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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第4章 北へ
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第32話 魔界の問題児達

 

「紹介しよう。右から順にベルゼ、ルガール、アイラだ。

 色々あって、これからディードリッヒの代わりに旅を共にする事になった連中だ」


「なんというか、派手だけど統一感の無い人たちね…」


 四天王を見たアリスは、非常にもっともな感想を漏らしていた。




 190cmオーバーの、黒いタキシードを着たベルゼ。

 ムキムキマッチョな肉体を、タンクトップとラフなズボンで包んだルガール。

 全体的にピンクでひらひらした、何かのコスチュームっぽい衣装のアイラ。

 道端でこんな連中とすれ違ったら、例え魔物の姿でなくても二度見してしまうだろう。


「これはこれは美しいお嬢さん。我輩は四天王の筆頭、ベルゼと申します。

 これは我輩からの心ばかりの贈り物です。お近づきの印にどうぞお納めください」


 ルナルナの紹介を受けベルゼが一歩前に出ると、紳士らしく優雅に一礼して、

 綺麗にラッピングされたリボンつきの箱をアリスに差し出した。


「あら、それはわざわざご丁寧にありがとう。

 とと、結構重いのね一体何が入ってるのかしら。今ここで開けても良い?」

「もちろん」


 アリスの言葉に、ベルゼは満面に好意的な笑みを浮かべ頷いた。

 しかしルナルナは彼のその笑みに、好意以外の何かを感じ取っていた。


「ちょっと待ったアリス!それを開けるのは…」


 しかしルナルナの制止は一歩遅く、アリスは既にその箱を開けて中身を覗きこんでいた。



「やぁ」


「ふぎゃああああああぁ!!!」



 箱から出てきたのは、満面の笑みを浮かべたベルゼの生首であった。


「フハハハハ、大・成・功!…あいた、我輩の首を取り落とすでない!」


 優雅な挙動で自らの生首に歩み寄った首なしのベルゼは、

 床に転がった生首を、まるで何事も無かったかのごとくすちゃりと装着した。

 ルナルナは、心臓を押さえて尻餅をついたアリスをあわてて介抱した。


「ごめんアリス、まさか初対面の相手にいきなりあんな事をするとは思わなかった。

 でもあいつは見た目通りの紳士じゃない。あいつの言う事は基本的に信用しないでくれ」



 『奇術師ベルゼ』


 魔王四天王の筆頭である彼は、魔界の住人からそう呼ばれていた。

 彼は人を食ったような態度でおちょくり、不意打ちで驚かせる事を至上の喜びとしていた。

 ルナルナも、何度彼に煮え湯を飲まされてきたことか。

 その数々の悪戯を思い出し、ルナルナは悠然と腕を組む似非紳士に蹴りを入れていた。


「ハッハッハ、本日もお嬢様の熱烈なスキンシップ、ありがたくお受けしますぞ」


 ルナルナは相当に強く蹴ったはずなのだが、彼の笑みは崩れない。

 もはやぬかに釘、のれんに腕押しであった。



「うう、腰が抜けちゃったじゃない…」


 アリスは立ち上がる事が出来ず、床にへたり込んだままだった。

 そこに何者かが彼女の手を取って、そっと口付けた。



「は…初めてベルゼと趣味が合った。

 美しいお嬢さん。お、俺と結婚を前提に付き合ってくれ」


 片膝をつき、いきなりアリスにプロポーズしたのは、ムキムキマッチョことルガールだった。


「え?嫌よ。私には心に決めた人がいるもの」


 アリスは心底迷惑そうに顔をしかめ、手の甲をごしごしとハンカチで拭った。

 その言葉に、『ガガーン』と擬音が見えるほど彼はショックを受けて硬直した。


「ま、またフられてしまった…」


 瞬殺でフられたルガールは、その身体をよろよろと後ろへよろめかせた。

 そこへひらひらの服を小走りにはためかせ、アイラは後ろからそっとルガールの体を支えた。


「はうぅ、気を落とさないでくださいルガールさん。

 今回は縁が無かっただけで、きっとそのうち良い相手が現れますから」


 よく見れば彼女の相応に育った胸が、彼の腕に押し付けられている。

 しかしルガールはアイラを振り払い、懐からぺろぺろキャンディを取り出して扉に向かった。


「こ、こんな熟女ばかりの空間にいられるか!俺は楽園へ行く!」


 大粒の涙と捨て台詞を残し、彼はそのまま勢いよく外へと飛び出していった。

 その様子を見ながら、ルナルナは「アリスまではOKなんだ…」という感想を浮かべていた。


「ふえぇ、ルガールさんかわいそうです…」


 アイラは心底心配そうにルガールの去った扉を見つめていた。




「えーとアイラさん、だっけ?あなたルガールさんの事好きなの?」

「ひゅわ!?な、ななななんでそれをっ!」


 ようやく落ち着いたのか、アリスは扉に向かって立ち尽くしていたアイラに声をかけた。


「そんなの見てればわかるわ。そんなに彼が好きならもっとアタックかけないと」

「ふえぇ、でも私ってルガールさんの好みから外れてるみたいだし、

 こんな子供っぽい格好しても全然振り向いてくれないし…」

「それは…で、でも何か手があるはずよ。私も手伝うからがんばりましょう!」

「は、はいぃ!」


 優しく微笑みかけるアリスに、アイラは真っ赤になって首をブンブンと縦に振っていた。

 その様子はとても今日会ったばかりの二人には見えなかった。


「私はアリス=ベレス。あなたもお姉様と一緒に旅するのよね。

 私はお姉様みたく戦えないけど、他の部分でがんばるつもりだからこれからよろしくね」

「わ、私アイラっていいます。私も戦うのは苦手でよく四天王のお荷物って言われるけど、

 精一杯がんばるからこちらこそよろしくお願いします」

「そうなの?じゃあ私達似た者同士なのかもね」


 二人は頭を下げあった後、和やかに談笑を始めた。



 アリスは非常に前向きである。

 今回突然降って湧いた旅の同行者に、自分から歩み寄ろうと考えたのだろう。

 そしておそらく3人の中では、アイラが最もとっつきやすいと判断したのだろう。

 しかし普通はここまで即座に対応できるものではない。

 彼女のその姿勢と切り替えの速さに、ルナルナは感心していた。


 見れば二人はよほど相性が良かったのか、既にお互い笑顔で会話に花を咲かせていた。




『くうぅ』


 いきなり小さく可愛らしい音が部屋にこだました。

 見ればアイラが床へへたり込み、恥ずかしそうにお腹を押さえている。


「ってちょっと待て、アイラお前『食事』はしてこなかったのか!?」


 ルナルナは慌ててアイラに問いただした。


「はうぅ、だって急な呼び出しだったんですもん。ご飯食べてる暇なかったんですよぉ」


 アイラは真っ赤な頬を両手で覆い、ブンブンと首を振った。


「だ、だめだここはまずい!『食事』なら外に行って人目につかない場所で…」

「ひどいわお姉様!ご飯くらいここで用意させればいいじゃない。

 ここのエロ魔人はお金だけは貯め込んでるみたいだから、今用意させるわ!」


 アリスの言葉に、アイラは首を横に振る。


「ダメなんです。私、普通のご飯は食べられないんですよぉ」

「え、それってどういう…」


 ルナルナの目には、既にアイラの体から誘引の魔力が漏れだしているのが写っていた。

 その時、彼方から雄たけびのような怒号のような何かが聞こえてきた。

 徐々に地響きのような振動が壁を揺らし、大勢の何かが近づいてくるような音が聞こえてくる。


「やばい、こうなれば転移魔術でアイラを…ってディードリッヒが居ない!」


 もはや打つ手なしとルナルナが顔を覆った瞬間、入り口の扉が吹き飛んだ。




「「「我等アイラ様親衛隊!時越え万里越え、只今御身の前に参上致しました!!!」」」



 見れば、蹴破られた扉から何十人ものソレが既に部屋へと侵入していた。

 その種族は様々で、人間、獣人、悪魔、その他有象無象が所狭しとひしめいていた。

 様々な種族が手を取り合う、ある意味ルナルナの理想の体現とも言える光景だったが、

 彼女にはこれが自分の理想の姿だとは1ミリたりとも思えなかった。


 そのあまりの騒音に、工房に篭っていたガルタンも「何じゃ何じゃ?」と飛び出してきた。



「はきゅ~ん!みんな、私のピンチに駆けつけてくれてありがとう!

 私もうお腹ペコペコなの。みんなの気持ち、美味しくいただくね!」

「「「ア、アイラ様!」」」


 アイラがピンクの淫気と共にウインクと投げキッスを飛ばすと、

 部屋を埋め尽くした男達の体が一斉にビクリと震えた。


「はううぅー、もうお腹いっぱいだよぉ」


 アイラは恍惚とした表情で舌なめずりをし、そのお腹を満足そうに擦っていた。



 『クイーンサキュバス』


 それがアイラの受け継いだ称号だった。

 つい最近、先代クイーンである彼女の母から称号を受け継ぎ、四天王入りを果たしていた。

 彼女はその生まれ持った強力な淫気を操ることで、

 世の中のほぼ半分の対象を傀儡と化す強力な能力を有しているのだ。

 通常は性交することにより対象の精気を奪うサキュバスという種族だが、

 彼女はとある理由で、表層より発現する精気のみをその糧としていた。

 結果、彼女の食事は常に大勢の男を集め、その度にこのような惨状が引き起こされていた。



「うわ臭ぇ!最悪だ!お前等早く出て行け、そしてパンツを洗え!」


 一気に部屋を埋め尽くした、えもいわれぬ臭気に顔をしかめてルナルナは声を上げた。

 アリスも涙目で鼻を押さえている。

 大惨事の舞台の持ち主であるガルタンに、ルナルナが謝罪の意を込めた視線を送ると、

 彼もまた股間を押さえてビクンビクンと痙攣し、床に転がっていた。


「だから、何でお前はレジストしないんだよ…」


 ルナルナは周囲を埋め尽くす不快な臭気を押しのけるように、盛大なため息をついた。






 一方その頃、村の自警団の一室では、

 保育施設に侵入した容疑で、とあるライカンスロープの男が取調べを受けていた。



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