正義の不思議ちゃん
少し前。ほんの少し前の事
同じ所からこの場所に来たアグレ君
私は彼女にどうやって此処に来たのか、少しだけ聞いてみた
だけど彼女は何も知らないと言った
私ががっかりしていると「ごめんなさい」と言って
困った顔して笑った
「よって! あなたを罰します!!!」
バットを振り上げてこちらに向かってきている人影
それがあのアグレ君…
じっとその人影を見ると
顔はやっぱり笑顔だった
呆然と立ち尽くしていると、突然後ろから高い笛の音がした
後ろを振り返る間もなく、アグレ君の足の下から細長い塔が出てきた
「きゃあああああ!!」
甲高い悲鳴とともにアグレ君は高く上がった塔の上にしがみついていた
バットはいつの間に落としたのか、黒い草の上に落ちていた
後ろを振り返ると、フドウさんがいつぞやの笛を手に持っていた
「きゃああ!! 降ろしてくださいぃぃぃ!!」
アグレ君は塔の上で正座になり、目を硬くつぶっていた
高いところが苦手なのだろうか
「降ろしてやれ」
「あ、ハイ」
私がそう言うとフドウさんは笛を二回鳴らした
そうすると塔はゆっくりと土の中へ帰っていった
アグレ君は少し目を開けて、自分が高い所にいない事を確認して
ほっとした顔をして胸をなでおろした
「こら」
「あいた!」
落ちていたバットを拾って、そのバットでアグレ君を頭をつついた
するとまたアグレ君は声をあげた
「何するんですか! 返してください!」
「それはこっちのセリフだ」
バットでまた頭を小突いてやると、アグレ君は悔しそうな顔をしてキーキーと喚いていた
なんだ。やっぱりただの子供じゃないか
「私は無免許じゃないし、別に患者から大金を貰ったりとかはしてないぞ…」
「え!?」
正直に言うとアグレ君は驚き目を見開いた
「だって、鞄の中にそれらしき物が入ってませんでしたよ!
それに帰ってくるときいっつも変な物とかお菓子とか持って帰ってきて…」
「人の鞄を勝手に荒らすな…」
呆れたように言って
逃げない様に肩を掴むと彼女はヒィ! とまたまた悲鳴をあげた
「免許は…ここに来る時落としたんだ。菓子は患者に押し付けられて…ってそんな事で勘違いするな」
視線を合わせるように膝を地面につくと、アグレ君は少し顔を落とした
「……というか、君は何がしたいんだ?」
「! …わ…わたしは…」
一番聞きたかった事を聞いてみると、余計に顔を伏せてしまった
気のせいか声が震えている
「わ…わたし…」
「うん?」
「わたしは……
絶対に諦めませんからねえええええ!!!」
突然耳元で大声を出されて、私は固まった
耳がキンキンする…
気が付いたらアグレ君がいなくなっていた
後ろを向くと、宿の方へ帰るアグレ君の後ろ姿があった
「なんなのでしょうね?」
隣にいたフドウさんがアグレ君を見ながら言った
まだ耳がじんじんする…
「しらん…せ…正義のヒーロー気取りか?」
「エキセントリックな子ですね~」
「な……なんだ、エキセントリックって……」
バタン、と草原に倒れると、フドウさんは心配そうな声を出した
顔はいつもと変わらない