第8話 骨折と 気分と 我が家の車
けたたましい着信音で目が覚めた。
どうやら昨夜は、ゆるキャン△を見ながらそのまま寝てしまったらしい。
スマホの画面を見ると、妹の名前が表示されていた。
めったに電話なんてしてこないくせに、朝の6時半。なにごと……?
「マイ、どしたの……?」
壁の時計をチラッと見ながら、ぼんやり声で応える。
マイは二つ下の妹で、今は地方の大学に通ってる。
「お姉ちゃん、おはよ。あのね、おじいちゃんがさ、骨折して入院したんだって」
いきなりの爆弾発言。
さすがマイ、話のテンポがいつも早い……
——って、え、骨折!?
一気に目が覚めた。
話を聞けば、おととい階段で転んで足をやっちゃったらしい。
マイが電話したとき、おばあちゃんは変わったことはないって言ったけど、なんとなく違和感を感じて、無理やり聞き出したんだそう。
「おばあちゃんは大丈夫って言ってるけど、ちょっと気になるんだよね。だからさ、お姉ちゃん、行ってきてよ」
……わたしが?
西伊豆の安久里村ってとこに住んでる父方の祖父母。
たしかに、親戚の中じゃ一番近いのは、わたし。
「たまには役に立ってよね〜。いつもボケ〜っとしてるんだから」
そう言い残して、マイの電話は一方的に切れた。
なんか納得いかないけど……でも、ちょっとだけ、気にはなる。
あさってはお休みだし。行ってみようかな。
電話を切ったスマホの画面には、T-REXのゆるキャン△の再生画面が、止まったまま。
志摩リンの静かな声が、まだ頭の中でうすく響いていた。
◇◇◇
その日の昼休み。
メイは文学館のそばにある大きな公園の、いつものベンチに座っていた。
木陰にひっそりとある、ちょうどいい場所。人目も少なくて、お弁当を広げるにはぴったりの隠れ家。
スマホで地図を眺めながら、おにぎりを一口。
今朝、おばあちゃんに電話したときも「本当に大丈夫だから来なくていいのよ〜」って笑ってたけど……
「ちょうど休みだし、たまには顔見せに行くよ」
なんて、ごまかすように言った。
安久里までは、電車とバスで行くとけっこう遠い。
片道4時間くらいかかるし。
やっぱり車かな。
東名から伊豆縦貫道を抜けて、土肥から船原峠を越えるコース。
家からなら、2時間半くらいで行けそう。
——よし、決まり。
以前の自分だったら、こういう“家族ごと”はなんとなく避けてたかもしれない。
面倒とか、タイミングが合わないとか、理由をつけて。
でも今回は……うん、心配っていうのもあるけど、それだけじゃない。
「今回は、行こう」
よく分からないけど、胸の奥から、何かが後押ししてくれている……ような気がした。
ひとつ問題があるとすれば、車。
仕事では営業車に乗ってるけど、家の車はずっと放置したまま。
——あの日以来、エンジンすらかけてない。
マニュアル車だけど……大丈夫。
たぶん、まだ運転できると思う。
問題は…… まあ、なんとかなるかな。
久しぶりに、あのドアを開けてみよう。
今はそんな気持ちの方がまさっていた。
それでも、胸のあたりがそわそわして…
少しだけ長いため息がこぼれた。
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