第33話 予想外の副作用
「して、どのような形状が希望なんじゃ?」
「そりゃちゃんと温まるようなしっかりとした作りの物が良いだろ」
ガルタンに防寒具についての要望を聞かれたルナルナは、
結局いつものローブと同じ物を頼んでいた。
四天王の襲来によって引き起こされた騒動はひとまず落ち着き、
色々と後始末を済ませたあと、ルナルナはガルタンの工房に呼ばれていた。
どうやら防寒具製作の下準備が完了したらしい。
工房にはアリスだけがルナルナについてきていた。
アイラはルガールを探しに行くらしい。
ベルゼがいると、大事な防寒具に何をされるかわかったものではない。
彼には外でおとなしく待っていてもらうことにした。
工房でルナルナの要望を聞いたアリスとガルタンは、一様に渋い顔をしていた。
「お姉様、それじゃああんまりだわ」
「そうじゃよ、せっかくのそのムチムチボディを隠してしまうとはもったいない。
ワシとしてももっと体のラインが出る物をお勧めしたいのじゃが」
「お前らは防寒具に何を求めているんだ?」
口を揃えて反対してくる二人に、ルナルナは嘆息した。
今から向かうのは極寒の地、セレンズ連邦である。
生半可な装備では、寒さに弱いルナルナの命に関わることになるだろう。
しかしここでガルタンは思いもかけない言葉を告げた。
「今からワシが作るのは一般的な防寒具ではない。
お譲ちゃんから流れ出る魔力を暖気に変換して、体に纏わせる事を目的としておる。
じゃから必ずしも服の形状をしている必要は無いのじゃよ」
「へぇ、そういうものなのか」
ガルタンの言葉にルナルナは感心した。
彼の道具は魔術を使えない人間でも、一定の魔術と同じ効果を得られるというのだ。
もちろんルナルナが魔力を保有している前提なので、万人が使えるわけではないが。
「ほら聞いたお姉様。私としてももっとお洒落なアクセサリーの方が良いと思うわ」
「ボディライン云々はどうせ隠すことになるけど、嵩張らないのは助かるな」
「えー、なんでよ!」
ルナルナのそっけない言葉に、アリスはますます頬を膨らました。
「でも暖気の魔術の代わりと考えれば、確かにアクセサリーにした方がいいかもな」
どのような格好でも暖気を纏えるというのは、ルナルナにはかなりのメリットだった。
例えば国のお偉いさんに会う時など、ローブを脱がねばならない場面もあるだろう。
そう考えれば常に身につけていて不自然ではないアクセサリーが一番無難と考えられた。
「じゃあさ、アリス的にはどんなアクセサリーがいいと思う?」
「え?うーん、お姉様だったら何でも似合いそうだから逆に困るわね。
指輪にネックレス、ブローチ、ブレスレット…そうだ、ティアラなんかどうかしら」
「ティアラは勘弁してくれ。常時身につけられるものでないと困るんだ」
「大丈夫、お姉様だったら似合うわよ。なんたってお姫様なんだし」
「だからそのお姫様アピールはいらないから」
「むー、でもせっかくお姉様を着飾らせるチャンスだもの、ちょっと悩むわね」
「いや別に着飾りたいわけじゃないからな」
アリスはルナルナの抗議を流し、ガルタンに声をかけた。
「ねぇガルタン。どうしても一つに絞らないとダメなの?」
「ふむ、防寒具とは別に何か買っていくかの。ただの装飾品ならすぐに用意できるぞい」
アリスは我が意を得たといわんばかりの笑顔でルナルナに向き直った。
「ですってお姉様、せっかくだし色々買っていきましょうよ」
「買わないからな!それに普段は隠すことになるから、無駄に着飾っても意味無いぞ」
「うー、お姉様は何でそうやって」
「俺はあまり素顔を晒したくないんだよ、アリスにも何度か言ってるだろ?」
実際ルナルナとアリスの間では既に何度も同様のやり取りがなされていた。
その度にルナルナはそう言って逃れ、アリスは不満な顔になっていた。
「おっとそうじゃ、大事なことを忘れておったわい」
場の雰囲気が少し悪くなりかけた所で、ガルタンは思い出したかのように声を上げた。
「この防寒具はお譲ちゃんから流れ出る魔力を使って発動するんじゃ。
よって、普段発動しておるお譲ちゃんのソレは効果がなくなるから注意するのじゃよ」
「へ?」
それはルナルナにとって思いがけない言葉だった。
ガルタンの言う「ソレ」とはルナルナの『魔眼』のことで間違いないだろう。
そしてルナルナを悩ませている最大の要因がこの魔眼の効果だった。
普段ルナルナが正体を隠すような扮装をしているのもそのためである。
それが魔力を制御出来ないルナルナの代わりにこの道具が制御してくれるというのだ。
ルナルナにとっては、なんとも一石二鳥な話であった。
ルナルナは、不機嫌そうにそっぽを向くアリスを眺めながら、
これからはたまにだったら着飾ってやってもいいかなと考えていた。
すみません、所用で2日あけてしまいました。
登場人物紹介のヴァーミリアさんに色を塗ってみました。




