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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第2章 サライ王国
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第12話 裏切りの条件

 

「じゃあボクもお姉ちゃんの仲間にしてよ!」


「はぁ?」



 いきなり突拍子のない事を言い出す魔人の少年に、ルナルナは思いきり眉をひそめる。

 先ほどまで、この赤い空間が原形を留めないほどの殺し合いを展開していた相手である。

 はいそーですかと了承して、背中を向けた瞬間刺されないとも限らないのだ。

 それに、普段から言動が胡散臭い少年である。

 その言葉がどこまで信用出来るものか、わかったものでもない。


「…お前の事は信用できないし、そもそもお前はルウィンを殺そうとした。

 つまり俺の目的の邪魔をしたということだ。悪いがそれを飲む事は出来ないな」


 ルナルナの拒絶の言葉に、しかし少年はこともなげに答える。


「前回も今回も、ただ仕事として依頼を受けただけだよ。ボクの意思じゃない」


 その割には嬉々として大鎌を振っていたように見えるが?

 と、ルナルナは心の中で突っ込みを入れる。


「それに、ボクにはもう帰る場所はないんだ」

「……ん……そりゃ、どういうことだ?」

「今回で2回連続『仕事』を失敗してるし、この『仕事場』も壊れちゃったからね。

 無事に帰ったところで、きっとボクはお払い箱になるんじゃないかな」

「………はぁ……そりゃ後愁傷様…だな」


 少年にも事情があるのだろう。

 だが、少なくともルナルナには関係のない話だった。

 ルナルナからすれば彼は『罪』を犯したのだ。

 ならば彼が罪を償うのは当然の事であろう。

 特別に見逃すなんて以ての外なのだ。


 そう、以ての外なのだ。




「ねぇお姉ちゃん。とりあえずコレ飲まない?そんな様子じゃまともに話なんて出来ないでしょ」

「…………はっ!?」


 少年の言葉にルナルナは我に帰る。

 ルナルナの視界には、大きくはだけた少年の胸元が映っていた。


「う、うわあぁ!?」


 ルナルナは慌てて飛びずさる。

 よく見ると少年の首元は、何かの液体でべっとりと濡れていた。

 そして少年は、何故かまんざらでもなさそうな顔をしている。

 彼女は一体何をしたのだろうか…


「こ、断る!そいつを飲めばお前の要望を飲んだ事になるんだろう?」

「あ、そういう条件になっちゃってたんだっけ?じゃあそれは取り消すよ」

「…タダでくれるって事か?」


 訝しげな視線を送るルナルナに、少年は大きく頷く。


「別にボクはこのまま(・・・・)でもいいんだけど、

 魔力回復薬(そんなもの)がなくても、結局お姉ちゃんは僕と取引をすることになるからね」

「どういうことだ?」

「話は後で。誓って騙したりなんかしないから、とりあえず飲んでよ」


 少年はそう言って、小さなビンのような物をルナルナに投げ渡す。

 ルナルナはそれをぶっきらぼうに受け取る。

 ちらりと少年を視線を送った後、ルナルナは意を決して粘度の高いそれを喉に流し込んだ。


「ぐ……くうぅ、相変わらず不味いな、コレ…」


 ルナルナは思わずえずきそうになる口元を押さえ、涙目になりながら何とか嚥下する。


「元はただの樹液だからしょうがないよね」


 少年はその様子を、よく見る光景と言わんばかりに見守っていた。



 魔力回復薬。


 今しがたルナルナが飲んだソレは、非常に貴重な物だった。

 由来となる原材料が、いわゆる『魔界』にしか育たないある樹木の樹液だからだ。

 その樹木は周囲のマナや瘴気を取り込み、幹の内部に溜め込む特性があった。

 そしてその樹液を煮出したのが、この魔力回復薬と呼ばれる物であった。

 だが、この魔力回復薬は非常に不味いことでも有名であった。

 良薬口に苦しを余すことなく体現した、正にキングオブ良薬であった。


 初めてコレを口にした奴の気が知れない。

 涙に歪む意識の中で、ルナルナはそんな感想を抱いていた。


 しかし、それが気付けとしても働いたのか、

 ルナルナは先ほどとうって変わり、すっかり落ち着きを取り戻していた。




「で、さっきの言葉の意味を教えてもらおうか」

「うん、ボクの希望が通っても通らなくても、結局起こる事は変わらないってことさ」

「ん?理解が追いつかないな、つまりどういうことだ?」


 随分変わるだろうとルナルナは否定したくなるが、

 自信満々の少年の様子にその言葉を引っ込め、更に先を促した。


「例えばここでお姉ちゃんと仲間になるとしたら、

 ボクはその証明になる物をお姉ちゃんに持ってくると思うんだよね。

 で、それが認められればボクは晴れてお姉ちゃんの仲間に」

「まぁ、そういうことだろうな」


 それがどういうものかは、今の所ルナルナには想像できないが。


「逆にお姉ちゃんが、ボクの話を完全に突っぱねてボクを捕らえようとする」


 ルナルナは実際そうする気満々であった。


「そうなった場合、ボクは全力で逃げるよ。で、お姉ちゃんはボクを捕まえられると思う?」

「は?」



 先ほどの勝負に勝利したルナルナである。当然捕まえるのは容易い…

 と考えられるほどルナルナは楽観的ではなかった。


 ラミア形態での猛攻すら捌ききった体術。

 規格外の魔術制御能力に転移魔術。

 更に言えば先ほどの勝利は、ルナルナがたまたま勝利条件を(・・・・・・・・・)満たした(・・・・)為、

 偶然掴んだようなものだった。

 むしろ内容では、ルナルナがやられていても何らおかしくはなかった。


「でもボク、出来ればお姉ちゃんと一緒に居たいから…」


 そこで少年は少し視線を下げ、頬を染める。

 うげぇー、こいつ本気なのか?とルナルナは毒づく。

 男に惚れられて嬉しい気持ちなど、ルナルナにはこれっぽっちもないのだ。


「だってあんなに楽しい勝負初めてだったもん。またやろうね!」


 ただのバトルジャンキーだった。



「で、お姉ちゃんはどっちにする?」

「そうだな、非常に遺憾ではあるが、確かにお前の言う通りにしかならなさそうだ」


「ちなみにボクが考えてる証明の証は、きっとお姉ちゃんの助けになる物だよ」

「ほー」


 実際、少年が何を持ってくるのか、興味がないわけではなかった。

 このまま逃げられるのも癪である。

 もしかしたらこの先、少年に罪を償わせられる機会が来るかもしれない。

 となると、今の話に乗るのがルナルナにとっても一番妥当になるのではないか。

 あくまで何もできずに逃げられるよりはマシ、という前提の話だが。


「そうだな、それならまずはその証明とやらを持ってきてくれ」

「やたっ!じゃあ1日だけ待っててね。ボク、お姉ちゃんのために張り切っちゃうぞ~」


 少年はやる気を表すように、ブンブンと腕を振り回す。


「あ、そうだ。そういえばすっかり遅くなったけどボクの名前はディードリッヒ。

 本当は知ってるけどお姉ちゃんの名前、お姉ちゃんからちゃんと教えて欲しいな」

「…ルナルナだ」

「えへへ、ありがとうルナルナお姉ちゃん!じゃあ明日を楽しみにしててね!」





 翌日。得意気に佇むディードリッヒの目の前で、ルナルナは頭を抱えていた。


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