表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/138

第3話 雨と不運は、何かの前兆ですか?


朝から雨。しかも、けっこうな土砂降りだった。


「今年は空梅雨だって言ってたじゃん…」

テレビで見た気象予報士のおじさんの笑顔が、今となってはちょっと恨めしい。


通勤の間に、靴下はもうびしょびしょ。

前髪はおでこにペタリと張りついて、朝から最悪のスタートだった。


それに加えて、寝坊。

おまけに昨夜、炊飯器のタイマーをセットし忘れてて、お弁当も作れなかった。


コンビニに寄る時間もないし…また昼休みに外に出るのかと思うと、すでに憂うつだった。


なんとか会社にたどり着いた。今日は、靴下なしで一日を乗り切る覚悟。


◇◇◇


午前中は、とくに事件もなく過ぎていった。


昼休み。

運よく雨が小降りになったので、いそいそとコンビニへ。


だけど、当然のようにレジは長蛇の列。

ようやくお弁当を手に外に出たら、今度は雨が本降りになっていた。


傘、持ってきてないのに…。



「メイちゃん、ずぶ濡れじゃない。風邪引くよ」


向かいの席の杉山さんが、大きなタオルを差し出してくれた。

アラフィフの気さくなおばちゃん先輩。


気は利くけど仕事は遅い――って、そんな噂を聞いたことがある。でも、今日のこのタオルは救世主だった。


「気が利くって、それだけで最強じゃん…」

なんて、ちょっとだけ思った。


◇◇◇


午後。頼まれていた書類を作っていると、パソコンが突然フリーズ。


「えっ、うそ…保存してないんだけど…」


マウスをカチカチやっても、画面は無反応。絶望。


こういう日は、ほんとにとことんダメ。


帰り道。

もちろん雨は止んでいない。


ぺたぺた濡れた靴で歩いていたら、前から小学生がわーっと走ってきて、避けようとして小さな水たまりに足を突っ込んだ。


じゅくっ。冷たい感触に、思わず空を仰いだ。


「はぁ…今日はほんと、何なの…」



家に着いて、バッグを床に放り投げる。

まずは濡れた服を脱ぐ。


お風呂? 面倒。

ごはん作る? いや、無理。


そういえばこの前、スーパーで冷凍グラタンを買っておいたっけ。

味はそこそこ。でも、今日はそれで充分だった。


レンジに突っ込んで、ソファにぐったり沈む。


普段なら本を読むか、スマホをいじる。

でも今夜は、そのどっちも気が乗らなかった。


ただ、なんとなく、なにかに気を取られていたいだけだった。


チン――。

レンジの音に、ちょっとだけ救われた気がした。


◇◇◇


テーブルにグラタンを運び、スプーンを手にとる。

とりあえず一口。


うん、悪くない。


二口目を運ぼうとした、そのときだった。


バチン。


──突然、視界がブラックアウトする。


グラタンを乗せたスプーンが、目の前から消えた。

テレビの音も消えて、部屋が静まり返る。


「……え?なに?」


すぐに状況は飲み込めた。

停電……


部屋が暗いだけで、全身がきゅっとこわばる。


私は暗いのが苦手だ。


一人暮らしのこの家が、広いせいもある。

なにかが潜んでいそうなこの感じが、たまらなく怖い。


とにかく、光が欲しい。


カバンからスマホを取り出し、ライトをつける。

少しだけ気が楽になったけど、明かりひとつじゃ心細いままだ。


「いつまで続くのよ、もう…」


気持ちを紛らわせたくて、スマホをそのまま握りしめたまま、SNSを開いた。


こういうとき、誰かのどうでもいい“今日”って、ちょっとだけ助かる。


無意識にスクロールする指。

ふと、親指が止まる。


──あ、これ……


画面の中で、焚き火が揺れていた。


暗がりの中で、パチ、パチッと薪が弾ける音が、静かに耳をくすぐる。


──前にも見た、これ。


部屋の暗さも相まってか、焚き火は一段と美しい炎をあげている。


停電でこわばった背筋だけでなく、散々だった今日の憂うつも解かしてくれるよう。


そう。


あの日、この動画を初めて見た時の気持ちがふいに浮かびかけた、そんな瞬間。


ふっと、画面が暗くなった。


「……え?」


スマホが沈黙する。

充電切れ。


よりによって今。


再び暗闇に放り込まれた。


心のどこかで浮かびかけた何かも

スン…と消え、ぽかんとするしかなかった。


言葉もない。

ツッコミすら出ない。


──と、そこへ。


バチン!という音とともに、部屋の明かりが突然パッと点いた。


「えっ、今!?」


ひとりツッコミが漏れる。


照らされた部屋の中、時計の針は何もなかったかのごとく、普通に時間を指していた。


外ではまだ、雨が降っていた。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ