第19話 出て来い、アンサー!
家を飛び出して、夜の街をフラフラ歩いた。
どのくらい歩いたのか分からない。
たどり着いたのは近くの小さな公園だった。
ブランコに座ってる詩音。
ギィー、ギィー。
静まり返った夜の公園に、ブランコの音だけが響いていた。
「自分で決めろ……かぁ」
ぽつりと、詩音の口から漏れた。
(…どうしたらいいのかなぁ…)
(もう、わかんないよ…)
ため息が止まらない。
ふと顔を上げると、目の前の砂場が見えた。
「あの砂場……」
木の枠で囲まれた、小さな場所。
「小さい頃、よく遊んだな……」
ぼんやりと、当時の思いが浮かび出す。
◇◇◇
公園の砂場で"かまくら"を作ってる、幼稚園のときの詩音。
もうすぐ出来上がりってところで、走ってきた男の子たちが、グシャグシャと踏みつけていった。
踏みつぶれされた"かまくら"。
詩音はそれをみて、みるみる顔が歪んでいく。
そして、とうとう大きな声で泣き出した。
近くにいたおばあちゃんが、近寄って寄ってきてくれた。
「どうしたの、詩音」
しゃがみこんで、大泣きの詩音の顔を覗き込む。
「だって、かまくら…」
泣きながら、指をさす。
「あらあら」
詩音は一向に泣き止まない。
「だって、だって…」
「そうかい、そうかい、わかった、わかった」
詩音をそっと抱き寄せて、まるで子守歌みたいに言った。
「詩音は強い子 元気な子——」
繰り返されるフレーズ……
不思議と心がほわっとして
詩音は泣くのをやめた。
「また、おばあちゃんと作ろうね」
「…うん…」
涙を拭きながら、そう答える詩音…
◇◇◇
ふっと我に返る。
静まり返った夜の公園……
砂場には、誰もいない。
懐かしさと一緒に、切なさが込み上げる。
「おばあちゃん…。
私、ぜんぜん強くないよ…」
詩音は夜空を見上げた。
涙がこぼれそうだったから。
「ぜんぜん、元気じゃないよ…」
いくつもの星が、にじんで見えていた。
◇◇◇
詩音は、公園をあとにした。
にじむ街灯の光の中を、詩音はうつむきながら歩く。
足が、重い。
頭の中は、ぐちゃぐちゃだ。
(……どうしたらいいの?)
(なにが正しいの?)
(私、このままでいいの?)
答えがまったく見つからない。
息が苦しい。
胸がきゅうっと縮まる。
(もう、わかんないよ……)
深いため息をついたその時、ふっと、我が家の明かりが視界に入った。
ぼんやり見える玄関先に、誰かがいる。
「……おばあちゃん?」
気づいた瞬間、
抑えきれないものが胸から溢れた。
早足で近づいていく。
気がつけば、詩音は、駆け出していた。
やっぱり、おばあちゃんだ。
「おばあちゃーん!」
驚いたおばあちゃんが、玄関先で振り返る。
「詩音かい?どうしたの、こんな時間に……」
そのやさしい声を聞いた瞬間、
詩音はもう、我慢できなかった。
ぐしゃぐしゃに顔をくしゃくしゃにして、
おばあちゃんに抱きついた。
「おばあちゃん……あのね……!」
堰を切ったみたいに、
詩音の中の言葉があふれ出す。
「新しいお店に行くって言われたんだけど……」
「行っていいのかわかんなくて……
「こんな気持ちのままじゃ良くない気がして……」
「本当は、そんなにカフェ好きってわけじゃないのに……」
「そんなの、ダメな気がして……」
言葉にならない想いも、涙も、ぐちゃぐちゃになって、ただおばあちゃんにぶつけた。
おばあちゃんは、何も言わずに、そっと詩音を抱きしめた。
子供の頃と変わらない、あったかい腕だった。
しばらくして、おばあちゃんは、ふっと小さく微笑んだ。
「詩音、そんなに頑張らなくていいんだよ。」
頭をなでながら、やさしく、そして、どこか遠いところを見つめるように続けた。
「でもね——」
「迷ったら、進みなさい。
やってみれば、何か見えるかもしれないよ。」
(……迷ったら……進みなさい)
詩音の胸に、
小さな灯がともる音がした気がした。
まだ、不安は消えない。
だけど——
詩音は、ぎゅっと目を閉じて、
胸の奥でそっと繰り返した。
(迷ったら、進みなさい)
そっと胸の奥で繰り返すと、夜風がやさしく頬を撫でた。
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