正義のヒーローさま
こっちに来てから5日がたった
私は帰る術を探しながらこの変てこな街で何故か、医者をやっていた
この前診た婦人がすっかり良くなって、噂がたったからだ
それからというもの、具合が悪いものから怪我が治らない人までやってきて困ったものだ
診察道具が入った鞄を持っていて本当に良かった。当然無料で診るわけにはいかないので有償という事にした
それでも来る人は日々多かった
「大儲けですね。ホシスジさん」
「その言い方はやめてくれ」
そして私は帰る家がないので、仕方なく、仕方なくフドウさんの宿に泊まることにした
泊まるお金は今はいらないと言うので助かったが、本当に何を考えてるか分からない人だ
「あ、今日も診察とやらに?」
「ああ。そうだけど」
「私も行っていいですか」
「またか? まあいいけど」
フドウさんはやたら私についてくる
理由を聞けば社会見学ですとか意味の分からない事を言う
そして
「……なんだいこっちをじっと見て」
「わっ! なんでわかったんですか?」
先日落ちてきた少女、名前は亜昏罪子というらしい
その子がやたら私を見てくる
「そんな怖い顔でこっち見てたら誰だってわかる。それで、何か用か?」
子供を宥める様に言うと
「べ、別に何もないですよ? お仕事がんばってください! じゃっ」
とだけ行ってアグレ君はバタバタと自分の部屋に戻っていった
「……あの年頃の子はわからん。何考えてるかさっぱりわからん」
「好きなんじゃないですかー?」
突然下から変な言葉が飛んできてビックリした
フドウさんだった
「フドウさん…悪い冗談はやめてくれ。それに私とあの子じゃ年の差がありすぎる」
「そうですか? まぁ確かにホシスジさん若いのに案外老けてらっしゃいますもんね。心か」
「一言ならず二言うるさい」
私とフドウさんはそんなくだらない話をしながら街を歩いた
「やっぱり今回も手がかりなしか…」
私はとぼとぼと街を後にした
フドウさんはそんな事お構いなしに、いつもの調子で歩いていた
診た人から一人ずつ、この街の事と、前いた場所へ帰る方法を聞いていたけれど
誰一人帰る方法なんて知らなかった
逆にこの街「青葡萄」の情報は誰しもが知っていた
ただ、どれもこれもくだらない情報で
水飲み鳥の近くの蕎麦屋が美味しいだとか
西に面白いおばちゃんが居る本屋があるだとか
時計塔に住んでいるおじいさんが怖いだとか
そんなあほらしい情報ばかり
今はそんな事は知りたくないのだが…
あまり働いた感じがしないのに何故か疲れた…
私は、こないだ指輪が飾ってあった店のショーウィンドウをちらりと覗くと
「あっ」
「どうしました?」
後ろを歩いていたフドウさんが前に立ち聞いてきた
私はショーウィンドウから目が離せなくなっていた
「…指輪…」
「ああ、売られたんですね。欲しかったんですか?」
前まで飾ってあった指輪がなくなっていた
「誰が買ったんだろうか。あんな質素な指輪」
「さあ、男の人が女の人にプレゼントする為に買ったとか」
フドウさんがまた適当な事を言った
「だったらその男、美的感覚がかなり悪いな」
私は店に背を向けて、少し早く歩いた
「何笑ってるんですか」
小走りでついてきたフドウさんが、私を顔を覗き込んだ
別に笑ってるつもりでは無かったのだが
あまり見られたくないので、私は顔を逸らした
「別に、何もない」
「あれ?」
宿に帰ると、アグレ君は何処にも居なかった
宿は広いので、どこかで迷子になっているのかと思ったが
やっぱり何処にもいない
外に出たのかもしれないが、もう日が暮れているから危ないし
それに前私を追ってきた者達が、今度はアグレ君を襲っていたら……
「……心配だ」
「いいですね若いって」
和室で寝転がっていると、フドウさんがまたまた変な事を言い出した
「心配なんでしょう、ツミコさんの事。ああいいですねぇ~。私も昔妻と喧嘩して…」
「別に喧嘩などしていないしそれにそういう意味で心配ではない」
冷静かつキッパリと私は言った
まったく、フドウさんはそういう話になると女学生のように上機嫌になる
それが困る
「なんというか、そう…娘の帰りが遅くて心配とか…って私はまだそんな歳じゃない!」
「誰もあなたの歳がどうとか言ってませんよ」
フドウさんが冷やかな目で言った
「でも確かに心配ですね。こんな遅くまで外を出歩いて。ツミコさんって意外と不良学生なんでしょうかね」
「あの子が?」
とてもそんな風には見えないが…
と言おうとした時、玄関からガラガラと戸を開ける音がした
私は勢いよく起き上がって、玄関へ駆けて行った
フドウさんも後ろからついてきた
「アグレ君! おそ…」
玄関にきてみると、誰もいなかった
だか戸が少し開いていた
外から冷たい夜風が家に入ってきた
「ああもう! 誰だ! いたずらか!?」
私は靴を履き外を出た
「ああ待って下さい」
「出て来い! 紛らわしいっ!」
外はすっかり真っ暗で、遠くで「青葡萄」が光っていた
送電塔は月明かりに照らされていて、暗く光っていた
「あっ!」
その隣にはアグレ君がいた
「アグレ君! 何やってるんだそんな所で!」
走ってアグレ君の所まで行こうとすると
「ふふ…あはは…あーっはっはっはっははっはぁーん!!!」
突然アグレ君が大声で笑い出したので驚いた
足を止めて様子を窺った
「あ…アグレ君?」
「なんです? 何が起きるんです?」
気が付いたらフドウさんが隣にいた
だが今はそんな事どうでもいい。今はアグレ君が先だ
「アグレ君…」
「見ましたよ見ちゃいましたよ見てしまいましたよおおお!!」
また意味の分からない事を言い、アグレ君は大爆笑をした
「ホシスジドウジロウさん! あなたは無免許なのに医者と偽り! 人からお金を巻き上げる最低最悪! 極悪人だったのですね!」
アグレ君はビシッと私を指差し言った
正直何を言っているかサッパリ分からない。何を考えているんだこの子は?
暗闇にのまれて見えなくなりそうで、目を凝らしてよく見ると
アグレ君の右手にはどこからか持ってきた金属バットを持っていた
「よって! あなたを罰します!」
金属バット振り上げて威勢良く言った
顔は今まで見たことのない満面の笑みだった
第二話
亜昏罪子は高校生くらいです