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第95話 ようこそ!小豆沢家バーベキュー


夜。梓の部屋。


お風呂上がりの髪を、タオルでくしゃくしゃと拭きながら、梓はなんとなくスマホに目をやる。

ちょうどそのとき、テーブルの上でスマホがふるりと震えた。


画面には、詩音からのRain。


『今度の土曜日、うちでバーベキューやるんだけど、梓ちゃんも来ないかなー?』


……バーベキュー?


読み終わらないうちに、もうひとつ通知が届く。


『メイちゃんも来るよ!』


スマホを持ったまま、梓はしばらく黙っていた。

予定があるわけじゃない。

でも──


詩音の家族に囲まれた場所で、みんなと一緒に過ごす自分の姿が、どうしても想像できなかった。


そっと息を吐いて、画面に指をのせる。


「仕事だからいけない」


ほんの小さな嘘。

でも、これ以上、踏み込む勇気がなかった。


ひと呼吸おいて、もう一通。


「誘ってくれて、ありがとう」


メッセージを送り終えた梓は、スマホをそっとテーブルに置いて、静かに部屋を出ていった。


◇◇◇


お天気に恵まれた、土曜日のお昼どき。

今日は、小豆沢家のバーベキューの日だ。


詩音の家は、祖父母との二世帯住宅。

二階建ての建物には玄関がふたつ並び、向かって左側には白いアウディSQ5と、赤いフォルクスワーゲンのポロが寄り添うように停まっている。こちらが詩音たち家族の住まい。


一方、右側の玄関の前には、手入れの行き届いた芝生と、小さな花壇。

ミニトマトやバジル、それに朝顔が絡む支柱が、夏の名残をとどめている。そこが、祖父母の住むほうだ。


その芝生のあたりに、黒い鉄製のバーベキューコンロがどんと据えられて、詩音の父・壮太が、炭に火を起こしているところだった。


となりには、大きめの木製テーブル。

赤と白のチェック柄クロスが風に揺れている。テーブルの端には、紙皿や紙コップの山。


「お母さん、これ、ここでいい?」


紙皿の束を抱えてやってきたのは、詩音の姉・歌音。どこかテキパキとした足取りで、母・裕子に声をかける。


「テーブルの端に置いといて。詩音、まだ〜?」


「持ってきたよ〜」


玄関のほうから返事がして、椅子をふたつ抱えた詩音が現れる。

そのまま軒先によいしょ、と椅子を並べて、手をパンパンと払った。


庭には、もうすぐ始まる楽しい気配が、少しずつ集まりはじめていた。


そのとき──門扉の外から「こんにちは」と声がして、メイがやってきた。

手には小さめの保冷バッグ。


「あ、メイちゃん!」

玄関先にいた詩音が、ぱっと顔を明るくする。


「いらっしゃい、メイちゃん」

姉の歌音も顔をのぞかせて、穏やかな笑みを浮かべた。


「これ……西伊豆のおばあちゃんから送ってきたアジの干物なんですけど、よかったら皆さんでどうぞ……」


メイがおずおずと保冷バッグを差し出すと、歌音が受け取りながら声を張った。


「ありがとう。お母さーん、メイちゃんが干物持ってきてくれたってー」


すると詩音が、ちょっと困ったような顔をする。


「もー、手ぶらで来てねって言ったのに」


「ううん、おばあちゃんがたくさん送ってくれて。一人じゃ食べきれなくて……」


そう話していると、玄関のほうから裕子が顔を出した。


「あら、メイちゃん、いらっしゃい。そんな気を遣わなくていいのに。今日はゆっくり楽しんでいってね」


「はい、ありがとうございます」


「もう少ししたら始まるから、ちょっと待っててね」


そう言いながら、裕子が支度に戻ろうとしたとき、メイが少し前に出て声をかけた。


「何か手伝います」


その背中を見ていた詩音が、すかさず止める。


「メイちゃんは来賓なんだから、座ってて」


「……あ、うん」


メイが微笑みながらうなずいたそのとき、ふと思い出したように尋ねる。


「ところで、凛々花ちゃんは?」


「まだだよ。さっきRainで瀬原駅ついたって」


「梓ちゃんは、お仕事なんだってね」


「そうなの。残念だよぉ。また何かの時は、声かけようね!」


「詩音、ちょっといい?」


縁側の奥から裕子が呼ぶと、詩音は「はーい!」と返事してから、くるっとメイのほうを向いた。


「メイちゃん、椅子に座っててね」


そう言い残して、詩音は裕子のあとを追って、縁側の向こうへ消えていった。


メイはひとり、芝生のほうへ視線を向ける。

バーベキューコンロの前では、詩音の父・壮太が炭の火加減を見ていた。


その穏やかな横顔を見て、メイは少し遠慮がちに歩み寄る。


「あの……」


気づいた壮太が振り向いた。


「あっ、メイちゃん。よく来てくれたね」


「先日は、タイヤ交換……ありがとうございました」


「ああ、全然。ちょっと早いかなとは思ったけどね」


「いえ、すごく安心できて。助かりました」


「それならよかった。今日はたくさん食べてって」


「はい。ありがとうございます」


メイがぺこりと頭を下げると、壮太はふっと笑ってトングを持ち直す。


「今日は他にも来るんだよね。詩音が言ってたけど……」


「はい。凛々花ちゃんって子が……」


ちょうどそのとき。

門の向こうから、ひとつの影がそっと現れた。


凛々花だった。

白いワンピースに、両手でしっかりと大きな紙袋を抱えて、庭先にぽつんと立っている。


「あ、凛々花ちゃん」


メイが声をかけると、凛々花がそっと振り向き、にこっと笑った。


「あ、凛々花ちゃんだ!」


縁側から詩音が顔を出し、大きめのサラダボウルをテーブルに置いて駆け寄る。


「ようこそ、凛々花ちゃん!」


「……あのね、これ……」


凛々花が少し戸惑うように紙袋を差し出す。


「え、なになに?」


「ママが、何か持って行きなさいって……言うから」


「手ぶらでいいよって言ったのに〜」


そう言いながらも、詩音は興味津々で紙袋の中をのぞき込む。


「わっ……なにこれ、高っそ……!」


中には、金色のリボンがかけられた、大きなホールケーキの箱。

ツヤのある白地に、小さく店名のロゴが入ったそのパッケージは、明らかに“いいお店の”ものだった。


「すごい……これ絶対、高いやつじゃん」


そっと受け取ると、ずっしりとした重みが伝わってくる。


「冷蔵庫に入れとくから、あとでみんなで食べようね!」


詩音は嬉しそうに声を弾ませながら、ケーキを抱えて家の中へと入っていった。


その後ろ姿を見送っていたメイの隣で、凛々花がぽつりとつぶやく。


「メイちゃん……」


「ん?」


メイが振り向くと、凛々花は目を細めて小さく笑った。


「……たのしみ」


「あ、うん。そうだね」


メイも思わず、ふっと笑みをこぼした。


初めてのバーベキュー。

やわらかな陽射しが差し込む庭には、少しずつあたたかい空気が満ちていく。

気がつけば、足元の芝生には風の通り道ができていて、スカートの裾がふわりと揺れた。


「そろそろ時間かのう?」


聞き覚えのある声に顔を上げると、詩音のおじいちゃんとおばあちゃんが、隣の玄関から並んで出てくるところだった。

二人とも、帽子を手にして、これからちょっとしたお祭りにでも出かけるかのような、少しうれしそうな顔をしている。


「あら、メイちゃん」


「あ、おばあちゃん。浴衣の時はお世話になりました」


ぺこりと頭を下げるメイに、おばあちゃんはにこにこと笑って、


「いやいや。またいつでも来てくんなましね」


「ありがとうございます」


ふと隣を見ると、凛々花がポワンとした笑顔で立っていた。


「あれ、こちらは?」


「あ、友達の凛々花ちゃんです」


「よろしくお願いします」


凛々花が丁寧に頭を下げると、おばあちゃんはぱっと表情を明るくして、


「まぁ、詩音の友達はみんなべっぴんさんだねぇ。よろしくね、凛々花ちゃん」


「……ありがとうございます」


凛々花が少し照れくさそうに笑ったちょうどその頃、

テーブルのほうでは、裕子が大皿を並べ終えて手をパンと合わせた。


「さて、こんな感じかしらね」


サラダに漬物、枝豆におつまみ系のチーズやクラッカーなど。

テーブルの上にカラフルな色と香りがそろっていた。


人数が揃い、炭火のパチパチという音をBGMに、庭の空気が一段とにぎやかさを帯びていく。


「じゃあ、みんな、好きな飲み物を取って」


クーラーボックスのふたを開けながら、壮太が声をかける。

中には氷水の中で冷えた缶ビールやジュースがぎっしりと並んでいた。


「私、梅ソーダ!」

詩音が真っ先に手を伸ばす。


「……あんた、いちいち申告しなくていいから」

歌音が呆れたように返すけど、どこか楽しげだった。


メイはお茶のペットボトルを手に取り、

凛々花は少し躊躇いながらも、手をつっこんで──


「……つめたっ」


思わずつぶやいてから、レモンソーダを取り出した。


裕子も歌音も、そしておじいちゃんとおばあちゃんも、

それぞれ好きな飲み物を手にしながら、自然とテーブルのまわりに集まってくる。


そろそろ乾杯、という空気になってきたところで──


「えーと……」と壮太が言いかけたのを遮るように、

「みんなー!」と詩音が元気よく声を上げた。


「紹介するね、お友達の凛々花ちゃんです!」


目線が一斉に集まる中、凛々花はすっと一歩前に出て、少しだけ緊張したように挨拶する。


「はじめまして……伊藤凛々花って言います。……後ろからの風が強くて、空気が笑ってました」


一瞬、静まり返る小豆沢家の面々。


でもすぐに、詩音とメイが顔を見合わせて、ふっと笑った。


「はいっ、今日も凛々花ちゃん絶好調〜!」

詩音が軽く手を挙げて言う。


「みんな、ちゃんとついてくるんだよ〜?」


そのひと言で場がほぐれて、どっと笑い声が上がった。


「よろしくね、凛々花ちゃん」


「詩音の友達って、ほんと個性豊かだねぇ」


あちこちから声がかかり、凛々花は嬉しそうに、小さく頭を下げてニコッと笑った。


「……あはは、じゃあ乾杯するか」


壮太がグラスを掲げると、みんなもそれにならって、声を合わせた。


「カンパーイ!」


手を伸ばして、グラスや缶が軽く触れ合う。

昼下がりのやわらかな陽ざしと、弾けるような声。

その音は、どこか遠くまで届いていくようだった。


炭火のそばでは、串に刺した野菜やお肉がじゅうっと音を立てている。

香ばしい匂いがふわりと漂い、空腹をくすぐってくる。


「詩音ちゃん……写真、撮ってもいい?」


凛々花がそっと訊ねると、詩音はうれしそうにうなずいた。


「うん、いいよ!」

紙コップを片手に、ピースのポーズ。


「ありがとう」


そう言うと、凛々花はくるりと背を向けて、すっとしゃがみこんだ。


狙いを定めたのは、庭のすみっこにある、祖母の育てた花壇。


小さなマリーゴールドの群れに、そっとレンズを向けてシャッターを切る。


「……そっちかいっ」


置いてきぼりにされた詩音が、指をピースしたままつぶやく。


「またやられたね」

メイが笑う。


「でへへ……」


照れくさそうに笑う詩音の声も、なんだか心地いい。


◇◇◇


お肉が焼けるたびに、「うわ〜、いい感じ!」なんて声があちこちからあがる。

それぞれが、好きなものを好きなタイミングで頬張って、笑って。


気がつけば、メイも凛々花も、小豆沢家の輪の中にすっかり溶け込んでいた。


「外で食べると、なんでこんなに美味しいんだろうね」


そんなふうに思えるような、ゆるやかで幸せな時間が流れていく。


そのとき。


凛々花が、じっと焼けてきた茄子にレンズを向ける。

しばらく構えて、カシャ。


「……この茄子、さっきより機嫌よさそう」


「えっ?」と詩音が笑いながらのぞきこむ。


「あぁ……炭火でじっくり焼いてるから……かな?」


そこに得意げな祖父の声が割り込んだ。


「桃栗三年、なす八年って言うからのう」


「おじいちゃん、それ“柿”八年でしょ」

歌音がすかさず突っ込む。


「おお、歌音には……言うこと“なす”だな」


……一瞬の静寂。


シーンとした空気の中、凛々花が、


「……なす……ぷふっ……ふふっ、なすって……くくっ」


と、小さく吹き出した。


肩をふるわせながら、笑いがこぼれていく。


「えっ? 凛々花ちゃん、いまのツボったの?」


詩音が思わず笑いながら聞き返すと、その場にいたメイも、祖母も、つられて吹き出した。


「言うこと“なす”でかぁ……ふふっ!」

「凛々花ちゃんったら、まぁ……」


笑い声がひとつ、またひとつと重なって、庭にやさしい風が吹いたようだった。


その笑い声を背に、壮太と裕子は、バーベキューコンロのそばに立っていた。

氷がまだ残るグラスを片手に、ふたり並んで火加減を見守っている。


「メイちゃん……あんなに小さかったのになぁ」


ぽつりと呟いた壮太に、裕子はくすっと笑った。


「詩音と同い年よ。そりゃあ、立派にもなるわよ」


「……そうだな」


少しの間を置いて、壮太が再び口を開く。


「あの子たち……覚えてると思うか? 昔、一緒に遊んでたこと」


裕子は小さく首を振った。


「……たぶん、知らないと思う。なんとなく、言うタイミングも逃しちゃって……」


「奏恵ちゃんのことも?」


「うん。……私たち三人のことも」


ふわりと風が吹いて、庭の隅の木の葉が、ささやくように揺れた。


「でも……すごい偶然だよな」

「こうしてまた、縁がつながってるなんてさ」


壮太の言葉に、裕子はふと目を細めて笑った。


「……ね。でもね、偶然じゃないような気もするのよ」

「麗佳の想いが……どこかで、糸をつないでくれたような、そんな感じ」


「おや……現実主義の君が、そんなこと言うとはね」


「ふふっ。そんなふうに考えたくもなるのよ。あの子たちを見てると」


「……草薙の店が紡いだ“糸”か」


ふたりは並んで、庭の光景を静かに見つめた。

笑い声の中に混じる、小さな仕草ややりとりのひとつひとつに、

過ぎてきた季節と、これからの時間が、そっと重なるようだった。


◇◇◇


炭の香りと陽射しの中、時間はゆっくりと流れていく。


「詩音、ちょっと手伝って〜」

「あーい!」


裕子に呼ばれて、詩音が走って家の中へと入っていく。


縁側には、凛々花がちょこんと座っていた。

レトロなカメラのモニター画面に視線を落とし、撮った写真を静かに眺めている。


その隣に、メイがそっと腰を下ろした。


「……写真、見てもいい?」


メイの問いに、凛々花は小さくうなずく。


「うん、いいよ」


画面には、花壇の小さな花、庭の物干し竿に揺れるタオル、

じりじりと焼けて色づいたコンロの上の野菜たち。


どれも、そこにある“音”や“温度”が伝わってくるような写真だった。


「いいね、この写真……」


メイがそっとつぶやくと、凛々花は少しだけ照れくさそうに笑った。


写真を送るボタンを押していくと──

串を持って大笑いしている、メイと詩音の写真が現れる。

肩を寄せ合って、眩しいくらいに笑っている、素の表情。


「あっ……これ、私だ」


画面に映った自分の笑顔を、メイはまじまじと見つめた。

なんだか、少しだけくすぐったい。


「……いい笑顔」


凛々花がぽつりと呟いたあと、ふいに口を開く。


「……私ね、今まで、物とか風景ばっかり撮ってたんだぁ」


「うん」


「人って……撮っても、だいたい後ろ姿とかばかりで」


カメラを持ったまま、指先で画面を送っていく。

そこには、頬をゆるめている詩音の横顔や、コンロの前で談笑している壮太と裕子、

紙皿を手に笑いながら祖父の肩を軽く叩く祖母の姿が、自然な光の中に切り取られていた。


「でもね、最近は……人物も、いいなって思うようになってきて」


静かな声。

その一言に、どこかあたたかく、でも奥行きのある響きがあった。


そして、次の写真で、画面が止まる。


コンロの前に立つ壮太のまわりに、詩音と歌音。

少し離れたところから、それを見つめる裕子の柔らかな笑顔。

寄り添うように過ごす、小さな家族のワンシーン。


メイと凛々花は、しばらくその写真を見つめたまま、言葉を失っていた。


凛々花の胸の奥に、そっと何かが触れるような、静かな波紋。

記憶の奥底にしまいこんでいた、自分の家族の風景が、ふいに浮かび上がってくる。


「……こんなの、初めて」

凛々花がつぶやいた。


「家族って、いいね」


その言葉に、メイは小さく息を吸い──そして、静かにうなずいた。


「……わかるな。私、お父さんもお母さんも、もういないから」


「……あ、ごめんね」


凛々花が小さく目を伏せた。

けれど、メイはやさしく微笑んだ。


「ううん。大丈夫だよ」


メイの笑顔に、凛々花もほんのり微笑み返す。


「誘ってくれた詩音に、感謝だね」


「……うん。私ね、詩音ちゃんといると、元気になるんだ」


「わかる。それ、すっごくわかる」

「ちょっと大変な時もあるけどね」


ふたりで顔を見合わせて、くすっと笑い合う。


──その頃。家の中の台所では、詩音が食材を取り出しながら、ふいに大きなくしゃみをした。


「……はっくしゅんっ!……あれ、風邪かなぁ?」


誰にともなく呟きながら、鼻をすすっている。


そして、縁側の外では──

夕暮れの風が、ふたりの笑い声をふわりと撫でていた。


◇◇◇


お肉やソーセージをたっぷり平らげて、バーベキューもそろそろ終盤。

ひんやりとした甘い香りとともに、裕子が家の中からケーキの箱を抱えて戻ってきた。


切り分けられたそのケーキは、苺がびっしりと敷き詰められた、つややかなホールケーキ。

陽の光を受けて、表面のナパージュが宝石みたいにきらきらと輝いていた。


「うわーっ、凛々花ちゃんのケーキだ!」


箱を見た瞬間、詩音の声がはずむ。


「……あんた、さっきお腹いっぱいって言ってたじゃん」


歌音があきれたように言うと、


「ケーキは別腹〜」


と、詩音は得意げにフォークを手に取った。


その横で、誰よりも早くケーキを頬張っていたのは、おじいちゃん。


「これはうまい……エッフェル塔の味がするぞ。フランスで食べたのと、まったく同じだなぁ……」


ケーキを見つめながら、うっとりとした顔で言う。


「……あんた、フランスどころか、パスポートも持ってないでしょ」


おばあちゃんがすかさずツッコミを入れる。


メイが思わず吹き出した。


「詩音の天然って……おじいちゃん譲りかもね」


「えっ!? そんなことないよ〜! 私、ちゃんとしてるもん!」


焦ったように返す詩音に、


「その“ちゃんとしてる”がもう危ないのよ〜」


と、今度は歌音がきっぱり。


裕子はそんなやりとりを見ながら笑って、


「ふふ、歌音はおばあちゃん譲りかしらね」


メイと凛々花が目を合わせて、クスクスと笑った。

その笑いが、まるで火が移るように、あちこちに広がっていく。


昼下がり。

苺の甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。

フォークを動かす手が止まらない。


「ヤバい、美味しいー!」


「声、デカすぎっ」


歌音にツッコまれながら、詩音は口をほおばったまま、にっこりと笑っていた。


秋の風に吹かれながら、笑い声が庭いっぱいに広がっていった──



ここまで読んでくださってありがとうございます!

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