これにて終幕、大団円
ジェレミーに対して謎に上目線だったこれまでのエピソードタイトルたち(笑)
曲がり角を曲がる。
右、左、右。
次の角でもうすぐ家だ。
ぼんやり歩いていると、門前に見覚えのある後姿がある。
相変わらず癖のある茶髪。
前までわたしのほうが背が高かったのに、いつのまにか追い越されてしまった。
ずっと一緒にいたんだから。見間違えるはずがないじゃない。
あれは、ジェレミーだ。
あっちに行ったり、こっちに来たり。
所在なさげにうろうろ、うろうろしている。
傍からみれば、完全なる不審者ね。
迷い犬みたいだな。
図らずもくすり、と笑ってしまう。
すぅっと息を飲んで步を進める。
ジェレミーがこっちを向いた。
「悪かった」「ごめんね」
声が被る。
束の間の静寂。
先に口をひらいたのは、ジェレミーのほうだった。
「婚約破棄なんて言って、悪かった。ケイシーがどんどん大人っぽくなるから、自分だけおいてかれる気がしてた。」
ずっとうつむいているジェレミーの表情は見えない。
「悪かった。本当に申し訳ないと思ってる。どうか許して貰えませんか。」
やっとこちらを向いたジェレミーは、今にも泣きだしそうに見えた。
目を潤ませてひたとこちらを見つめてくる。
唐突に悟る。
なんだ。
彼の本質は、あのとき母親の後ろでもじもじしていた子犬のころから、なに一つとして変わっていなかったのだ。
「ばか」
ジェレミーがびくりと身体を震わせる。
「許さないわけないじゃない。」
そうよ。
こんなに真摯に謝られて。すげなく断るほうがどうかしていると思う。
そして。
「わたしのほうこそごめんなさい。言い過ぎてしまって。ワンピース、丈が長いの、初めてなの。ママやうちで働いてる人はかわいいねって、言ってくれた。」
「でも、うちの人たち、わたしが、どんなみょうちくりんな格好をしてても、『ねえ、これ、どう思う?』って訊いたら絶対に『かわいいよ』って言うの。」
「だからね、あなたの反応を見て、ああ、やっぱり似合ってなかったんだって、」
「そんなことない!」
ジェレミーは泡を食って叫んだ。
「似合ってる。すごく似合ってると思う。めちゃくちゃかわいい。こんなかわいい子が俺と婚約してくれてるんだって思ったらなんかすごく恥ずかしくて何も言えなかっただけで似合わないとかそんなことはほんの少しだって思ってない!」
なーんだ、つまり…。
「J、あなた、照れてたの?」
その瞬間のジェレミーの慌てっぷりはすごかったわ。
眼はぐるんぐるん泳いで、あちこち視線を飛ばしながら支離滅裂なことを何やらもごもごつぶやいてた。
J、というのは、おさない頃に決めた、私たち二人だけのあだ名。
わたしがKで、ジェレミーがJ。
そんなものがあったなんて、すっかり忘れてしまっていた。
ひととおり慌てて落ち着いたジェレミーが、改まってわたしに向き合った。
「ケイシー」
「ええ」
「あー、えっと」
わたしは黙って次の言葉を待つ。
「ワンピース、すごく綺麗だ。」
「ありがとう。」
何だかとてもうれしくて、胸がどきどきして、幸せが胸の中に広がっていくような心地で舞い上がっていたのだけれど。
これで終わりではなかった。
ジェレミーがしばらく変な顔をして考え込んでいるから、いったいどうしたのかと思ったの。
そしたら…。
「ちがうな、確かにワンピースもいいと思う、けど、ワンピースなんかより、ワンピースを着たケイシーのほうがずっときれいだ。」
言い終わってからジェレミーは耳まで真っ赤になって黙り込んだ。
それにつられてわたしも黙って…。
鮮やかな夕焼けに、二人の影が重なって見えた。
互いをじっと見つめあうわたしとジェレミー。
ぐー。
ジェレミーのお腹が鳴った。
しんみりとした雰囲気をどこかにやってしまったことがとってもおかしくて、思い切り笑っちゃった。
笑いはなかなか収まらなくて、しまいには目尻の涙をぬぐいながら笑い続けた。
見上げたジェレミーは、顔を真っ赤にして唇を尖らせる。
「今日は昼を食べてないんだよ。」
「あら大変。」
「空腹で今にもぶっ倒れそうだよ。」
しょうがないわねえ、とわたしは言った。
「うちで食べていきなさい。さっきからすっごくいい匂いがするわ。きっと今日はご馳走よ。だって昨日はお肉屋さんが来てたもの。」
いきましょう。
わたしはジェレミーの腕を取って、ゆっくりと我が家へ向かって歩みを進めた。
完結です。
今後も番外編投稿を予定しております。
暫くお付き合いください。




