壊れた世界
栄華を誇った巨躯が断末魔の叫びを上げながら大地に伏する。その光景は雄大であり、大自然を象徴するかのようだった。
動かなくなった魔物を横目で見ながら、私は大きく息を吐いた。今回も生き延びた。しかし次はどうなるか判らない。危険と隣り合わせの戦場でいる限り、いつか運命の糸が切れるときがくるだろう。だが、そのときはそのときだ。自然の鋭牙に立ち向かえるほど人間、私は強くできていない。しかし、抵抗はする。どんな状態になったとしても反逆の手を下ろすことはしない。
地球が魔物と呼ばれる異界の生物に支配権を奪われたのはいつだっただろうか。少なくとも私が生まれるよりは前には違いない。地球上の人間たちが魔物に食い散らされ、今では人間の個体数は魔物よりも少ない始末だ。といっても憶測だが。既に地球にはかつての科学は存在しない。よって人間の数を数える手段はないのだ。
私は、魔物の目をかいくぐりながら、時には戦闘をしながら、生き延びている。幸い私には力がある。微小ながらの抵抗手段は持ち得ている。
だが私は本当は生きるつもりは無かった。両親、村のみんなが魔物に襲われて私だけが生き残り、生きる指針を失った。僅かな抵抗をして死のう、私は思った。
あのときまではーー
両親が死んで、村を離れることを余儀なくされ、各地を転々と旅をするのにも徐々に慣れ始めて一年。このときはいつでも死ぬ覚悟はできていた。だが、思ったよりも自分はしぶとかったようだ。幾度なく危険に晒されながらも死ぬことはなかった。そしてとある廃墟に訪れた。潰れた痕跡や瓦礫の痛み具合から見て、魔物に襲われてそう時は経っていないとみた。私は辛うじて残っていた建物で野宿をとった。火は起こせない。普通の獣と違い、奴らは火など恐れない。迂闊に焚き火をすれば、奴らの格好の餌食だ。だが、あの日の夜は凍てつくような寒さだった。流石に火を焚かなければ凍死してしまう。幸い魔物も寄ってこなかった、が代わりのモノは寄ってきた。
少女だった。
その少女は私を警戒しているのか、瓦礫の山に身体を隠して、頭だけをひょっこりと出していた。
「そんなとこに隠れてないで、こっちに来なさい」
ぶっきらぼうな言い方になってしまったが少女は臆することなく、とことこ歩いてきた。案外豪胆な性格なのかもしれない。
「君はここの集落の住民かい?」
こくこく、少女は頷いた。やはりここの村の生き残りか、と私は納得した。
事情を聞く限り、数日前に魔物がやってきて村の人々を襲ったらしい。この少女は瓦礫に覆い被さっていて、難を逃れたようだ。
少女は私が分け与えた食料を懸命に咀嚼していた。その間にも私はこの子の処遇を模索していた。後味は悪いがこの子を見捨てて此処を去るのが得策であると思っていた。連れて行く選択肢は既にカテゴリされていない。自分だけの身を案ずるだけでも精一杯なのに、更にもう一人追加するのは無理である。一人と二人では危険度が全く違う。他人を気にしながら魔物と戦うのは不可能を通り越して無謀である。私はー
「行くアテがないなら…一緒に来る?」
私は自分の言葉に驚愕した。なぜ。どうして。いや、理由は解っている。この少女が…私と似ているからだ。魔物に襲われ、たった一人生き残り、生きる意味を失った。そのことに何か感じたのかもしれない。それに少女は幼すぎる。ひとりでに生きていくにはこの世界は過酷すぎる。少女は考えるまでもないとばかりに頷いた。
そこから先は私にとってとてもつらいものだった。だが、同時に甘美な、潤った生活でもあった。少女と共に過ごしていくにつれて私は生きる意味を見いだし始めた。それはこの少女を守ること、守るために生き抜くことーー
だが、神というのは残酷なもので見捨てられた人間を擁護しようとしなかった。少女は病を患ってしまった。この世界で病魔にとり憑かれることは死に直結する。日ごとに少女は弱まっていきおそらく最後になるだろう日にこう告げた。
「生きて…」
短い言葉に秘められた思いはとてつもなく大きなものだった。生きる。それはこの世界ではとてつもなく難しいことなのだ。少女が死んでから私は本当に生きる意味を失ってしまった。それこそ自殺してしまおうと思うくらいに。けれど少女の言葉がそれを押しとどめてくれた。生きる。私は少女の意志を汲み取り、大自然に刃向かうと決めたーー
あの日のことを懐古しながら、私は道なき道を歩いた。一面は荒野で、緑は無い。まるで、この世界にたった一人生き残ったみたいだ。たとえそうなっても、私は生き続ける。私に光を魅せた、あの少女を思いながら、この壊れた世界を行くのだ。
どうもカヤです。五作目です。相も変わらずこんな作品になってしまいました。反省はしています。だけど後悔はしていません。多分これが僕の持ち味なのでしょう。そう信じたいですね。というか信じないと。自分が自分自身を信じなくてどうするんだ!今僕は決意を固めました。はい、すいませんでした。なるべく話が解りやすいものを作ります。きっと…