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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第1章 ウエストダウン
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第1話 魔物の脅威

「んぐっんぐっ……ぷはー!生き返るわ~」


 カウンターで美味しそうにフルーツジュースを飲み干すその人物は、店中の視線を一身に集めていた。


 まずその姿から受ける第一印象は『怪しい』その一点である。

 上から下まで少し煤けたフード付きのローブにすっぽりと身を包み、男か女かもわからない。

 まだ暑い季節の、さらには日中にもかかわらずである。

 日差しの強い屋外ならまだしも、ここでローブを脱がないのに正体を隠す以外の理由は見当たらない。

 身長は150cmそこそこくらいだから、仮に男だったとすると少年だろうか。

 そしてその少年?の肩には、少し大きめの色鮮やかなオウムが乗っている。

 この風体だけでも少年を怪しいと断ずるに少しの不足もないだろう。


 そしてその少年が注目を集めるのに、もう一つの理由があった。

 それは彼が『よそ者』だと思われるような装いだからだ。


 ここウエストダウンはそこそこの規模の街とはいえ、荒野に囲まれた閉鎖的な街である。

 外からの物流は月に1度、大きなキャラバンがやってくるのみであった。

 そして人の出入りもほぼその時期に集中する。

 荒野で魔物に襲われる危険性を考えれば当然と言えば当然であった。


 が、最後にキャラバンがこの街に来たのは20日ほど前。

 すなわちこの時期に見慣れぬ人物を目撃することは、通常ではありえない事態であった。

 だから店内の客のほとんどが少年を『よそ者』とは思わず、街の誰かがそういった扮装をしていると結論付けていた。


「で、おたくはどこの子なんだい?まさかこの時期に『外』から来たってわけでもあるまいし」


 店中の客を代弁するかのように、髭面のマスターは少年に声をかけた。


「んぁ?そのまさかだけど、何かおかしい所でもあった?」

「おいおい大人をからかっちゃいけねぇ。ここから隣町までは大人でも3日はかかるんだ。荒野にゃ魔物も徘徊してるって話だ。間違ってもそんな軽装で辿り着けるような道程でもないはずだ」

「ふーん、魔物が徘徊ねぇ…」


 少年はちらりとフードの隙間からマスターを見上げると、やれやれと一つ息を吐く。


「てことは、この街をぐるりと囲った頑丈そうな柵や門も、荒野の魔物から街を守る為、か。

 そんなに酷いのか?この街のその魔物の被害とやら(・・・・・・・・)は」


 マスターは露骨に胡散臭そうな目を投げかけてくるが、それ以上邪険にするでもなく頷いた。


「昨日もあったろう、南のベレスさんとこの娘が行方不明って話だ、聞いてないのか?」

「うーん、野良には手を出すなって言ってあるはずなんだけど、どうもキナ臭いなぁ」

「うん?何の話だ」


 噛み合わない会話に、更に顔をしかめるマスターの様子に軽く苦笑すると、少年はお代を置いて席を立つ。


「ごちそうさん、貴重な情報ありがとう」


 店内から突き刺さる奇異の目をさして気にする様子もなく、少年は店の扉をくぐり外に出た。


「というわけだポール、お前は空から怪しい場所を探ってくれないか?俺はまず聞き込みから始めてみるよ」


 少年が肩のオウムにそう告げると、オウムは何も言わずに飛び立った。

 空高く飛び上がるオウムを一頻り見送ると、少年はヨシッ!と気合を入れる。


「それじゃあ世界平和への第一歩、いっちょ行ってみますか」




 日中あれほど猛威を振るっていた日差しも影を潜め、段々に連なった灰色と赤が空一面を満たす。

 街よりほど近い森の木々も赤い闇に染まり、その木陰に身を寄せる少年は、先ほどまでに手に入れた収穫を整理する。


 出没する『魔物』は数が多い。

 『魔物』はかなり統率の取れた動きをする。

 被害者は子供や女性、特に若い娘が多い。

 被害は主に柵の外で起こっている。

 夕暮れ以降は特に危険で、最近は街の門もそのくらいで閉じるようにしている。


「ということは、この辺りもそろそろ危険になってくるってことだよね。

 ……と、早速お出ましかな?」


 遠目に門が閉まる様子を伺いながら、闇から染み出すようにぽつぽつと沸き始めた異質な気配に視線を走らせる。

 グルルルル、とまるで地獄の唸りのような音がそこかしこから響いてくる。

 確かに、これはちょっと女子供では腰を抜かしてしまいそうな光景である。


「ええっと、これはさすがに多すぎるんじゃないかな…」


 未だ増え続ける気配は既に50を軽く越え、街方面に逃がすまいとその囲み徐々に狭め始めている。


「や、やば」


 完全に囲まれる前に、少年は慌てて気配の薄い方へ駆け出す。

 同時に唸り声の主達は彼に向かって飛び掛った。


「うわわわ!ってかこれ、魔物じゃなくて獣の…狼の群れだよね。もしかしてアテが外れた?」


 降りかかってくる牙や爪を身軽な体捌きでかわしつつ、森の更に深い方へと駆け抜ける。


 と、ふいに前方から獣とは別の気配が現れた。

 薄暗い闇に目を凝らすと、姿を現したのは3人の男。

 彼らは体格が良く、森で狩をしていたのかそれぞれ弓や剣を装備していた。

 少年が足をもつれさせながらも3人の元に辿り着くと、真ん中の特に体格の良い隻眼の男に息を切らせてすがり付く。


「た、助けてください!『魔物』に追われてるんです!」


 男は自分にしがみ付くローブの少年に不敵な笑いを浮かべると、彼を背後に回して狼達に向き合った。


「おう、そいつは大変だったな。だが安心しな、あいつらからは守ってやるよ」


 男が大剣を構え、眼前に迫る狼たちを睨み付ける。

 すると今まで勢い良く迫っていた狼達が怯んだように足を止め、一転じりじりとその輪を広げ始めた。


【失せろ!】


 腹の底が震えるような低い声に、狼達はビクリと身を竦ませる。

 男が一歩踏み出すと、狼達は蜘蛛の子を散らすように姿を消した。


「今のは…言霊?」

「良く知ってんな坊主。こいつは魔物にゃ良く効くんだ。まあとにかく無事でよかったな」


 男はニィと笑うと、少年をフード越しにぐしゃぐしゃと撫でた。


「わわっ…あの、助けてくれてありがとうございます。ちゃんとお礼をしますから、今から街まで…」

「ああその必要はない、報酬はここにあるからな」

「えっ?」


 言葉をさえぎられ、あっけにとられる少年の顔に、突然背後から白い粉のようなものが振りかけられた。


「ぷはっ!?…けほっけほっ……な、何を…」


 いつの間に回りこんでいたのか、残り二人の男が背後から囲み、ニヤニヤと少年を眺めている。


「な、何で…これは?」

「ただの眠り薬さ。なぁに半日ほどで目覚めるからゆっくりと休むがいいさ、クククク」

「あ…」


 少年は膝から崩れ落ち、そのまま地面に倒れ伏した。

 その拍子にフードが外れ、青味がかった銀髪や褐色の肌が外気に晒される。


「お頭!こいつ女ですぜ!しかもとびっきりの」

「ほう、そいつは僥倖だな。クク、せいぜい良い所に引き取られることを願うんだな。クハハハハ」

そういえば題名の読みは「おうごん」ではなく「こがね」と読みます。

割とどうでもいい情報ですね。

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