉に首を振った。


「きちんと納得して待つのと、そうでないのでは雲泥の差があると言っておるのじゃ」

「ん、てことはアリスはただ待つことに納得してないって事か?」


 ルナルナの言葉にガルタンはいいやと更に首を振った。


「隠し事も程ほどにって事じゃよ」

「え?」


 ルナルナが聞き返そうとしたところに、ガルタンはポンと背中を押した。


「なに、ただの年寄りのおせっかいじゃよ。

 ほれ、彼女も待っておるのじゃろう?早く行ってやるがよい」


 片目を瞑り、好々爺とした笑みを浮かべるガルタンに見送られルナルナは店を出た。




 ガルタンの言葉通り、ルナルナはアリスに大きな隠し事をしていた。

 それは当然ルナルナが魔物であるという事実である。

 今まで何度か打ち明けようとしていたのだが、結局最後の一歩で踏み切れずにいた。


 アリスの好意は当然ルナルナにも伝わっている。

 そしてだからこそルナルナは事実を打ち明けるのが怖くなっていた。

 好意を寄せる原因が自分の魔眼のせいだったと知れば、軽蔑されるのではないかと。

 魔物に好意を寄せてしまったこと自体に嫌悪感をもたれるのではないかと。

 ルナルナはどうとも思っていない人間に嫌われることには何の感情も持たなかったが、

 自分を好いてくれている人間に嫌われることに対しては、言い知れぬ恐怖を感じていた。

 前世でも嫌われた経験が無かった彼女には、その耐性がまったくなかったのだ。


 とはいえ、ガルタンの言う通りこのままずっと黙っているわけにもいかなかった。

 今まではともかく、これからは魔物の四天王も一緒に旅をすることになるのだ。

 連中はどうも自分が魔物であることを隠す意識が低いのだ。

 ルナルナがいくら取り繕っても、彼らが隠さなければ破綻するのは目に見えている。

 それならば傷が浅いうちに早く打ち明けるべきなのだ。



 一気に全部明かすべきなのか、それとも小出しに少しずつ理解してもらう方がいいのか。

 そんなことをぐるぐると考えながら、ルナルナはアリスの待つ宿屋へと重い足を向けた。



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