和室街談
「だからここは何処なんだって」
私は少し怒鳴るように言った
しかしフドウさんにはビクリとも驚かずにお茶をすすった
「だから私の家だって言ってるでしょう」
フドウさんの家に招き入れられた私は、何故か和室の真ん中に座りフドウさんと話をしている
「いやいや。あんな土から家は出てこないぞ普通は! それに此処の家の事を言っているわけでは…」
だがの人にしか頼れない気がした。外に出たらまた何か得体の知れない物に追われるかもしれない…
と思うとこの家から一歩も出たくなくなってきた
「こ、ここは何県なんだろうか……東京…でしょうか…」
場所を聞くとなんだか怖くなってきた…何故だろう
自分の居た東京より遥か遠い九州だったら帰るのが嫌になるからだろうか…
…そもそも何故こんな所にいるのだろう。私は
記憶を辿ってみたが
どういう経緯であの物に追われていたのか、どうしてこんな知らない場所にいるのか
どうして逃げていたのか、さっぱりわからない
思い出せないわけではない、本当にわからないのだ。
「ここですか? ここはですね」
少しぼぅっとしている間にフドウさんが話し始めた。
頭を振って今考えていた事を忘れて、フドウさんの話に集中する。
「多分あなたがいた所ではないですね」
「えっ」
思わず声がでた。じゃあここは一体…
フドウさんは湯飲み茶碗を置き、立ち上がって丸い窓の方へ行った
「ここはあなたがいた所から人が何人もくる所」
「……?」
フドウさんはゆっくり窓を開けると、その奥から街が見えた
「青葡萄という街です。あなたはさっきあそこにいたんです」
「ちょっと待ってくれ」
フドウさんの話を一旦止めた
見ると何ですか? と呑気に首をかしげていた
「一体全体どういう事だ」
「だからさっき話した通りです」
「だから…」
さっき言っていた、私のいた所から人がくるとか、意味がわからない
ここは日本じゃないのか?
「あなたみたいな人、よく来ますよ」
窓を閉め、何故かさっきいた場所より後ろの方に座った
小さいフドウさんがさらに小さく見える
「? 何故そんな後ろに?」
「危ないですよ。もっと前に来てください」
言われるがまま私は、湯飲み茶碗と一緒にフドウさんの近くまで来た
「どうして後ろに?」
「私はそんな人の為に宿をやってるんです。
いきなりここに来て戸惑って、何をしたらいいのか分からない人の為に」
私の話を無視し、またお茶の呑気にすすっていた
それにまたわけの分からない話
「…宿…?」
「はい。段々慣れてきて、自分の此処での職業を見つけたり、家を持ったりその他諸々」
ずずっとまた一口お茶を飲み、その話を真剣半分冗談半分で聞いていた
と、言う事は
此処に来た人達は戸惑いながらもこのおかしな場所に慣れ
永遠にここから出ずに生涯を終える…ということか!
話を整理し、ようやく何かに気づいた私は
どうしようか迷っていたところ
がっしぁああああああん
と大きな音がして、急いで振り返ってみると
天井に穴があいていて、真下の床の間がぐちゃぐちゃになっていた
掛け軸は崩れ、飾ってあった壷が割れかけていた
とその中に紛れて一人の女の子がへんな体勢になってこちらを見ていた
「あ…どうも」
女の子は苦笑いを浮かべながら挨拶をした
天井から崩れた木材が粉になって、はらはらと女の子の頭に降ってきた
「ね、言ったでしょう」
後ろを向くとフドウさんは満面の笑みか分からぬ顔で言った
「本当に沢山くるんですよ。あっちから」
と言って最後のお茶をすすった
ちびちびやってきます