第58話 超緊張!マウントワンでこんにちは
矢鞠駅の改札口で、メイは詩音を待っていた。
改札を抜けてくる人の波がひと段落したころ、ラベンダー色のパーカーに明るいグレーのキュロット姿の詩音が姿を現した。小さなリュックを背負って、少しだけアウトドア仕様な出で立ちだ。
「お待たせ……」
いつも通り元気そうな格好なのに、表情はちょっと固い。
理由は分かっていた。今日、梓と会うからだ。
「なんか顔、固くない?」
「だって……梓ちゃんって、クールな人なんでしょ……?」
ぽそっと言う詩音に、メイはふっと笑う。
「大丈夫だよ。別に、取って食われたりしないから」
「え、食べられる可能性ゼロではないってこと!?」
「はいはい、もう行くよ」
からかうように言って、メイは詩音の手をひっぱった。
少し不安そうな顔をしながらも、詩音はそのまま歩き出した。
◇◇◇
大通りに出ると、ガラス張りの建物が見えてきた。
詩音が足を止めて、駐車場の手前から見上げる。
「ほぇ〜、これがマウントワンかぁ……」
大きな看板に、スタイリッシュな外観。詩音にとっては、人生初の本格アウトドアショップだ。
「梓ちゃん、店の中にいるって。入ろっか」
メイがそう言って、自動ドアの前に立つ。詩音が「おお〜」と声を上げながら後に続く。
中に入ると、空気がひんやりと変わった。
正面には、テントとチェアが並ぶキャンプサイトのディスプレイ。
「うわ、見てメイちゃん!すごいよこれ!
え、なにこれ、かわいい!こっちも見て見て!これ最高じゃん!」
詩音、テンション爆上がり。
店内の静けさを一気にかき乱して、あっちへこっちへ大騒ぎ。
そんな中——
すでに店にいた梓は、入口の騒がしさに顔をしかめた。
(なんだ、あのうるさいやつは……)
目を細めて、じっと視線を向ける。
「あ、梓ちゃん!」
突然、メイの声が飛んだ。
ぴたっと詩音の動きが止まる。
(え、今、“梓ちゃん”って言った……よね?)
ゆっくりと顔を向けた先に、スラッとしたクールな人影。
こっちを、まっすぐ見ている。
(……え、私、睨まれてる?)
詩音のテンション、急降下。
さっきまでの元気はどこへやら、顔面が一瞬でビビりモードに戻った。
メイがゆっくりと梓のほうへ歩き出す。
詩音も、その背中に隠れるように、恐る恐るついて行った。
「梓ちゃん、待った?」
「いや。そうでもない」
ぶっきらぼうな返事。でも、それが梓のいつものテンションだ。
「それならよかった。えっと、この子が……詩音だよ」
紹介の声に、詩音がぴしっと姿勢を正す。
「は、はじめまして……小豆沢、詩音ですっ」
緊張マックスの自己紹介。
それに対して、梓は一言。
「広瀬梓。よろしく」
棒読み、無表情、超そっけない。
(……嫌われた?ていうか、怖いかも)
詩音の脳内に警報が鳴り始める。
(うわ。こいつが雨漏り女か。うるさいヤツ、苦手なタイプだわ)
梓も、心の中でズバッと断罪。
どこかぎこちない空気が漂ったその瞬間、メイは小さく苦笑した。
(……なんとなく予想はしてたけど、やっぱりね)
「……寝袋、見に行こうか」
梓がぽつりと言って、くるりと踵を返した。
「うん」
メイが頷いて、あとをついていく。
そのさらに後ろを、詩音がのこのこと歩く。
寝袋コーナーには、ずらりと寝袋が吊るされていた。
種類も色も形もいろいろあって、ちょっとした布団屋みたい。
「いっぱいあるね〜」
メイがきょろきょろと見渡す。
「この辺はスリーシーズン用で、冬用は……こっちかな」
梓がそう言いながら、タグを確認しつつ説明する。
寝袋の話をする二人。そのとき、ふと梓が顔を上げた。
(……あれ?)
詩音がいない。
メイの肩越しに視線を動かすと、少し離れた棚の前で誰かと話している詩音が見えた。
相手は、背の低いおばあさん。
詩音はきょろきょろと周囲を見渡したかと思うと、脚立を引き寄せてきて、ふらふらとよじ登る。
(……何してんだ、あいつ)
心の中で思わずツッコミを入れる梓。
詩音は棚の上にあった箱を手に取って、おばあさんに渡した。
それなりに重かったらしく、ちょっとバランスを崩しかけたけど、どうにか持ち直す。
おばあさんはにこやかに頭を下げて、レジの方へ。
詩音は「ばいばーい」と手を振って見送った。
その様子を見ていたメイが、梓の視線に気づいて振り返る。
脚立を戻しながら詩音が駆け寄ってきた。
「ごめん、ごめん!」
「なにしてたの?」
「おばあちゃんがね、棚の上の荷物に手が届かなそうだったから、取ってあげたの。
……そしたら、思ったより重くて、落ちそうになっちゃって」
「落ちなくてよかったね」
二人はふっと笑い合った。
そのやり取りを聞いていた梓は、ひとこと。
(……雨漏り女、意外なことするじゃん)
気を取り直すようにして、梓は寝袋の説明を続けた。
「冬なら、やっぱり『快適使用温度』を重視したほうがいいと思う」
メイが頷きながら聞いている。
それを少し離れたところから、詩音がこっそり見ていた。
(へぇ〜、そうなんだ)
梓の声は落ち着いていて、説明も丁寧。
さっきまで“怖そう”と思っていたのに、こうして聞いていると意外とちゃんと話してくれる。
「……だとすると、ダウンの方がいい?」
メイがたずねる。
「まあ、ダウンは軽くて暖かいけど、湿気に弱いのと、手入れがちょっと面倒かな。
あと、価格もそれなりにするし」
細かい特徴まできっちり教えてくれる梓に、詩音は思わず感心してしまう。
(よく知ってるし、ちゃんと話すとちゃんと話してくれる。
……ちょっと怖くない人かも)
そんな矢先だった。
梓が、ふいに詩音の方を見て言った。
「そっちは?」
「えっ、私?」
「うん。寝袋、いるの? いらないの?」
詩音は一瞬びくっとしたけれど、口を開いた。
「……あ、はい……えーと、キャンプとか、行きたいな〜とは思ってて……」
少ししどろもどろ。でも、そのあと、声のトーンが変わる。
「……今は、大切なブックカフェのオープンに集中してるから。
キャンプは、そのあとで、本腰入れたいなって、思って……ます」
梓は黙って詩音を見つめて、ふっと息を吐いた。
(……思ったより、しっかりしたやつかもな)
「梓ちゃんのって、この中にあるの?」
メイが寝袋の並ぶ壁を見上げながら聞いた。
「どうだろ……あ、これだな」
梓が指差したのは、オレンジ色のシュラフ。
タグには『モンレル シームレス 800 #1』と書いてある。
「このメーカー、雑誌で見たことある」
メイがそっと触れると、ふわっと柔らかくて、なんだか心地よい感触だった。
「好みもあるけど、使ってみないと分からないことも多いしな」
梓がぽつりとつぶやく。
そのときだった。
「お試しになりますか?」
背後から、聞き覚えのある声がした。
振り返ると、にこやかな笑顔の店員さん。
いつもメイに話しかけてくれる、あのお姉さんだった。
「あ、こんにちは」
「いつもありがとうございます。あちらに試せるスペースがございますので、よろしければどうぞ」
「えっ、いいんですか?」
思わず声が大きくなるメイに、詩音はくすっと笑う。梓もその横で、ほんの少しだけ口元をゆるめた。
コットやマットが敷かれた、お試しスペース。
店員のお姉さんが、展示してあったマミー型の寝袋を丁寧に広げてくれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます……」
メイはスニーカーを脱いで、そろそろと寝袋に足を入れる。
足元をもぞもぞさせながら中に潜り込んでいると、隣にいた梓が無言でジッパーを上まで引き上げてくれた。
人生初の寝袋体験。
思った以上に狭くて、思った以上にすっぽり包まれる。
「メイちゃん、芋虫みたい〜」
詩音が横でにこにこしながら言った。
「詩音……それ、褒めてる?」
梓がふと尋ねる。
「どう?」
「うーん……ちょっと、暑い……」
「そりゃそうだよ。今、夏だし」
即ツッコミ。
店員のお姉さんが、やわらかな声で続ける。
「冬のキャンプでしたら、やはりこういった『マミー型』をおすすめしますね」
ふんわりしていて、包まれ感も悪くない。
メイは「これ、いいかも」と思いながら、ふとジッパーのところにぶら下がっていたタグを見た。
──48,500円。
一瞬、呼吸が止まる。しかも、「5%オフ」の文字がじわじわ追い打ちをかけてくる。
(……寝袋、もっと後で買う予定だったのに。今の予算、2万円だし……無理じゃん)
メイがタグをじっと見つめて固まっているのに気づいたのか、店員のお姉さんが別の寝袋を持ってきてくれた。
「こちらは、もう少しお求めやすいですよ」
それは、きれいな青の寝袋。クマのマークが付いている。
「この色、いいね。クマさんのマークもかわいい〜」
詩音が顔をほころばせた。
今度は、メイがその『グリズリーロック』の寝袋に入ってみる。
センタージップなので、服を着るような感覚で入りやすい。
中はわりと広めで、さっきよりもゆったりしている。
これなら、初めてでも落ち着けそうかも。
「快適睡眠温度域が12℃〜-12℃で、使用可能温度域は-12℃〜-34℃となっております」
「夏は少し暑いかもしれませんけど、工夫次第で快適にお使いいただけますよ」
店員さんが説明する間に、梓が足元のファスナーをいじる。
「これ、足出せるみたい」
するするとファスナーが開いて、空気がすっと入る。
「そうなんです。温度調節もできますし、手も出せますよ」
「え、便利じゃん」
メイは寝袋からそっと手を出してみた。
なにこれ、普通に快適。
「着たままスマホ触れるし、なんかいいじゃん」
詩音も感心している。
「……だねっ」
メイはジッパーのところのタグを、おそるおそる確認した。
──15,450円。
(おぉ……これならいける!)
その瞬間、メイの表情がぱっと明るくなった。
ちょっと満足げな笑顔で、寝袋から出てくる。
「詩音も入ってみたら?」
メイの一言に、「うんっ!」と詩音。
嬉しそうに寝袋へゴソゴソと潜り込んでいく。
「収納サイズはちょっと大きいけど、メイは車だから平気だよな」
梓が言うと、
「だよね。でもそれ、バイクの人っぽい着眼点だね」
メイが小さく笑った。
そんな中、横から詩音の声が響く。
「メイちゃん見て見て!これ、このまま歩けるよ〜!」
ごそごそ寝袋を着たまま、詩音がぴょんぴょん跳ねはじめた。
そして——
「うわっ!」
そのままバランスを崩して、インフレータブルマットに顔からダイブ。
ズザッと音を立てて、盛大に突っ込んだ。
「えっ!詩音、大丈夫!?」
慌てて駆け寄るメイ。
詩音は仰向けにくるっと転がり、「デヘヘ」と照れ笑い。
その様子に、メイもホッとして笑ってしまう。
だが、立ち上がろうとした詩音、寝袋のせいで足がうまく開かず——
「わっ」
もう一度、ゴロン。
今度はミノムシみたいに転がって、横のコットにゴツン。
「いった〜……」
その一連の動きに、梓がぷっと吹き出した。
ふいにこぼれた笑いは、少し意外で、優しい響きがあった。
それを見ていた詩音は、転がったまま思った。
(……なんか、優しい笑顔だな)
ほんの少し、梓の印象が変わっていく。
「あいつ、いつもあんななのか?」
梓が苦笑まじりにメイへ問いかける。
「うん、あんな感じ。飽きないよ、一緒にいると」
メイが笑いながら答えた。
横ではまだ、寝袋に入ったままの詩音が、もぞもぞと手を出している。
「見て見て〜!手が出たよ〜!」
その姿を見ながら、メイがふっとつぶやいた。
「……私、寝袋これにしようかな」
「悪くないんじゃない、これ」
梓もぽつりと返す。
その会話を、寝袋の中からごろごろしながら聞いていた詩音が、顔を出して言った。
「メイちゃんこれにするの?……私もこれ買っちゃおうかな〜!」
メイは青、詩音は赤。
二人は色違いでお揃いのグリズリーロックの寝袋を買うことにした。
◇◇◇
寝袋をカートに入れて、店の隅に置かせてもらったあと、三人はぶらぶらと店内を見て回ることにした。
気がつくと、誰ともなく、ランタンのコーナーで足が止まっていた。
棚には、大小さまざまなランタンが並んでいて、詩音はひとつひとつを興味深そうに眺めている。
そのときだった。
梓がふと周りを見渡すと、詩音のすぐ横に、小学校低学年くらいの兄妹がいた。
兄のほうが、手を伸ばしてランタンを取ろうとして——
ガタン、と音を立てて、ランタンが落ちた——その瞬間。
(あ……)
梓が思うより早く、詩音がするりと手を伸ばし、床ギリギリでキャッチ。
「ギリギリセーフ!」
振り返ったお母さんが、慌てた様子で頭を下げる。
「あ、すみません!」
「いえいえ、大丈夫ですよ〜」
詩音が笑顔で応じる。
「まったく……何やってんの」
お母さんが兄に言うと、男の子はしょんぼり、今にも泣きそうな顔をしてうつむいた。
「だってこれ、キレイなんだもん!」
そう言って妹が指差したのは、詩音が手にしているランタンだった。
小さな手が、「お兄ちゃんが、これ取ってくれてたんだよ」って言ってるみたいだった。
詩音はしゃがみ込んで、兄の目線に合わせて言った。
「そっか。妹ちゃんに近くで見せたかったんだよね、ランタン」
そっと頭をなでる。
詩音はお母さんを見上げながら、ふっと笑って話しはじめた。
「私も、小さい頃にプーさんのお皿、割っちゃったことあるんですよ。
しかも、けっこう高いやつ……」
「うわ〜……」
思わず声を上げるお母さん。
小さな笑いがこぼれて、そのまま短い会話でちょっと盛り上がった。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
去り際、男の子が元気な声で言った。
その一部始終を、梓は少し離れたところから見ていた。
(……こいつのコミュ力、やばいな)
◇◇◇
メイが、「ごめん、ちょっとトイレ」と言って、店の奥へと消えていく。
残された詩音と梓。
「……」
ふたりの間に、ちょっとした間が流れる。
そんな中、詩音がふと棚の上を見て、目をとめた。
『ご自由にお試し下さい』と書かれたPOPの前に、円錐型の金属の塊と、黒い棒が数本、無造作に並べられている。
「なんだこれ?」
独り言のように呟くと、すぐ隣から返事が返ってきた。
「それ、トーチだな」
「トーチ?」
「オイルトーチ。たいまつみたいなやつ」
そう言いながら、梓が棒を数本繋げる。ガチャッ、ガチャッ。全体の長さが伸びていき、最後に円錐のヘッドを装着する。
「おぉ、長くなった……」
「この頭のところにオイル入れて、ここに芯を入れて火をつける」
「明るいの?」
「使ったことないけど、そこまでじゃないと思う。どっちかって言うと雰囲気重視、だな」
詩音は、繋がれたトーチをじーっと見つめた。
(オイルトーチかぁ……ん? 待てよ。梓ちゃん、ちゃんと私と会話してくれてる?)
そのことに気づいた瞬間、嬉しくなってきて、テンションがみるみる上がってくる。
――なんか、うれしいかも!
ほんの一言が、胸の奥でふわっと弾ける。
「たいまつ……ウンパバするやつだよね?」
「え?」
「呼べるかな、UFO」
「……」
「キングコングとか来たりして」
「…………」
「ファイヤーダンス系? タヒチ気分!」
詩音、手をくるくる回しながら、腰を左右に振って踊り出す。
梓は黙ったまま、ほんの少しだけ口元をゆるめた。
(……なんなんだ、こいつ)
――そのとき、メイはすでに戻ってきていて、少し離れた場所から二人の様子を見ていた。
「踊るのやめろ」
「……あ、目がまわってきた……」
「だから言っただろ」
詩音がフラフラと座り込み、梓が笑う。
そんな光景を見ながら、メイは小さく微笑んだ。ふたりの姿が、なんだか、とても自然に見えた。
(……連れてきて、よかったな)
◇◇◇
買い物を終え、マウントワンを出た三人。日が傾きはじめ、空の色がほんのりと茜に染まっている。
「じゃ、寄ってくとこあるから、私はこれで」
そう言って、梓が駐車場の隅へ歩き出す。
「えっ、これ、梓ちゃんのバイク?」
詩音がバイクのそばに駆け寄り、目を輝かせる。
「……あぁ、そうだけど」
「かっこいい……!」
触れそうになる指先を、詩音はふと止めた。なんだか、勝手に触っちゃいけないような気がして。
「いいよ、触って。何なら、またがってみる?」
「えっ、いいの?」
パッと顔を輝かせた詩音に、梓が軽く手を添える。
「わー! かっこいいかも!」
またがって嬉しそうに座った詩音が、ふいに手を前に突き出して叫ぶ。
「ブォーン! 仮面ライダー見参っ!」
「……?」
きょとんとする梓。
(でたな……これぞ、まさに暴走娘だ)
メイはちょっと吹き出しそうになった。
どうやら満足したらしい詩音は、
「……降りるね。よっこいしょっと」
慎重にバイクを降りると、くるりと振り返って、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとう、梓ちゃん!」
その笑顔を見て、梓は一瞬固まり――そして、ほんの少しだけ目線を逸らした。
「あ、ああ……別に」
詩音はシートに手を添えてながら、何かを思いついたように聞いてみた。
「ねぇ、これって、二人乗りできるの?」
「まあ、一応……」
「今度さ、後ろ乗せてね!」
突然の言葉に、梓は少し目を丸くしたが、すぐに視線をバイクに戻す。
「……機会があったらな」
ぽつりとそう言って、ヘルメットをかぶり、エンジンをかける。
ブロロロ……と、低く唸るバイクの音。
梓は軽く手をあげ、駐車場を出ていった。
その後ろ姿を、詩音とメイは並んで見送る。
「なんか、かっこよかったなあ……梓ちゃんの仮面ライダー」
そう言って、満足そうにため息をつく詩音。
その横顔を見ながら、メイはうれしそうに微笑んだ。
「そうだ。このあと、甘いものでも食べに行こうか」
「うん、いくいく!」
いつもの調子で跳ねるように返事をする詩音。その後ろを歩きながら、メイはそっと寝袋の袋を抱え直した。
◇◇◇
夜。
梓の部屋には、静かな時間が流れていた。
ベッドに寝転びながら、スマホでアウトドア系の情報を眺めていると、メイからRainの通知が届く。
『今日はありがとう。グループRain、作ったよ』
トーク画面を開くと、「メイ」「詩音」「梓」――三人の名前が並んでいた。
グループRain……梓にとってはこれが初めてのことだった。
友だち一覧に、新しく追加された名前。
小豆沢……詩音か。
ぼそりと呟いたその口元に、ふっと笑みが浮かぶ。
「変なヤツ……」
画面を伏せるようにスマホを胸に乗せ、天井を見つめる。
夜の静けさの中、梓の表情はどこか穏やかだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!




