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黄金の月の蛇姫様  作者: みつきなんとか
第2章 サライ王国
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第11話 幻魔の刃

 

「く……相変わらずめちゃくちゃ持っていかれるな(・・・・・・・・)



 そのナイフは、黒から赤へグラデーションのかかった禍々しい刀身を持っていた。

 峰の部分もギザギザで、いわゆるオーラが立ち上っているような変わったデザインである。

 そして、実際にそこからは魔力という名のオーラが噴き出していた。

 そのナイフの名を『幻魔の刃』といった。


「ふーん、切り札って言うだけあるね。こんな強烈な魔力、ボク初めて見たよ」


 少年は、先ほどまではただ周囲に垂れ流されてるだけだったルナルナの魔力が、

 ナイフに汲み上げられ、爆発的な勢いで立ち昇っている様子に「おー」と感嘆の声を上げた。


 そのナイフは、一種の呪いのアイテムのような物だった。

 効果は割と聞いた事のあるようなありふれたものだ。

 いわゆる『使う人間の魔力を攻撃力に変換する』というものであった。

 しかしこのナイフは使用者から吸い上げる魔力量が桁違いなのだ。

 並の魔術師では数秒で魔力が底をつくという、欠陥品としか思えないようなものだった。

 燃費が悪い、ただその一言に尽きるアイテムである。

 ではこの武器の長所とはなにか?

 それは込めた魔力分だけ、天井知らずに攻撃力が上がる所である。

 並の魔術師が数秒だけ全魔法力を消費し、それなりの攻撃力を得るでは割に合わないが、

 この武器の魔力消費に耐えられる、桁違いの魔力を有する者がいれば話が変わるのである。

 それが、魔力保有量だけなら(・・・・・・・・・)魔王をも凌ぐ(・・・・・・)者が居ればなおさらである。


 そう。

 この武器は魔術が使えず、普段その有り余る魔力を死蔵させているルナルナにとっては、

 正にうってつけの武器であった。



「正直、この後やってくる副作用を考えるとかなり鬱になるんだけどな、

 俺はここで死ぬわけにはいかないんだ。悪いけど思いっきり行かせてもらうぜ」

「ほえー、まさに『必殺技』だね。でもさ、結局そのナイフが当たらないと意味がないよね。

 例えばボクがその攻撃避け続ければ、お姉ちゃんすぐガス欠になるんじゃないかなー」


 少年は相変わらず余裕の笑顔を崩さない。

 しかしルナルナにはそんな少年の揺さぶりは通じなかった。

 なぜなら彼女はそれこそ『一撃必殺』のつもりでそれを手にしたのだから。


「避け続ける、なんてありえないな。俺は今からお前を跡形もなく(・・・・・)叩き潰すんだからな」

「えっ?」


 ルナルナが幻魔の刃を掲げて全開の魔力を吸わせると、まばゆい閃光が赤い空間を穿つ。

 それは頑強に補強したはずの天井をも貫き、さながら天に立ち上る光の奔流へと変貌した。


「ちょっと待って!お姉ちゃんそれ反則!」

「じゃあな」


 ルナルナは少年に別れを告げると、立ち昇る光の塊を少年に向かって振り下ろした。

 一瞬だけ黒い大鎌で襲い来るソレに抵抗する少年が見えたような気がしたが、

 次の瞬間には、目の前の赤い空間ごと少年の居た場所を光が飲み込み、

 轟音とともに抉り取った。


 後に残ったのは天井から壁にかけて大穴が開き、瓦礫が散乱した赤い空間だけであった。



「はぁ、はぁ…結構やばい量持って行かれたな。これ、持つのかな……」


 ルナルナは幻魔の刃を収め、荒い息を付いて赤い壁に寄りかかった。

 そのままずるずると座り込むと、何かを(・・・)押さえ込むように(・・・・・・・・)自分の体を抱いて震え始めた。




 カラン、と瓦礫が音を立てた。

 単に瓦礫が崩れただけだろうと最初ルナルナは気にも留めなかったが、

 そこでふと何かを感じ、顔を上げる。


 いる。


 そう、瓦礫の下に何者かが潜んでいると、その気配が伝えてきたのだ。

 そのうち瓦礫はガラガラと音を立て始め…


「ぷはー!死ぬかと思った」


 確実に死んだと思われた魔人の少年が、瓦礫の山からその姿を現したのだ。


「なっ!?お、お前!なんで生きて…」


 ルナルナは信じられないものを見る目で少年を見た。

 実際魔人といえど、あれを食らって無事で居られるはずがないのだ。


「はー負けた負けた。降参だよお姉ちゃん!」


 あっけらかんと告げる少年は、瓦礫に汚れているものの体はむしろ無傷にすら見えた。

 負っているダメージは明らかにルナルナの方が大きい。

 しかし、さっきまでは頑なに戦う意思を見せてきた彼が、この有利な状況で降参を告げる。

 ルナルナから見ても、彼の言動はどうにも怪しかった。


「訳がわからない、何故この状況で負けを認めるんだ?」

「え?当然じゃない。閉じ込めてた部屋はこの通りでもう逃げられ放題。

 これじゃ『仕事』を全うできそうにないからさ。

 それにボクの武器も壊れちゃったからね、それはもう木っ端微塵に」


 どうやら先ほどの一撃を受けたときに破損したようだ。

 しかし、やはりそのくらいの犠牲でなんとかなるとはルナルナには思えなかった。


「あ、ボクが生きてるのが不思議って顔をしてるね。

 当然あんなのまともに食らったらボクだって無事じゃすまないよ。

 転移の魔術で回避したに決まってるじゃない」


 事も無げに告げるが、あの一瞬で転移の魔術など普通は展開できるものではない。

 やはり彼の魔術制御能力は規格外だと、ルナルナは改めて認識した。



「ところでお姉ちゃんさっきから具合悪そうだけど、大丈夫?」

「く、誰のせいだと思って…」

「え、ボクのせい?でもちょっと尻尾切ったくらいでこんなになるかなぁ」

「ちょ、今俺に近づくな!今はヤバいんだ!何がとは言えないが色々ヤバいんだ」

「何そんなに慌ててるのお姉ちゃん。というか、何か顔が真っ赤だよ?」


 そう、今ルナルナは非常にヤバいのである。



 主に性的な意味で。



 普段はラミアの本能など、その理性で完全に押さえ込めるルナルナであった。

 だが、魔力が枯渇した場合のみ、そのタガが外れてしまうのだ。

 ルナルナが、あえて魔術制御の鍛錬を避けてきた理由もこれであった。

 魔術が使えなければ魔力が減る事もあるまいと。


 このままでは少年を襲い、お互いに不幸になる可能性があったため、

 仕方なく事情を説明する。

 しかしここで少年は思いがけない発言をする。


「んー、ボクお姉ちゃん相手ならいいよ」

「はぁ!?」

「さっきも言ったじゃない、『仕事』がなければお姉ちゃんに惚れてもいいってね」

「お、お前が良くても俺が嫌なんだよ!」

「そっかぁ残念、フられちゃったや」


 相も変わらずニコニコと笑顔の少年である。


「とりあえず、俺が収まるまで離れていてくれ!」


 ルナルナはなるべく少年を見ないようそっぽを向く。

 そんなルナルナの様子に、少年は悪戯っぽい表情でごそごそと懐から何かを取り出した。


「じゃあこれもいらない?魔力回復薬~」

「えっ…いります!買います!おいくらですか!?」

「うーん、どうしよっかな~」


 即座に飛びつくルナルナに、少年は少し考え込む。

 しばらくした後、少年は楽しそうに顔を上げ、名案とばかりに手を打った。




「そうだ、じゃあボクもお姉ちゃんの仲間にしてよ!」



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