第7話本物の女神(アデル視点)
「ふぅー。」
一瞬息を整えてから、彼女のいる部屋にノックをする
コンコンコン
「はい」
いつ聞いても可憐な声だ。鈴蘭のような軽やかさだが、聞き取りやすいはっきりとした声。
「アデルだ。」
「私はリヴェリアです。」
部屋を訪れて私が名前を名乗るたびに、彼女は自分の名前も言い返してくる。別に自己紹介のつもりで名乗っているわけではないのだが、毎度健気に自分の名前を言うリヴェリアが可愛らしいので、そのままにしている。
「知っている。ドアを開けてもいいか?」
「はい、どんときてください」
彼女がこの城に来て1ヶ月が経ち、リヴェリアも少しずつ言葉を習得し始めていた。と言っても、まだ絵本を読めるようになった程度だが…。
なぜ‘どんとこい’を知っているのかは謎だ。
これも、絶対ドアを開けてもいいかと言う質問に対する回答ではないと思うが、可愛いのでそのままにしている。
「あぁ、失礼する」
私の贈った花やぬいぐるみに囲まれたベッドの上で、リヴェリアが微笑んでいる。
贈り物のおかげで色とりどりになった部屋の中でも、彼女の白髪は特段目を引く。
私は皇太子らしくもなく、今日もまた彼女の元へと訪れていた。
1ヶ月前、近くの森で狩りをしていると、動物達の鳴き声がした。彼らを狩ってやろうとかいう気持ちは不思議と無く、ただ私は声の聞こえる方へと向かった。
季節は秋。道のない、周りは橙色と赤色の葉に包まれた木々の間をすり抜けていくと、そこには沢山の動物が一つの藁袋を我が子を温めるかのように大切に囲んでいた。私がその空間に足を踏み込んだ瞬間、動物達は怯える様子でもなく、一瞬で鳴くのをやめて静かになったかと思えば、ゆっくりと背中を向けて去っていった。まるで私が来るのを待っていたかのように。
残された藁袋は、息をするように微かに動いていた。少し近づき耳を澄まして聴くと、スースーと呼吸音が聞こえてくる。息をする‘ように‘ではなく本当に呼吸をしているらしい。
普段であれば、こんな開けば面倒なことになるに違いないことは、見なかったことにするのだが、
ただ、この時の私はなぜかこの袋を必ず開けなければならない気がして、その藁袋に警戒心を放り捨てて近づいた。
後ろからは狩りに同行していた側近のヒューイが慌ててこちらに追いついてきている。
「殿下!お気をつけください!何が入っているやも、わかりません!」
ヒューイの言う事など耳を通り抜けていく。藁袋の中に入っていたのは、まっすぐな翡翠の瞳を持ち、汚れていても隠しきれていない美しい至極の白髪を持った少女。
本物の女神であった。




