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第6話 青空と 横浜と 久しぶりのランチ


次の日。

メイにとっては平日休みの日。


昨日とは打って変わって、青空ぬけるいい天気だ。梅雨の晴れ間とはこんな日のことを言うのだろう。


午前中はだらだらして、ゆっくり準備して、電車に乗って横浜・馬車道へ。


今日は、涼子とランチの約束をしていた。


津島涼子。

家が近くて小さい頃から家族ぐるみの付き合いをしてた津島さんのとこの娘で同級生だ。

小中学、高校とずっと一緒で、言うなれば親友ということになるだろうか。


かといって、ベタベタするようではないところが、メイには心地よい関係だ。


涼子とは花見ランチ以来だから、会うのは3ヶ月ぶりになる。


待ち合わせたのは、馬車道のはずれにある、小さくてオシャレなカフェ。

ここはデザートで有名な店だ……って涼子が言ってた。


ガラス越しに店内を見ると、マリン調に飾られたシックな店内は、平日なのに、そこそこに混んでいる。


この手のお店、入るのっていつも気後れするんだよなーって思いながら、少し勇気を出して、手押しのドアを押した。


カランコロンとベルか響く。


「おー、メイ。久しぶり!」


スタッフの「いらっしゃいませー」よりも少し早いタイミングで、先に着いていた涼子が、手を振ってくれた。


「久しぶり〜」と、メイは、か細い声で小さく手を振りかえした。


「よく席取れたね」とメイ。

「そりゃあ、予約したからさ」

いつも通りのハキハキした涼子の

声に安心感を覚える。


涼子は、淡いベージュのとろみ素材のブラウスに、ネイビーのテーパードパンツという上品な組み合わせ。

きちんと感はあるのに、どこか抜けのあるリラックスした雰囲気。


足元はベージュのローヒールパンプス。足首には細いゴールドのアンクレットがさりげなく光っている。


髪は低めのポニーテールにまとめられていて、揺れるパールのイヤリングがアクセントになっていた。


バッグはくたっとしたレザーのショルダーバッグで、全体的に大人っぽく洗練された雰囲気を醸し出している。


やっぱオシャレだ。


メイは、白いブラウスに淡いグレーのカーディガン、ベージュのロングスカートという、なんとなく清楚っぽい組み合わせで来ていた。


服選びはいつも苦手で、今朝も鏡の前でずいぶん悩んだ。


「ちょっと地味すぎるかな…?」と思いながらも、涼子と会うからとクローゼットの奥から引っぱり出してきた、数少ない“ちゃんとしてる服”。


足元は白のスニーカー。履きなれたものだけど、出がけにちゃんと拭いてきた。


メイクも、ほんの少しだけ。ファンデを塗って、リップをひと塗り。


それだけでも、メイにとっては“がんばったオシャレ”だった。


大学4年生の涼子は、就活を早々に終えて、来年から東京の証券会社で働くらしい。


まさに“デキる女”。


昔からスポーツもできて、頭も良くて、可愛くて、クラスの人気者。

才色兼備とは涼子のことを表す形容詞だと、ずっと思ってきた。


メイとは正反対の性格。だけど、なぜか昔から気が合った。

なんでも話せるし、なんか言われても不思議とカチンとこない。

むしろ涼子の言葉は、たまに自分の中の灯りになることがある。


メイがテーブルに着いて早々に


「ランチプレート、限定十食だって」


涼子が切り出す。


「それじゃあ、それにしよ」


メイはいつもこんな感じで、涼子についていくことが多かった。今も昔も。


ランチを頼んで、近況を話し終えた頃、

運ばれてきたのは、彩り豊かな季節のランチプレート。


メインは、皮目をカリッと焼いた鶏もも肉のロースト。

ローズマリーとレモンの香りがふわりと立ちのぼって、食欲をそそる。


添えられたラタトゥイユには野菜の甘みがぎゅっと詰まっていて、口に運ぶたびにじんわりと心がほどけていく。


もち麦入りのバターライスと、自家製ドレッシングのサラダ、カップに入った冷製コーンスープもついて、バランスの取れた一皿だった。


「これ、ほんと美味しい。鶏、ジューシー」


「やっぱ、馬車道ってハズレないよねー」


矢継ぎ早な涼子の言葉に、メイは、うん、うん、と合槌をいれるだけ。

今も昔もいつもこんな感じ。


いつもと同じ感じが嬉しかったりした。


メイはふと昨日のことを思い出した。


「…メイ、なんかあった?」

涼子はちょっとした、些細な変化に鋭い。


「いや…別に…」

言葉を濁す。でもやっぱり…


…でも、意を決した。


「ねえ、ちょっと変なこと言っていい?」


「いいよ。 で、どうした? 」


「焚き火って…ちょっといいなって思っちゃって」

ちょっと恥ずかしいけど、思い切って口にしてみた。


「焚き火? え、なに、急に哲学?」


「ちがうの。…なんか昨日、雑誌で焚き火特集読んじゃって。で、なんか…癒されるっていうか、いいなぁって」


「へぇー 意外」


涼子はちょっと目を見開いてから、にやっと笑った。


「だったら、キャンプやれば?」


「えっ、キャンプ? いやいや、そんな本格的な…私にはムリでしょ」


「そう思うでしょ? でもね、アニメがあるんだよ。女子高生がキャンプしてるやつ」


「アニメ? そんなのあるんだ?」


「『ゆるキャン』ってやつ。メイってアニメ好きじゃん!」

面と向かってアニメ好きと言われると、なんだか反論したくなるけど、嫌いじゃないのは事実だ。


「あれ見たら、たぶん“あれ、私にもできるかも”って思うよ」


「へぇ〜…アニメでキャンプって、ちょっと意外」


「キャンプって、ガチで山にこもるとかじゃなくてもいいんだよ。道具そろえて、近場のキャンプ場でちょこっと焚き火して、ごはん作って、ぼーっとするだけでもいいんだから」


まくし立てるように話す涼子。

この容姿でアニメにも精通してるところが、このコのすごいところ…これも偏見なんだろうな。


「へぇー …それなら、ちょっと見てみようかな…」


「でしょ? メイならきっとハマるよ。あの感じ、絶対好き」


そんな涼子の言葉に、メイは少しうつむきながら微笑んだ。


自分の中で、なんだか小さな小さな種火がひとつ、ふわっと灯ったような気がしたから。


——そんなやりとりをしながら、デザートが運ばれてきた。季節のタルトとアイスクリームのセット。


いちごとピスタチオのタルトは、サクサクのタルト生地に滑らかなクリームが重なり、甘酸っぱいいちごと香ばしいピスタチオが贅沢にのっていた。


添えられたバニラビーンズ入りのアイスは、しっかりとコクがあり、タルトの甘さを引き立てる。


「これ、おいひぃね〜」


メイが、口いっぱいにタルトを詰め込みながら楽しそうに言った。


「メイがやりたいこと、言うなんてね」


涼子も、デザートを頬張りながら、目を細めた。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

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