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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第3章 吸血鬼の街
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幕間 - アリス=ベレス

 

 私、アリス=ベレスは、お姉様ことルナルナ=エルディレッドのことが大好きだ。




 私はサライ王国南西部の街、ウエストダウンに住む商人の娘である。

 父の事業はなかなか好調のようで、生きていく分には不自由のない生活を送っている。

 よく「ベレスの屋敷のご令嬢なの?すごいわね」等と声をかけられる事もあるけど、

 私としてはあまりその実感はない。


 確かに私の家は大きい。管理の為の使用人も少なからず存在する。

 でも私や家族は、皆が思うほど華やかな生活を送っているわけではない。

 両親は1代で現在のベレス家を大きくした叩き上げなので、

 今でも誰よりも飛び回り、誰よりも忙しく働いている。

 そして私も、女だてらに将来父の家業を継ぐ事になっており、

 日がな1日机に噛り付いて、たくさんの本や資料と格闘している。

 たまに外に出ても実際の商品に触らせてもらいに行く為など、色気のかけらもない。

 これが世間で言う良家のご令嬢の生活かといえば、恐らくノーだろう。


 もちろん私だって女の子だ。

 人並みにお洒落もしたいし、浮ついた話に憧れる事だってある。

 お誕生日にお父様と揃いのアクセサリーを強請った事もある。

 だけど私の夢の為には、お嬢様気分で過ごす時間は1分たりともないのだ。


 私は小さな頃からお父様の背中を見て育ってきた。

 現場で指揮を取り、強面の商売相手に渡り合い、歯を食いしばって前に進む姿を見てきた。

 それは幼心にとてもカッコイイと思えた。

 私も将来お父様みたいになりたいと思わせるのに十分だった。

 しかしその夢を両親に語ると、なぜか二人に反対されてしまった。

 私には何故それを反対されたのかわからなかった。

 だから私は大声で泣いた。

 その日、私は生まれて初めて親子喧嘩をした。

 二人は私に優しく諭してくるが、私の夢については決して首を縦に振らなかった。

 そこからは意地の張り合いだった。

 二人が私の夢に賛成してくれるまで、私は食事も口にしなかった。

 夜にお腹がぐーぐー鳴って辛かったが、がんばって我慢した。

 次の朝、ようやく両親が折れた。

 私はどんなに大変でもがんばると両親に誓い、

 そこから猛勉強の日々が始まった。




 私には商人とは別に、もう一つなってみたいものがあった。

 それはお姫様である。

 お姫様と言っても王族の娘というわけではない。

 いわゆる物語の中のお姫様である。

 基本家で勉強していた私は、空いた時間に様々な本を読んでいた。

 私は特に、囚われのお姫様を王子様が助け出すという本が好きだった。

 将来私もこうやって運命の人に出会うんだろうと、一時期には本気で憧れていた。

 流石に大きくなってからは、自分はお姫様にはなれないと諦めてはいたのだが。




 そんな私とお姉様の出会いは突然やってきた。


 ある日私は、街でいきなり盗賊に襲われ、抵抗できずにそのまま攫われてしまった。

 そのあまりの出来事に恐慌状態となり、囚われた後の事はあまり覚えてはいない。

 だが、頭の片隅にこれは物語の中の出来事で、

 そのうち王子様が助けに来てくれるんじゃないかという期待があった。

 しかし、結局王子様は現れなかった。


 次の日、盗賊に私はこのまま奴隷として売られるんだと聞いた。

 まだ綺麗な体だから高く売れるだろうと笑うその男に、えもいわれぬ嫌悪感が湧いた。

 王子様は現れない。

 現実を知った私は手を尽くして閉じ込められた牢屋から脱出しようとした。

 そしてそれは全て徒労に終わった。

 このまま私は夢も尊厳も奪われ、奴隷として生きていくという。

 そんな未来に私は膝を抱えて震えていた。


 そこに、運命の人が現れた。



 気を失って牢屋に運び込まれたその人は、青みがかった綺麗な銀髪の女性だった。

 目を瞑っていても美形とわかるその容貌に、私は同性ながらドキドキしてしまった。

 少し癖で跳ねているがツヤツヤの銀髪。

 エキゾチックな魅力を醸しだす鼻筋の通った顔立ち。

 プルプルと柔らかそうな唇。

 きめ細やかな褐色の肌。

 私の貧相な体とは違う女性らしさに満ちた豊満な肢体。

 着ている服は少々野暮ったいものの、彼女はまごう事なき絶世の美女だった。


 気づけば、私は彼女のすぐそばまで近づいていた。

 こんな綺麗な人が動くとどうなるんだろうか。

 彼女は実はどこかのお姫様なんだろうか。

 私は王子様を待っていたというのに、お姫様が来るなんてどんな物語なんだろうか。

 そんな考えが浮かぶと、少し私は笑ってしまった。


 笑う事で少し心に余裕が出たのか、私はいつの間にか彼女の髪を撫でていた。

 彼女の髪は絹糸のようにふわふわでサラサラだった。

 母親譲りの私の自慢の赤毛も、彼女には敵わない。

 少しの嫉妬に彼女の頬をつつくと「ん…」と反応が返ってくる。

 指から帰ってくるその肌の感触も、もちもちと吸い付くようなものだった。

 何この完璧超人。

 こんな完全無欠なお姫様が動き出したら、一体どうなってしまうんだろうか?

 私はこの絶望の檻の中で、それだけが楽しみとなっていた。


 目を覚ましたお姫様は、とても残念な動きをした。




 そのお姫様のおかげで、私達は盗賊のアジトから抜け出すことに成功していた。

 私は立て続けに起こる非常識な出来事に理解が追いつかず、目を回していた

 ただ、この時私は既に確信していた。

 この人はやっぱり、お姫様じゃなくて王子様だったのだと。

 王子様は本当に実在したのだ。

 でも彼女は女の子だから王子様とは呼べない、どうしよう。


 …そうだ、お姉様と呼ぼう。


 想像でお姉様の背後に薔薇でも散らせば、

 彼女はそのまま物語の登場人物のようじゃないか。

 ずっとついていきますわお姉様!



 そんな妄想にふけっていると、お姉様が鋭い声で私を呼んだ。


 気づけば、目の前に矢があった。

 どうやら私に向かって飛んできた矢をお姉様が素手で(・・・)掴んだらしい。

 え、なにそれ?

 お姉様は本当に本から飛び出してきた登場人物なのだろうか?

 そのままお姉様は外に居た盗賊をやっつけに行くと言う。

 その言葉に困惑するが、落ち着いて考えてみればさっきみたいな事が出来る人が、

 たかが盗賊ごときに負けるはずがない。

 私は自分を無理やり納得させ、盗賊のアジトに再び身を隠す。

 きっとお姉様ならなんでもなかったように盗賊をやっつけてくるんだろう。


 結局お姉様は、私が再び不安に駆られ始めた頃に帰ってきた。





 もう一度言おう。

 私、アリス=ベレスは、お姉様ことルナルナ=エルディレッドのことが大好きだ。


 長らく運命の人は王子様だと思っていたけど、

 それは王子様ではなくてお姉様だったのだ。


 出来れば私は、お姉様とイケナイ関係になりたいと思っている。

 だけどお姉様にいきなりそんな事を迫れば、きっと逃げられてしまうだろう。

 私だって、ついこの間まで女の子同士なんておかしいと思っていた人間だ。

 お姉様にもし否定されたらと思うと怖くて仕方がない。


 しかしお姉様は、なんというか無防備なのだ。

 ふとした瞬間に、簡単に体を許してくれそうな瞬間がある。

 軽いスキンシップならまったくと言っていいほど抵抗を見せないのだ。

 お風呂で胸を触った時も、困った顔をするだけで別段拒絶される素振りはなかった。

 もしかしたらお姉様は既に、そういう経験(・・・・・・)があるのかもしれない。

 だったら私にもチャンスがあるのだろうか?


 いや、そう決め付けるのはやっぱり危険だ。

 ここはゆっくりじっくりと外堀から埋めていくべきだろう。

 そのうちなし崩し的に既成事実まで持っていければ、

 お姉様の性格の事だ、きっと困った顔をしながら許してくれるだろう。

 うん、やっぱりこの線で行こう。





 そんな事を考えていた所に、いきなり第3勢力が現れた。

 あいつ、邪魔だなぁ…



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