プロローグ
私、白咲ゆきねは平凡である。
ごく普通の女子高生、16歳であり、最近新学期を迎えて2年生になり、毎日を学校と部活と、少しの友達とのおしゃべりで過ごしているだけの一般人。
そんな白咲ゆきねの一生を本かマンガにでもしたとするなら、高校生までの物語は、とても平凡でつまらないものになると、確信を持って言える。
それほどまでに私は平凡な少女だ。くだらない、つまらない人生を過ごしてきたのだから。そんな人生なんてちょっとだけもったいない気もするが、逆転させる劇的な力なんて持ち合わせていない。
部活終わり、制服に着替え、ボサボサになった髪を整える。茶髪のボブヘアをある程度整え、教室へ。
「ごめん、待った?」
教室のドアを開く。先客として席に腰を下ろし、スマホを弄って待つのは私の友達、八重坂いろは。綺麗な黒髪を肩まで伸ばし、眼鏡をかけている。綺麗な緑色の、優しい目。
「あ、ゆきね。ごめん、ちょっと待ってね?今考察がいいところで…」
スマホと向き合い、にらめっこを繰り返すいろは。彼女は最近有名になってきている、『異界』の噂を調べている。
あくまで一般人の考察の域だが、それでも彼女は本気でやっている。直近だと、考察のために春休みに各地を練り歩いて調査をしていた。
友達である私もまぁ誘われたのだが…私も私で課題が忙しいので断らせてもらった。
「…はぁ、いろはってホント妄想好きだよね。なんだっけ、魔界?とか天界?アニメの中だけで十分じゃない?」
少し厳しいかもしれないが、お金を湯水のように浪費するいろはのために言っているのだ。調査のために数十万もする機材をいくつも買って日本を巡るなんて、私にはできない。
そんな私の尊敬と軽い畏怖を知りもせず、いろはは続ける。
「でもさ、魔界や天界は最近の調査から層があることは予想されてるんだけど、実際に見たことはないんだって。見つけてみたくない?七大罪と七美徳の名を冠する層なんだよ!」
「ふーん、へぇ……まぁ、そんなの現実にはないからなぁ。」私は笑って窓の外を見た。その瞬間、外の景色が一瞬、歪んだ。
「…え?」
疲れているのか、何かあったのか…窓の外を見ようと足を動かそうとするが、ピクリとも動かない。足元を見ると、黒い黒い、沼のようなものに、身体が引きずり込まれていく。
「えっ、ゆきね!?」
「ちょ、ちょっと待って…!」
椅子が後ろに倒れ、駆け寄ってくるいろは。そんないろはが近づいてくるが、私が沈むスピードのほうが速い。
放課後の喧騒も、いろはの叫びも、私の声も、全てが遠くに消えた気がした。
「いたっ!」
思い切り、尻もちをついた。地面は硬い、灰色の岩肌。明らかに教室の床なんてものではない。
雲が黒く濁り、空は赤く染まっている。
「ここ…どこ…?」
見たことのない景色に、心臓の鼓動が加速する。焦る脳に硬直する体、冷や汗が止まらない。
「あーっ!みっけー!!」
ビクッ、と身体が跳ねる。人の声が背後からした。少女の声。振り返り、その少女を見る。
「やっほー!えーっと…人間さん!だよね?なんでこんなところにいるの?」
軽快に走ってきたのは、白髪を太もも辺りまで伸ばした少女。身長は小学4年生くらいだろうか。
「ぁ、え?いや、えっと…誰…?」
聞きたいことは山ほどあるが、まず名前からにした。
「え?あたし?あたしはね、大悪魔のラウラ!人間さんだから、ここがどこかもわかんないよね!ここは魔界の『強欲』の層だよ!」
あたかも当然のように、知らない話を語る少女…ラウラ。
「…え?」
こうして、平凡な私の、平凡じゃない生活が始まってしまった。




