第22話 ミリアの実力
「ミリア……なぜ………」
娘に心臓を貫かれたミューレンは膝からくず折れ、
驚愕の表情を貼り付けたままどさりと地面に倒れこんだ。
いくらアンデッドとはいえ、これはさすがに致命傷だったのだろう。
倒れ伏したミューレンはピクリとも動かない。
自らの父を手にかけたミリアは、まるで虫けらを見るようにその姿を一瞥し、
腕に付着した赤黒い液体をピッと振り払った。
それはあたかも自らに絡みつく血の呪縛を断ち切るかのように…
「へへ、流石はミリア姐さん。不意を付いたとはいえあのミューレンを一撃だなんてな」
「軽口叩くんじゃないよ、ったく。わざわざあたしの手を煩わせやがって。
騒ぎを起こせとは言ったけど、こいつ等自体に手を出せなんて一言も言ってないよ」
「く、悪かったよ。そんな厄介な魔術を使うガキが居るとは思わなかったんだよ」
「溜め無しの『転移魔術』か、確かに厄介だね。そのボウヤにはここで消えてもらおうか」
ミリアがスッと目を細めると、次の瞬間ディードリッヒの眼前へと移動していた。
「なっ!?」
ルナルナは、その目で追えなかった彼女の動きに驚愕した。
そして気付いた時には、ディードリッヒの小さな体は民家の壁に叩きつけられていた。
「ディードリッヒ!」
ルナルナは吹き飛ばされたディードリッヒの元に駆け寄った。
彼は頭部をしたたかに打ち付けた様子で、気を失っている。
「ふん、大した危険察知に反射神経だ。貫くつもりが短剣でガードされちまった」
ミリアの言葉通り、彼の二振りの黒い短剣は刃の部分が粉々に砕けていた。
「ちっ、こんな往来で元の姿なんて晒したくかったのに」
ルナルナはディードリッヒを庇うように立ち塞がり、すぐさま臨戦態勢に入った。
しかしそんな彼女の様子にミリアは肩を竦める。
「安心しな、今は姫サンと事を構えるつもりはないよ。
下手に手を出して魔王にでも出張られたら、こっちはまだ弱いからね」
「どういうことだ?大体ミューレンはあんた達の為にこの街を作ったんだ。
何故こんな真似をする」
「へっ、こんな食事節制のかかった窮屈な街より、俺たちが好きに出来る場所があるのさ。
…いや、これから出来るんだよ」
会話に割り込み軽口を叩くヴァルガンに、ミリアは一喝する。
「余計な事言ってるんじゃないよ、あたしは口の軽い男は嫌いだよ!
ま、そうだね。
世の中には魔王やそこに転がってる腰抜けに従わぬ者も居るってことさ。
それで、賛同者はどのくらいになった?」
「へへ、およそ8割はこっちに付くってことだ」
「上出来だね。すぐにそいつ等を引き上げて『新天地』に向かうよ」
ヴァルガンの言葉にミリアは満足気に頷くと、悠然と身を翻す。
「待て、逃げるのか?」
ルナルナの制止の言葉に、ミリアは笑いながら振り返る。
「おや、まだやるってのかい?別にいいけどね。
ここで戦えば姫サンはともかく、後ろのボウヤはただじゃすまないかもしれないね」
「くっ」
くつくつと笑うミリアにルナルナが歯噛みする。
「焦らなくても、あんたとはそのうちどこかでやりあう事になるさ。
その時を楽しみにしてるんだね」
無人の往来のど真ん中を悠然と去っていくミリアとヴァルガンの姿を、
ルナルナはただ黙って見守る事しか出来なかった。
今回はかなり短いですがご容赦ください。




