そのとき腑抜けはどうしていたか【後編】
書き溜めたものを放出しているせいで、書いてから世に出せるまでのタイムラグがとてももどかしい。
ジェレミーは激怒した。
必ずやケイシーを傷つけた不届き者を成敗してやろうと決意した。
しかし、蓋を開けてみれば、ケイシーを傷つけたのは他でもない自分なのである。
自分はもう沈没船に乗って海の底に沈んでしまうほうが良いのかもしれない。
海の底だって意外と悪くないかもしれない。
そう、最初は酸素がないからちょっとばかり苦しいが、そのうち苦しみを感じることもなくなる。
ケイシーを悲しませた人間なんて、海の底で海藻とダンスするのがお似合いだ…。
そんなどうでもよいことを延々と考え続けてしまうくらいには、ジェレミーは結構しっかり落ち込んでいた。
こいつ、結構ちゃんとケイシーのことが好きなのだ。
もとはといえば、ケイシーに対してきちんと返事をできなかった自分が悪いのだ。
たしかに、ケイシーの振りかざす理論は珍しく短絡的で、理論的な整合性に欠ける部分も多々あった。
ただ、自分が火種を撒かなければ、ケイシーが刃こぼれした理論の刃を振りかざすような事態は起きなかった。
ヘタレだが、本気で悪いと思ったことはきちんと反省できる、偉い子なのだ。
ジェレミーは公園のベンチに背を預けて天を仰いだ。
青々とした木々の間から、ちらちらと青空がにじんでいる。
背もたれに沿って右腕を回す。
ああ、ここにケイシーがいたらなあ。
話したい。ケイシーの声なら何時間だって聴いていられる。
笑ってほしい。
手が繋ぎたい。
名前を呼んでほしい。
ジェレミーのたいへん健全な欲望は止まるところを知らなかった。
どれほどの刻が過ぎただろう。
ジェレミーは天啓を得た。
どんなに反省していても、それが心の裡に秘められていたなら相手に伝わることはない。
口に出して伝えなければ意味がないのである。
ならばやるべきことはただ一つ。
今すぐケイシーの所に行って謝罪することだ。
ジェレミーはヘタレである。
しかし彼はいま、勇気と行動力のあるヘタレとなった。
家への帰り道の途上にある人々を避け、追い越し、一目散に駆けてゆく。
目指すはケイシーの家の前。
息せきって駆け込んできたジェレミーに、ストリングス家の面々は怪訝な顔をした。
「どうしたの、ジェレミー。ケイシーと一緒じゃなかったの。」
「ちょっと、色々あって別行動を。」
気まずい。実はずっと変な態度をとっていたせいでケイシーを傷つけて、とうとう一緒にいてもらえなくなりました、なんて口が裂けても言えない。
「ケイシーはまだ戻っていないわ。中に入って待っていたら?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。門の前で、ケイシーの帰りを待ちます。」
十五歳の胸中には、大好きな女の子のもとで一刻も早く許しを乞うことしかなかったのである。
本編とは異なり、三人称視点とさせていただきました。
かなりテイストの違う語りとなってしまい、驚かせた方にはお詫び申し上げます。
ジェレミーの気づきと行動するきっかけについてでした。
明日は、様子の変わった婚約者に戸惑うケイシーの様子をお届けします。




