第7話 再生ボタンの向こうには
家に帰って、シャワーを浴びて、冷たいお茶をひと口。
なんとなく、ランチの時の会話が頭から離れなかった。
――「ゆるキャンってアニメ、メイならきっとハマるよ」
ソファに寝転がったままスマホをいじって、涼子に言われた動画配信サービス「T-REX」のアプリをダウンロードしてみる。
名前のわりに、画面はわりとシンプル。
登録するだけで、いろんなアニメが見られるらしい。
「えーと……ゆるキャン……っと」
検索窓に打ち込むと、すぐに出てきた。
ちょっと前のアニメみたいだけど、絵が可愛い。空気感も、なんだかふわっとしてる。
第一話をタップ。再生ボタンを押す指先が、少しだけワクワクしてるのに気づいた。
画面に映ったのは、冬の湖畔とひとりの女の子。小さなテントに、焚き火。
凍えるような空気のなかで、もくもくと湯気が立ちのぼるカップ麺。
しゃべり方が淡々としてるのに、どこか心地いい。
……あれ、わたし、これ嫌いじゃないかも。
「冬は虫がいないし、人も少ないし、景色もキレイで……キャンプにはいい季節なんだよ」
画面の中の女の子――たしか、志摩リンって名前だったかな。
その言葉が、ふっと胸に引っかかった。
冬でもキャンプできるんだ。しかも、ひとりで。
画面が切り替わって、もうひとりの女の子が登場する。
なでしこって子。明るくて元気で、ちょっとドジっ子で、でもすごく楽しそう。
「富士山って、こんなに大きいんだ……」
夜の空に浮かぶ富士山を見上げるシーン。
一瞬だけ、目が奪われた。
――そういえば。
前にWetubeで見た動画を思い出す。
“車中泊とか、車いじりとかの人”で有名な「Uドン太」っていうWetuberが、初めてキャンプに行ったっていうやつ。
たしか、車の中からスタートしてて、「初心者です!」って何度も言ってた。
道具とか、火起こしとか、いちいち戸惑ってて、なんか笑っちゃうくらい不器用だったけど、
最後に、「目の前に富士山がどーん!ってあって……泣きそうになった」って言ってた。
そのときは、「ふーん」で終わったけど。
今思うと……なんだか、その気持ちがちょっとわかる気がする。
キャンプって、もっと大変そうなものだと思ってた。
重い荷物を背負って、山奥まで歩いていくとか、サバイバルっぽいことするとか。
だけど、車で行けて、便利な道具もあって、しかも冬なら虫もいなくて、人も少ない。焚き火だって出来るし。
それって、もしかして……。
「私でも、できるのかな」
ぽつりと、心の声が口からこぼれた。
部屋のなかに、自分の声だけがふわっと残る。
できるかも、なんて自信はない。
打ち消す気持ちが水を差す…
でも、ちょっとだけ思ったのも事実。
——“やってみたい”って。
メイの中の、くすぶっていた小さな、小さな火種が、少しだけ赤くなっていた。
ちょっとだけあたたかさを増して。
ここまで読んでくださってありがとうございます!




