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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第3章 吸血鬼の街
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第16話 吸血鬼の街

 

「ところでお姉様、次はどちらに向かっているの?」


「あーそうだな、次はー…」




 復活したポールに御者をまかせ、馬車はひたすらに荒野を進んでいた。

 ルナルナの隣に座るアリスは、サウザンブルグ城での土産話に花を咲かせていたが、

 ふと、次の目的地をルナルナに訪ねてきた。

 ちなみにディードリッヒは後ろの席で未だに不貞腐れている。

 ルナルナはアリスの問いに少し逡巡した後、その目的地の名を告げた。


「オーウェルシティ」

「え?それって…」


 ルナルナの答えにアリスはギョッと目を見開く。

 そこはサライ王国を北東に抜けた隣国の街であったが、

 その街の噂はアリスの居たウエストダウンにまで届いていた。


「その様子だとやっぱり知ってたか。そう、その有名なあの街(・・・)だよ」



 ――『吸血鬼の棲む街』として。



 さっと青ざめるアリスと対照的に、ディードリッヒは興味深々に身を乗り出す。


「へぇ、吸血鬼の街!ボク吸血鬼って見たことないんだよね。やっぱり強い?」

「ああ、個体によって強さにかなりバラつきはあるけど、

 種族として見れば魔物の中でも相当格は高いよ」

「へー、それは楽しみだな~」


 ディードリッヒは先ほどまでの不機嫌はどこへやら、楽しそうに鼻歌を歌い始めた。

 さすがのバトルジャンキーであった。


 しかし、彼とは逆にテンションが一気に下がった人物がルナルナの袖を引っ張る。


「ねぇお姉様、何故そんな危険な街にわざわざ近付こうとするの?」


 そう、アリスはルナルナが『荒野』は危険じゃないからと言ってついてきたのである。

 しかしルナルナがこれから先旅するのは魔物と人間の境界線。

 常に何らかの危険が付き纏うのは想像に難しくない。


 自分が魔物であることを告白できずに、ずるずるとここまで来てしまったルナルナだったが、

 考えてみれば彼女を無理に連れて行く必要はない。

 ここで彼女は家に引き返した方が彼女の為でもあるだろうと、ルナルナは思い至った。



「なぁ、アリス」

「なぁにお姉様?」

「アリスに一つ、謝っておかないといけない事があるんだ」

「何よいきなりかしこまって」


 アリスはルナルナの片腕に張り付き、少し不満げにルナルナを見つめている。

 その瞳は、先ほどからかすかに揺れているような気がした。


「確かに俺は『荒野』は安全だと言った。そしてそれ自体は本当だ。

 だけど俺がこれから目指す先は別だ。ここから先の目的地は、結構危険な所が多くなる」

「それは……」


 アリスの瞳の揺らぎが大きくなる。


「だからアリス、お前はここで引き返して…」

「帰らないわよ!」


 アリスの強い口調に、ルナルナはハッとアリスを見返す。

 彼女の瞳の揺らぎは消え、そこには強い意志の光が輝いていた。


「商人の旅は常に危険と隣り合わせよ。

 危険だからって引き返してたら商売なんて出来ないの。

 それがとっても強いお姉様と予習の旅が出来るの。

 危険だって言うなら、かえって好都合だわ!」


 アリスはルナルナに絡ませた腕に力をこめる。

 それはまるで、絶対離れたくないと主張するかのように。


 よくぞここまで即座に理論武装が出来るものだと呆れながら、

 ルナルナはどうやってアリスを説得したものかと頭を悩ませていた。


 そこで後ろから、場違いにのんびりとした声が降ってきた。


「別に良いんじゃないついて来たいって言うんなら。

 どうせ死んだらそれまでだし、なんならボクが守ってやってもいいよ」

「はぁ?何であんたなんかに!」


 ディードリッヒの言葉に、アリスはあからさまに胡散臭そうな声を上げる。

 確かに彼らは、先ほどまであれほどの喧嘩をしていた相手同士なのである。

 どういう心境の変化なのだろうか?と、ルナルナも不思議に思う。


「だって『足手まとい』を放置してるとお姉ちゃんも気になって動きにくいでしょ。

 だったら危険が迫る前にボクが安全な所に飛ばしてあげる(・・・・・・・)よ」


 なるほど、彼の転移魔術はそんな使い方も出来るのか、とルナルナは感心する。


「これでお姉ちゃんがボクを『便利な仲間』と思ってもらえれば、それだけで嬉しいよ」


 彼はニコニコと献身的な言葉を続けた。


 しかしアリスは、ルナルナが気付かなかった彼の言葉の真意に気づき、後ろを振り返る。

 その視線に気づいた彼は、にっこりとポイントを稼いだ余裕の表情で応えた。

 足手まとい(・・・・・)呼ばわりされたアリスは何も言えず、ギリリと奥歯を噛み締めた。


 デコボコな荒野を、デコボコな仲間の乗った馬車が更に突き進む。






 いくつかの村や町を経由し、5日後、ルナルナたちは国境を越えた。

 国が変われば様子も変わると思いきや、しかし視界を埋めるのは変わらぬ荒野であった。

 強いて言うなら、夜の気温が少し下がった程度だろうか。


 ルナルナたちが居る場所はサライ王国の隣国、その名をウォルドニア王国と呼んだ。

 この国も魔王ヴァーミリアと密約を交わした国の一つであった。

 基本的にはここもサライ王国と同じで魔物は管理されており、人を襲うことはほとんどない。


 ただしこの国には一つだけ例外があった。

 それがルナルナたちが今から向かう街、オーウェルシティである。


「アンデッドが跋扈する街だなんて、想像するだけで恐ろしいわね。

 それじゃあおちおち街も出歩けないじゃないの!」

「いや、実際はそう出会うこともないらしいよ。

 噂は知ってるけど見た事ないって人の方が多いくらいだって」

「あらそうなの?お姉様詳しいわね」


 そう、その街では頻度は低いが魔物が人を襲うのである。

 しかしそれは、魔物と人との共生に成功した一つの形でもあった。

 今回ルナルナは、その世にも珍しい成功例を確かめる為に彼の地を訪れようと決めたのだ。



 世界が夕暮れの赤に染まる頃、馬車の前方に街らしき建造物が見えてくる。


 その街はかなり大きく、サライの王都サウザンブルグに匹敵しそうな規模を誇っていた。

 サウザンブルグは城を中心に栄えていた印象だが、ここは街全体が発展していた。

 ルナルナはかつて見た事のないその圧倒的な街並みに、思わず感嘆の声を零す。

 

 街の入り口から道なりに馬車を進めると、

 そのまま整備された大きなメインストリートへと導かれた。




 そこで、ルナルナ達は吸血鬼と遭遇した。



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