都合がいいような
「わけがわからない」
「絶対言うと思いましたよ」
私とフドウさんは今、何故か青葡萄という街の前に立っている
入り口には看板がおおきく立てられていて、「ようこそ青葡萄へ」という文字が洒落た感じに並んでいた
さっきの話を聞き、私は青葡萄という街が見たくなってきた
それでフドウさんに案内をしてもらおうと思って一緒にきたのだ
落ちてきた女の子はどうしようと思ったが、自分から留守番をすると言い出したので驚いた
こんな知らない所に来て不安ではないのだろうか
青葡萄は遠くからでも目立つ街だった
近くで見るとさらにわけがわからなくなってきた
逆さの看板や巨大な水飲み鳥。和洋折衷な建物やら
遠くには大きな時計塔があった。
私はあまり目はよくないが、時計の針が何時を指しているかハッキリわかるほど時計塔は大きかった
だが…
「今88時88分ですね」
「はぁ?!」
フドウさんの言葉に思わず変な声が出た
もう一度時計塔を見ると短い針は8の数字を指している
それで88時なのか? それによく見ると数字が少し…というかかなり多い気がする
少なくとも12以上はある…それに長い針は逆の方向を回っていた
「……あの時計壊れているんじゃないか?」
「あれがここでは普通ですよ」
フドウさんは相も変わらず呑気顔で街の大通りを歩いた
「ああっ! ちょっと待ってくれ」
慌ててフドウさんの後を追いかける
街の中はやっぱり派手で目立っていて、おかしな所しかない
桜の木はどこにも生えていないのに、何故か空からはピンクの花びらが舞っていた
……やっぱりおかしい…
「なあフドウさん、やっぱりここおかしいよ」
「そうですか?」
だが悪い街ではない。
活気があふれていて、みんな生き生きしているように見える
……よく見ると和風な服を着た人がチラチラと見える
まるで大正時代だ
遠くで路面電車ベル音が聞こえた
近くの店のショーウィンドウを覗くと、見た事の無い生き物のぬいぐるみが飾っており
その中に紛れて見覚えのある指輪が置いてあった
「……おかしい」
「帰りたいですか?」
「えっ?」
突然そんな言葉をかけられたのでビックリした
そう帰りたい。いますぐに帰りたい
……何故こんなに焦っているのだろう?
ふとフドウさんを見てみると遠い方を見つめていた
その視線を辿ってみると
具合の悪そうな婦人が、若い青年と黒い服の男に連れられているのが目に映った
「……あの人達はなんだ?」
「あの人とはもうさよならですね」
……え……?
よくわからない言葉がまたまた飛んできた
本当にフドウさんの言葉は予想がつかない
「どういう事だ」
「あのご婦人……ご病気でもう助からないみたいなんです」
まだ歩いている婦人達をもう一度見た
「……そんなに悪い病気には見えんが…」
「……」
フドウさんは珍しく下を向いていた
表情が帽子で隠れて見えない
「…ここには病気を治す人がいないんです。だからあの人は今黒服に安楽死できる所まで連れて行かれるんです。お隣の若い男の人は連れでしょう」
少し顔を上げてフドウさんは言った
その顔はいままで通りのほほんとした顔があった
だけど
「医者はいないのか…」
「はて? 医者とは? もう行きましょう」
「……やっぱりおかしいよ。この世界は」
フドウさんの声を無視して私は婦人を方へ走っていった
後ろからフドウさんの声がした気がするが、それも無視した
婦人の近くまで走り
気が付いたらその人の腕を掴んでいた
「なっなんですかあなた!」
婦人はヒステリックな声をあげた
顔を見るとさほど悪くはないようだ
大丈夫これくらいなら
「私はあなたの病気を治せます!」
黒い服の男はこちらを睨んでいる。多分私の言っている事が嘘だと思ったのだろう
だが今はそんな事は関係ない
「ほ…本当ですか!?」
婦人の隣にいた若い男が嬉しそうに言った
私は黙って頷いた
男は今にも泣きそうな顔をしていた
「ち…治療費1000万とか言わないですよね…」
「言わないから!」
半ば怒鳴るように言うと、若い男は怯えながら婦人の家へ案内すると言った
男は婦人を支えながら歩いた
ふと気になり、置いていってしまったフドウさんを見てみると
まだ自分がさっきいた場所に立っていた
「フドウさん。あんたも来てくれ」
「私は」
「あんたは私の案内人だろう。いなくなったら帰れない。…宿に」
それだけ言うと私は案内された家へ行った
しばらくして気になって振り返ってみると
真横にフドウさんがいてかなり驚いた
「結局ただの風邪だったとは……」
「はて? 風邪とはなんです?」
フドウさんと私は、あの送電塔がある宿へ帰る所だった
婦人の家で診察したが思い病気でもなく、ただの風邪だった
持っていた薬を飲ませしばらく安静、のお決まり台詞を言った
「しかし風邪程度で安楽死とは…この世界はやっぱりおかしい」
「でもあなたがいてよかった」
その言葉を言われて少し心臓が痛くなった
「あのご婦人さんと若い男の人、すごく感謝してましたよ。あなたに」
「えっ、は…うん」
なんだか照れくさくなって頭を掻いた
医者になってこんなに感謝された事があっただろうか
あったとしても、私は忘れているのだろう
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は不堂参直です。フドウでいいですよ」
「ああ。私は星筋道治朗、知っての通り医者だ。ホシスジでいい」
「ハイ。まあ今後よろしくお願いします」
「え?」
フドウさんは何事もないように歩いていた
やっと第一話終了です
キャラの名前は
主人公:星筋 道治朗 (ホシスジ ドウジロウ)
フドウさん:不堂参直 (フドウ サンジキ)
です