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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第3章 吸血鬼の街
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第18話 共存の形

「ふはははは、そうか。

 では私の『食事』の場に居合わせたと、そういうことか。

 それは少々見苦しい所を見せてしまったものだ」



 失敬、と言わんばかりに額に手を当て、ミューレン町長は笑った。


「俺は『食事』なんかより、その後の『茶番』の方が気になったわけだけどね。

 まあ、何であんな事してるのか大体は予想が付くけどさ」


 ルナルナは苦笑しつつ肩をすくめる。

 そんなルナルナの言葉にミューレン町長は表情を引き締め、一転真面目な様子で語り始めた。


「『茶番』とは言うがな、あれは必要な事なのだよ。

 我々は誇り高き吸血鬼の一族だ。

 だが同時に人間の血がなければ生きてはいけぬ。

 そういう意味では我々は人間に依存しているのだ。

 しかし我々に喜んで血を差し出す人間など、そうは居ないだろう。

 致死量を抜かれると我々の眷属となってしまうしな。

 普通にやっていたのでは人間と良好な関係など築けるものではないのだよ」

「そこで『勇者』を育成して、変則的なスケープゴートを作っているわけか」


 ルナルナの言葉にミューレン町長は大きく頷く。


「そこまで解っているのだな、まったくその通りだ。

 我々は人間にとって、ただの強大な敵であってはならないのだ。

 そんな事になれば彼らとの共存など夢のまた夢であろう。

 我々に対抗しうる者(・・・・・・・・・)が存在すれば、

 その相手として我々の居場所が出来上がるわけだよ。

 それに人間の成長は実際面白いものだ。

 彼らを相手にするのは、長く生きる我々にとっても良い余興となるのだよ」


 強大な力を持ちながら、命に直結する食を人間に頼らざるを得ない。

 一見いびつに見えるこの街の構造は、そういう事情から生み出された物だった。

 しかしルナルナにはまだいくつかの疑問が残っていた。


「それは全ての吸血鬼がその方針に沿っていなければ破綻するんじゃないか?

 例えば一人でも吸血鬼が人間を大量虐殺すれば、人間は間違いなくあんたらを排斥するだろ」


「ああ、そこは厳しく規律を作る事によって抑制している。

 食事で『致死量』を抜かないこと。『食事』以外では人間には手を出さないこと。

 これを破れば勇者に倒される(・・・・・・・)という形で死を賜る事になっている」

「ほー、だがそれでは逃げる奴も出てくるんじゃないか?」

「我々は死よりも誇りを重んじる一族だ。

 そんな輩は居ないと思いたいが、もしそういう者が現れたら我々が責任もって処分しよう」

「なるほど、そこはお母様のやってる事に近いんだね」

「魔王ヴァーミリアか。彼女のやろうとしている事は恐らく我々よりも困難だろう。

 我々は一族の誇りを拠り所に意思の統一が図れるが、魔物全体でそれは不可能だ。

 自らが抑止力になるとしても、どうしても限界があるだろう」


 ミューレン町長の言う通りだった。

 魔物だけを押さえつけても、どこかで反発されて破綻するのはルナルナも予見していた。

 そこには人間側の力も必要なのだ、とルナルナは考えていた。

 魔物と人間の双方が歩み寄ってその意識を変えていかない限り、おそらく成功しないのだ。

 故にルナルナはその手伝いがしたいと考えているのだ。

 そしてそれこそが、ルナルナの旅の真の目的であった。


「難しいのは百も承知だよ。でも出来るか出来ないかは実際やらなきゃわからないだろ。

 だから俺はお母様の理想を実現する為に、今ここにいるんだからな」

「ふははははは、さすがは魔界の姫といったところか、勇ましいことだな。

 だが私もそういった無謀は嫌いではない。

 我々に出来る事があれば遠慮せずに言うがよい、出来うる限りは協力しよう」

「ああ、ありがとう」


 ルナルナが握手を求めてきたミューレン町長の手を握りかけたその時、

 不意に扉が開き、何者かが部屋に入ってきた。



「んな、結界はどうした!?」



 突然現れた侵入者に、ルナルナは驚いて扉の方へ振り返った。

 今のルナルナとミューレン町長は本来の姿。すなわちラミアと吸血鬼の姿である。

 人間の街の中心であるこの場で、この姿を晒すのはどう考えてもまずかった。


 ルナルナ視線の先に現れたのは、彼女をここに案内した受付の若い女性であった。


「ああ、安心するが良い。彼女も我々の一族だ」

「へ?そんな気配全然感じなかったんだけど…」


 結界を破られても気にしていないミューレン町長とは対照的に、ルナルナは驚いていた。

 妖気や魔力を隠されてもミューレン町長が吸血鬼だと見破ったルナルナである。

 そんなルナルナにも、彼女が吸血鬼であるという気配を感じ取る事が出来なかったのだ。


「ああ紹介しよう。彼女は我が娘にして我が右腕、ミリア=ビクトリーノだ」


 ミューレン町長に紹介された彼女は、スカートの裾をつまんで可愛らしく会釈した。


「俺が気づけないって、どんな隠蔽能力だよ」

「うむ、ミリアは主に諜報として動いているからな」


 未だ驚きが隠せないルナルナに、

 当のミリアは結界を破るのも正体を見破られないのも当然、という笑みを浮かべていた。


「して、急ぎの用だったのだろう。一体何があったのだ?」

「ハッ!緊急事態です」


 ミューレン町長の問いに、ミリアは片膝をついて報告をする。


「一族の者がどうやら大量に眷属を作り、街で人間を襲ったとの事です」

「なに!?」


 先ほどのミューレン町長の言葉を全否定する事体に、彼は目を剥いて驚きの声を上げた。


「眷族は街の者か?襲われた者の安否は!?」


 ミューレン町長は、ミリアに食って掛かるがごとく返答を求める。

 その様子に彼女は一瞬たじろぐが、すぐさま表情を戻し報告を続けた。


「眷族となった者達は街の者と思わしき服装だったとのことです。

 そして襲われた者ですが…」


 そこでミリアはミューレンから視線を逸らし、横を向いた。

 彼女の逸らした視線は、ルナルナの金色の瞳にぶつかった。




「彼らに襲われたのは、ルナルナ様のお連れと思わしき人物のようです」



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