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正義の女子高生くん




目を覚ますと見覚えのある天井

椅子。机。布団。そして自分がいた


なあんだやっぱり自分は夢を見ていたんだ


体を起こしながらそう思った

机にはショーウィンドウに飾られていた指輪がある


そう、今日は大事な日なのだ。


指輪を手にし、急いで服を着、マフラーを首に巻いて、私は雪で真っ白の外へ出た。







  こんな馬鹿馬鹿しい夢を何度見た事か








「………」


「どうしたんですか?」


黙りこくっているとフドウさんが顔を覗き込んできた

心配そう…にはみえない



「……猫が」


「え? なんです?」


「いや、なんでも」



私とフドウさんは今、青葡萄の大通りを歩いている

今日は診察。というわけではないのだが

フドウさんが買い出しに行きたいから、荷物持ちに来てくれと言ってきた


断ろうとか思ったが、タダで宿に泊まっているからこれくらいの手伝いはしないと

と思いフドウさんの買い物についてきた


……のだが



「アグレ君」


「あ! ななな何ですか!?」



そう…先日少し暴走したアグレ君も一緒だ

フドウさんが呼んだらしいが……


「なんでそんな遠くにいるんだ?」


「あ…あなたは、私の敵だからです!」


アグレ君は私から半径2m離れた建物の物陰に隠れていた


私はため息を吐きながら出来るだけ冷たい目でアグレ君を見た


「じゃあなんでついてきたんだ」


「あ、あなたの弱点を知るためです!」


だからこうやって隠れてるんです! と威張るようにアグレ君は言った

そういうのは敵には言わないものなのに……


自分の中のアグレ君が、礼儀正しい少女からただの子供になってきている


アグレ君はまだ私が不正な事をしていると思い込んでいるらしく

よく私の周りをかぎまわっている


まったく、本当におかしな子だ




「あ! ホシスジさん!」


前方から聞いたことのある声がした


「ヘイさん」



そこには少し前診察した若い男、丙さんがいた

ヘイさんは腹が痛いと私にいきなり飛びついてきた。

診てみると、ただの食べすぎのせいだと分かった時、物凄い脱力したのを覚えている



「ヘイさん。その後どうです?」


「あは、おかげでスッカリだよ!」


ヘイさんは明るい顔で体を動かしてみせた

本当にこの街の人は平和というか、なんというか


「あ! そうだ。ホシスジさんに渡したい物があるんだった」


そう言ってヘイさんは持っていた鞄に手を入れた


「はいこれ!」


鞄から袋いっぱいに詰めた林檎が出てきた


「え…いいんですか? こんなに…」


戸惑いながら言うと、ヘイさんは笑顔で言った


「いいのいいいの! 多く貰って困ってたから!」


押し付ける様にグイグイと袋を渡された

ヘイさんを見ると眩しい笑顔を振舞っていた



正直林檎は好物なのでとてもありがたい


「ありがとうヘイさん」


出来るだけ無表情な顔で言うと


「喜んでもらえて嬉しいなぁ! ホシスジさん林檎好きなんだ!」


ヘイさんにアッサリと気付かれてしまった

そんなに顔に出てたのかと思うと、なんだか恥ずかしくなって顔を下に向けた



「ああもうオレ行かないと。じゃあホシスジさんまた!」


ヘイさんはそそくさと走っていった



「良かったですねー林檎貰えて」


横からフドウさんが話しかけてきた


「ま、まあそうだな。買わずに済んだのだから」


あくまで自分の好物だとは言わないことにした

まあもっとも、もう気付かれていると思うが…





私達は引き続き歩いた


すると後ろの方からアグレ君の強い視線を感じた

が、あえて振り向かないようにした


「…だ、騙されませんよー」


「そうかそうか」


まだ私の事を良く思っていないらしく、猫みたいに目を光らせているアグレ君を横目で見た


袋の中を探ると、奥からみかんや他の果物が出てきた


「蜜柑、桃、バナナもあるぞ。」


アグレ君の方をチラリと見ると、なんともいえない顔をしていた

果物がすきなのだろうか。


やっぱり女の子だな。と私は思った



「あ! 苺もあるぞアグレ君」


「ホントですか!!」


気が付くと後ろにいたはずのアグレ君が、すぐ横にいた


「どれですどこですこれですか!」


急かすように私の腕を引っ張った

顔は楽しそうな満面の笑み


「苺好きなんですか? ツミコさん」


私が尋ねる前にフドウさんが口を出した


アグレ君を見ると、彼女は少し恥ずかしそうな顔した

さっきの私と同じだ


だがすかさず顔を戻して私にせがんだ


「好きじゃありません! でも嫌いでもありませんから! ください!」


声は少し怒っていたが、顔はさっきと同じ満面の笑みだった

先日の笑顔とはまったく別の






「仲直りできてよかったですねー」


「いやこれはただの餌付け…」


私とフドウさんとアグレ君は、商店街で買い物を済ませて今宿に帰る所だった

もう時間は午後を過ぎている…らしい


アグレ君は苺で上機嫌になり

貰った苺を嬉しそうに一つずつ食べながら、私達の数歩前を歩いていた



「それにしてもツミコさん力持ちですねー」


「ああそうだな…ってフドウさんも少しは持ってくれよ」


アグレ君は一番思い袋を持っていた

女の子だから持てないと思っていたが…案外軽々と持っていた



私はというと、他の買い物袋を全部持たされるはめになった…


フドウさんは、何が入っているか分からない小さな袋を一つと、さっきヘイさんから貰った果物袋を持っているだけだった


「私最近肩こっちゃってましてねぇ…」


フドウさんはわざとらしく肩をぽんぽんと叩いた

ため息をつきながら私はハイハイそーですかと小声で言った



前を向くと、アグレ君は苺を食べ終わったのか、袋を両手にぶら下げて、変な歩き方をしていた

するとハッと気づいたようにこちらを振り返った


「どうした? アグレ君」


私が聞くとアグレ君は目を見開いて言った


「えっ餌付けされました!」


今更気づいたアグレ君はまた口を膨らまして怒った


「ひどいです! 騙しましたね!」


「いや騙してなどいないし、というか君が勝手に騙されてると思ってるだけだろ!」


詰め寄ってきたアグレ君を両手で押さえた


「もう知りません! ていうかもう一生知りません!」


アグレ君は前を向いてずかずかと走り出した


またどこかへ行ってしまうのかと思ったが、方向からして一人で宿に帰るらしい



「アグレ君ー。走ると何かにぶつかるぞー」


もう遠くまで行ってしまったアグレ君に聞こえる様に大声を出して言ってみた

もちろんアグレ君は返事をしなかった


「何かってなんですか」


隣にいたフドウさんがこちらを見ながら聞いてきた


「え? いや車とか……」


「ここ青葡萄ではあまり車は通りませんよ」


「そうか。なら安心だな」


フドウさんの話を聞いてほっとした

もし走って道のわきから車が飛び出す。なんて事があったら…


「……あ!」


アグレ君を見ると、こけたのか道端に座り込んでいた

地面に袋に入っていた野菜が散らばっていた

アグレ君は散らばった野菜を集めていた


その時、脇道から古い車が飛び出してきた

車はアグレ君めがけて走ってきた



「アグレ君!」


喉が腫れるくらい大声でアグレ君を呼ぶ

すると彼女は私の声で車に気が付いた様だが


もう遅い




ドンッ

と鈍い音がした


思わず目をつぶった



目を開けると、遠くで人が倒れていた


私はすかさずアグレ君のもとへ走った


「アグレ君! …あれ?」


跳ねられたのは、若い男だった

その隣でアグレ君が無傷で倒れていた


……もしかしてこの男がアグレ君を助けたのか…?


「アグレ君! あんた!」


アグレ君ともう一人の男を揺さぶった

アグレ君はかすれ傷しかなかったが、男は腹に傷を負って少し血が出ていた


男の顔を見てみると、どこか見覚えがあった




「へ…ヘイさん…!」


ヘイさんは肩で呼吸をし、顔は真っ青になっていた


車を見ると、数メートル先で停車していたが

やがて何も無かったかのように車が動いた


「大丈夫ですか?」


フドウさんが駆け足でこちらに近づいてきた

手には私が投げ飛ばした袋を持っていた


「車が…というかあの車はなんなんだ! 無神経にもほどがある!」


私は少し気持ちを高ぶらせながら言うと

フドウさんはもう遠くなった車を見つめた


「あの車……」


「それよりはやく! ヘイさんが危ない!」


周りには野次馬達がわらわらと集まってきた

苛々しながらヘイさんを抱き上げると、アグレ君が唸りながら起き上がった


「うっ…んー…」


「アグレ君!」


アグレ君の方を掴むと、ハッとした様に目を見開いた


「あれ…わたし…車に…」


顔をうつむくと、彼女は血の気が顔をして悲鳴を上げた


「ち…血! ホシスジさん…その人…」


アグレ君はぐったりとしたヘイさんを見て、さらに青ざめた


「アグレ君。君は一人で帰れるな? フドウさん!」


「はい」


「すまないが私の鞄を持ってきてくれないか? 私の部屋にある」


「はいわかりました」


フドウさんは駆け足で宿へ向かった


「アグレ君。君は帰りなさい」


立ち上がり、アグレ君を見下ろした

彼女は今にも泣きそうな顔をしていた


「え…」


「私はこれからヘイさんの家へ行くから、君は帰るんだ」


思ったより冷たく言い放ってしまったが

アグレ君がついてきても何もならないし

血を見て悲鳴を上げる子にはあまり来てほしくない


「あ……」


何か言いたそうにしているアグレ君を放っておいて、私はヘイさんの家へ向かった


「私も! 一緒に行きます!」


後ろから大きな声がして、振り返ると


泣き崩れてぐしゃぐしゃの顔になったアグレ君がいた




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