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夢魂の対話



「お願いです先生! 先生はどんな病気でも治せるのでしょう!」


「な、なんでも治せませんが、大体は…」


「じゃあこの子を治してください! 三日前から苦しそうなんですって!」


「い…いやしかしですね…」



若い女性の腕の中には、毛布に包まった何かがあった






「わ……私は獣医じゃないぃ!!」


その毛布の中には、猫とも犬とも分からぬ動物がいた









「えー? 断っちゃったんですか?」


フドウさんが羊羹を摘みながら聞いてきた

相変わらず呑気な人だ


「まあ、私は獣医専門ではないし…それに…」



あの生き物を見て最初は驚いた



顔は猫。耳は犬。足はライオンみたいで、狸のようなしっぽ

まるで昔どこかの本に載っていた鵺の様で


そんな得体の知れない生き物の治療などできるわけが無い


ましてや私などでは……



「えー! なんでですか!」


いつの間にか、襖の方にツミコ君が立っていた

そしてずんずんと音を立てながら私の方に歩み寄ってきた


「なんでですか! ホシスジさんならなんでも治せるのに」


「わ、私はそんな万能ではないし、それに動物は専門外…」


「そんなの! ホシスジさんの力でなんとかなりますよ!」


ツミコ君が目を輝かしてそう言った

…どうやらツミコ君は私が天才か何かと勘違いしているらしい


横目でフドウさんを見ると、こちらを見ながら呑気に茶をすすっていた



説明するのも面倒なので私は自分の部屋へ向かった


「とにかくあの動物の治療はしない!」


私は2人を見ずに部屋に入った


パタン、と戸を閉めると、さっきまで聞こえていたツミコ君の声が聞こえなくなり、しんと部屋は静まり返る


首に巻いたマフラーを剥がし、着ていた上着も脱いだ

そして畳の上で大の字になって寝た


ふと、あの動物の飼い主の事を思い出す


私が無理だと言った瞬間

あの若い女性は今にも泣きそうな顔をしていた


そういえばあの動物の名前を聞いたのだった

確か名前は……



「枝雲だ」


突然耳元で声がしてハッとなって目を開けると


目の前にあの鵺がいた


「どうした医者様驚いて声が出んか」


まったくその通りだった

私は驚いてただ目を瞬く事しかできなかった


その鵺は顔が猫。耳が犬。尻尾が狸の、あの病気の鵺だった


「ぬ……え」


「わさは鵺ではない」


ライオンの前足で私の鼻を小突いた

しかしなんで鵺がここに…


「これは夢だ」


「え?」


「お前の、そしてわさの夢だ」


周りを見渡すと、真っ暗で遠くが見えない


ここにいるのは私と鵺だけだった

私は少し体を起こし、鵺の目を見た


すると鵺は頭を下げず、ジッと私の目を見ながら言った


「わさを治してほしい」


真剣な眼差しで言った

私はその目を見て悲しくなった


「…だが、私ではお前の寿命を縮めてしまうかもしれない…」


「いい。気休めでいい。少しでも私が元気になればそれでいい」


真っ直ぐ私を見て、迷いなくそう言った

何故かその声は少し寂しそうな気がした


そしてその目は私の何かを見透かしている様で

少し恐ろしかった


「……でも」


「お願いだ。医者様……わさは…」


枝雲の声は段々遠くなり、姿も透けていった。

枝雲の頭を撫でようとすると、視界がぼやけてきた


微かに見えた枝雲の顔は、泣いているように見えた






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