第14話 真剣に
部屋には卓を挟んで私とアデル様の2人きりだ。少しの間沈黙があった後、アデル様は口を開き始めた。
「隣国との戦争に駆り出されていた私は、敵に大砲を打たれて、親子共々死の間際にいた。というか、おそらくあれは死んでいただろう。だが、突然辺り一面に光が浴びたかと思えば、感覚の無くなったはずの手足に温かみを感じたのだ。」
その時の思い出を回顧するかのように、アデル様は手を見つめた。
その視線が、次は私に移動する。
「上を見上げると、空に浮かびながら懸命に祈りを捧げる君がいた。…さっきシェリーに言った祈りを捧げていた…というのは少々言葉を省きすぎたかもしれない。君は空から彼らに『癒し』を与えていた。そうだろう?‘癒しを司るもの’リヴェリア。」
アデル様の真っすぐな赤い瞳の中に、目を見開く私の姿が映されている。
「なんで、その名前を…知って」
‘癒しを司るもの’と言うのが人間界での私の名前。私の名前が『リヴェリア』だと言うことは、私が誕生した時のことを記した大聖堂の書物にしか書かれていない。私の誕生日のなかに、私の名前に似た要素は入っているものの、そもそも下界の者達にとって神の名前はそれほど重要ではなく、他の神と区別さえできればなんでもいい。
つまり、私の名前を下界で言ったところで、それが‘癒しを司るもの’だと分かる者は、ほぼいない。
だから、この下界で‘癒しを司るもの’と言う肩書きを消し去り、ただのリヴェリアとして生きていこうと思っていたのに。
神界から追放された醜い私を見透かすかのように、私の正体を当てるアデル様に私は驚きと、そしてどこか落胆してしまっていた。
……あぁ、だからアデル様はこんなにも私に優しくしてくれていたのか。私に『癒しの力』があるから。結局のところアデル様もこの『癒しの力』を求めて私に優しくしたのだろう。だとしたら…
「いいえ…私はもう既に神界を追放された出来損ない。‘癒しを司るもの’なんてたいそうな名前は、とうに捨てました。…あなたが求めているものは私はなく癒しの力。」
自分で言って、落ち目を感じる。要は、私はもう、アデル様が見た時のようなたいそうな力は持っていない落ちこぼれだから、私に恩を与える必要はない…ということを、本人に、私自身の声で伝えなければならないのだ。
こんなことを言ってしまったら、ご飯をくれなくなってしまうかもしれない…そもそもこの家はアデル様のものだろうから、私はこれからどうすればいいんだろう…?
アデル様に全てを白状した後に、これから先への不安が押し寄せてきた。
恐る恐る、アデル様の方を見ると、騙られていたことへ、言葉も出ないほど怒っているのか、癒しの力を使うことのできなくなった私に失望しているのか、分からないが顎に手を当て、下を向き、口を全く開かない。
しばらくの沈黙。
ふとアデル様がパッと顔を上げた。




