やっちゃった、ばかだねえ
「お前なんか婚約破棄だ!」
彼の言葉を後ろに残して、わたしは走り去った。
ええそうね、そうでしょうとも。
どうせ貴方が好きなのはきゅるんきゅるんの眼で上目遣いに見上げてくる女の子でしょうとも!
怒りは最高の加速器だけども、持続性がないのが難点よね。
しばらく街中を疾走したけれど、だんだん身体が重くなってくるし、なにより周囲の眼が辛い。
仕方がないのでとぼとぼと公園のベンチに座る。
あーあ、なんでこうなっちゃったかな。
別に、私たちは昔から仲が悪かったわけじゃない。
断じて違う。
婚約したのは、これはもう何年前の話だろう、互いに7歳とかだから…8年前?
もうそんなに経つのね。
あのころのジェレミーはかわいげがあった。
うちと彼の家は商家の中でも大きい方だったから、変な虫がついて財産を喰われないようにって、パパとおじさまが早めに婚約を決めたの。
それで、両親に連れられて本人たちが初顔合わせするでしょ。
おじさまとおばさまがジェレミーを伴ってうちに来た。
わたし、「こんにちは」ってちゃんと言ったの。
そしたらジェレミーったら、おばさまのスカートの後ろに隠れて出てこないの。
おばさまとおじさまが急かすけど、急かせば急かすほど顔を真っ赤にしてスカートの生地をもじもじ弄ってるの。
でね、やっと口を開けたと思ったら何て言ったと思う?
「バウ!」
よりによって!婚約者との初会話で!!犬!!!
もうみんな笑いすぎて息も絶え絶え。
うちの両親は婚約してからしばらくはジェレミーを子犬ちゃんって呼んでたわ。
もうほんっとにかわいかったんだから。
それに引き換え今のあいつは、話しかけてもまともに返事はしない、すぐ突っかかってくる、そのくせ変なときに絡んできて、「やめて」って言ってるのにいつまでもやめてくれないの。
ほんと頭にくる。
決めた、今日の遊びの約束はなし。
だって、あいつが言うには、わたしは婚約破棄されたらしいしね。
ただの幼馴染とデートしてやる謂れなんかない。
一日中好きなことして遊ぶんだ!




