第11話 待て待て待て待て
アデル様の願い、必ず叶える!
「私と結婚してくれ。」
「…?け?」
「結婚してくれ。私と。」
いやいや、倒置法で言われても。
『けっこん』…『結婚』…?
アデル様は、普段通りの表情で私に赤と青の石のついた指輪を私の方にずいと差し出した。心なしか耳が赤いような気がしたけれど。
して、結婚とはなんだ?
そういえば昔、あっているかはよく分からないけど、一度神界から結婚式というものを見たことがあった。
白くてとんがった綺麗な家の中で仲の良さそうな男女が色とりどりのお花に囲まれて、ケーキを食べていた。それを周りの人が温かく見守っている__なるほど。分かった。完っ全に理解した。
『結婚』というのはお花がたくさんあるところでご飯を食べることなのだと。
完璧な推理としか言いようがない。
アデル様が差し出した指輪を何に使うのかは不明だが…大方、王様がなんか神聖な儀式とかで王冠を被らないといけないのと同じ要領で、結婚?式でつけなければならない必需品的なものなんだろう。
私は胸をドンと叩いて答えた。
「はい!任せてください!いつでもしましょう!」
アデル様が今まで見せたことのないような笑みを見せ、私に優しくハグをした。
私を安心させるような笑みでも、人々と真剣に対話をするときの真面目な顔でもない、ただただ喜びに浸る笑顔。
「…っ!ありがとう…!それでは早速この書類に…」
「「「「待て待て待て待て」」」」
急にさっきまで微笑んでいた周りの人たちが、すでに羽ペンを持って、アデル様に言われたところに名前を書こうとする私を全力で止めにかかった。
「「?」」
急に皆どうしたんだろうか。そんなに切羽詰まった表情をして。
目の前のアデル様もなぜ止められるのかわからないっといった表情で首を傾けていた。
すると、アデル様の側近のヒューイさんが、勢いよく
「いや、なんでアデル様も分かってないみたいな顔してるんですかーー?!」と、叫んで膝から崩れ落ちた。
頭を抱えて、顔を真っ青にして、「もうだめだ…やっぱり俺の主人は犯罪者になるんだ…」とぼやいている。
シェリーさんがため息をつきながらでこちらにきた。
失礼します、とアデル様を私の目の前から退け、言った。
「はぁ、まず何から言ったらいいのか…リヴェリア様、まだ教えられていませんでしたが、結婚というものはですね、愛し愛する男女が永遠を誓うことなのですよ?」
「愛する男女が…永遠を…誓う…?」
愛している、というのはつまり大好きだと言うことだろう。それじゃあ、『永遠を誓う』っていうのは?
最近下界の言葉も大体流暢に話せるようになったと思っていたけれど、この言葉はあまりイメージがつかない。
『永遠』は『ずっと』って意味で、『誓う』っていうのは『約束する』って意味。それはわかるんだけれど、じゃあ『ずっと約束する』って何だろう…?
「そうです。結婚は永遠を誓うものなのです。自分の主人をこんなに言うのも憚れますが、このお方は無口・無表情・無愛想。顔はいいとしてもこんな性格ではモテるものもモテません。しかも、旦那様とリヴェリア様がお会いしてからまだ3ヶ月。この短期間で、しかも友達から始めようとかではなく、私と結婚してくれ??たとえリヴェリア様が旦那様をお慕いなさっていたとしても、少しは怪しむべきです!」
他の人も、シェリーさんの言うことに激しく頷いている。
何を言っているのか3分の1くらい分からなかったが、アデル様をものすごくディスっているのは分かった。
シュリーの、『このお方は無口・無表情・無愛想。顔はいいとしてもこんな性格ではモテるものもモテません。』のあたりから、口をぽかんと開けて動かなかったアデル様が、ようやく意識を取り戻して口を開いた。
「おい、シェリー…それは流石に言い過ぎ…」
アデル様の顔色がさっきより青くなった気がした。けれどもシェリーさんの口は止まらない。
「それに、あなたはまだ子供。対してこの方は25才。リヴェリア様からするとアデル様は『おっさん』です。」
「へぇ!」
新しい言葉だ。『おっさん』。最近読んでいる絵本の中は出てきたことがない言葉。
『おっさん』って、年上の人、みたいな意味なのかな?そういえば、お兄さんとか、お姉さんという言葉を聞いたことがある。
それと同じようなものなのかもしれない。なんだかかっこいい気がして、アデル様の方を向いて聞いてみた。




