表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/185

第136話 小さなクリスマスツリーの下で


12月23日。

お昼過ぎの、冬らしく冷たい空気が家の中にまでしんと染み込んでいた。


メイは和室の押入れを開け、下段に頭を突っ込んでガサゴソと探し物をしていた。

畳の上には、彼女のお尻だけがちょこんと見えている。


「この辺なんだけど……あ、あった!」


引っ張り出したのは、少し色あせた緑と赤の箱。

〈Xmas Tree〉と書かれた文字が、時間の流れにそっと滲んでいた。


60センチほどの細長いその箱を見つめ、メイはふっと息を漏らした。


「……なんか懐かしいな」


指先でそっと触れると、幼い頃の情景がやわらかくにじむように浮かび上がる。

お父さんとお母さん、妹のマイ。

四人で囲んだ小さなクリスマスの食卓。

そして、その横で優しく光っていたクリスマスツリー。


胸の奥がほんのり温かくなる。


そんな記憶にそっと指を触れようとしていた、そのとき――


ーーーピンポーン。


インターホンの音が、メイを“今”へ引き戻した。


我に返って箱をそっと畳に置き、和室を出て玄関へ向かう。

その後ろ姿を、赤と緑の箱が静かに見送っているようだった。


「詩音、いらっしゃい……」


玄関を開けた瞬間、満面の笑顔が飛び込んできた。


「メイちゃん! リーフとかガーランドとか持ってきたよ!」


「おお……気合い、入ってるね」


「だって、クリスマスだよ!」


明るい声が家の中に弾むように広がる。

和室に残された“ツリーの箱”は、その賑やかさをどこか嬉しそうに聞いているようだった。


◇◇◇


夕方。

外はすっかり冬の色に染まり、

窓の向こうからは淡い冷気がそっと忍び込んでくる。


ダイニングテーブルには、

赤いバーレルのフライドチキンとシャンメリーの瓶。

詩音が持ってきたリースや飾りつけが彩りを添え、

小さなLEDキャンドルが点々と灯っていた。

その温かなオレンジの光が、部屋全体を優しく包み込む。


キッチンからは、ミネストローネの湯気と、

揚げ物の香ばしい匂いがふわりと漂ってくる。

カウンター越しには、メイと詩音の声だけが、

忙しなくも楽しげに行き交っていた。


「こっちはそろそろ出来るよ〜♪」


「詩音、これもういいかな?」


「え? あーっ! メイちゃん、ポテト揚げすぎだよ!

ほら、パッドに入れて!」


「う、うんっ!」


軽やかな音と笑い声。

その空気は、まるで家そのものを温めているようだった。


ーーーピンポーン。


玄関のチャイムが再び鳴った。


「あ、私出てくるから! あとは詩音お願い!」


「もー、メイちゃんったら!」


キッチンの灯りの中で、詩音が小さく笑う。

その表情には、今日という一日を楽しみにしていた気持ちが、

そっとにじんでいた。


* * *


メイが玄関の扉を開けると、

梓と凛々花が並んで立っていた。


「いらっしゃい、梓ちゃん。

……凛々花ちゃんと一緒だったんだ」


「いや、偶然。矢鞠駅で会っただけ」

そっぽを向きながら答える梓は、どこか照れくさそうだった。


「そっか。さあ、入って入って!」


二人を招き入れると、

梓は軽く会釈して「おじゃまします」と言う。


その後ろから凛々花が

玄関をきょろきょろ見回しながら、

小さな声で言った。


「はじめまして」


「え?」とメイが瞬きをすると――


凛々花はふわりと微笑んだ。


「メイちゃんち、はじめてだから」


梓のあとについて楽しそうに家へ入っていく凛々花の背中を、

メイはどこかくすぐったいような、あたたかい気持ちでそっと見つめた。


* * *


ダイニングに足を踏み入れた瞬間、

梓と凛々花は思わず目を見張った。


ドアにはリース。

天井からは赤と緑のガーランドがゆらゆら揺れ、

テーブルの上にはクリスマスらしいバケツ入りのチキン、

シャンメリーの瓶、並べられたグラスやきれいな皿たち。


「なんだか本格的だな」

梓が感心したように言う。


「飾り付けするんだって、詩音が昼から来てさ」


言葉とは裏腹に、メイの頬にはふわりと小さな誇らしさが灯っていた。


そのとき――


「梓ちゃん、凛々花ちゃん、いらっしゃい!」


エプロン姿の詩音が、キッチンからぱっと振り返った。


「グッドタイミング! いまミネストローネできたとこ!」


笑顔でトレーをテーブルへ置く詩音を見て、

梓はちらりとメイへ視線を送る。


「詩音が料理作ってるんだ……ま、そうだよな」


「どーせ私は料理できませんよ〜」

メイがほっぺをぷくっと膨らませる。


「いや、何も言ってないって」


梓の返しに、二人はプッと同時に笑った。


そのとき、凛々花が「あ……ツリー、かわいい」と声をあげた。


部屋の隅に飾られた小さなクリスマスツリーへ、

吸い寄せられるように歩いていく。


プラスチックの枝に下がった、雪だるまや靴下の古い飾り。

てっぺんには金色の星。

そして、LEDではない小さな豆電球が、

ゆっくりと温かく点滅していた。


「レトロって感じのツリーだね」

梓の言葉に、メイは照れくさそうに笑う。


「私が小さい時に飾ってたツリーなんだ。

お母さんが子供の頃からあったやつで……」


「なんかエモくない?

おもちゃみたいな飾りがいっぱいで、楽しかったよ」

詩音はカップを並べながら言った。


「……あったかいツリーだね」


凛々花はうっとりとツリーを見つめ、

肩のトートからカメラを取り出す。


カシャ、と柔らかなシャッター音が響いた。


その姿を見つめながら、メイもふっと笑う。


「久しぶりに飾ったんだぁ」


遠い昔へ想いを馳せるようなメイの横顔を見て、

梓が静かに言った。


「大事なツリー、なんだな……」


その言葉がどこか優しくて、

メイはほんのりと頬を染めた。


「みんな、上着くらい脱げばいいのに」

詩音が言ったそのとき、


「あ、メイちゃん、これ」

凛々花が声をかけた。


カメラをそっとしまい、代わりにメイへ差し出したのは、

持ち手つきの小さな保冷バッグ。


「会費制だから、気を使わなくても……」


そう遠慮しかけたメイに、凛々花は小さく首を振った。


「ううん。ママが、差し入れだって」


「えー! なになに!」

詩音が文字どおり飛びつく勢いで覗き込む。


中には、白いラベルの高級シャンパン。

見るからに上品で、手に取る前から“良いもの”と分かる一本。


「うわっ! これ、高そう!」

詩音の声が弾む。


「ヴーヴ・クリコ……だったかな。

甘くて飲みやすいから、これ持って行きなさいって」


「ありがとう、凛々花ちゃん……」

メイはボトルを大切そうに受け取った。


「乾杯、これにしよーよ!」

詩音が目をきらきらさせた、その瞬間――


ーーーピンポーン。


またしてもチャイムが鳴り響く。


「あ、たぶん“ドレミファピザ”だよ! 私、いってくるね!」

詩音は軽やかにスキップでもしそうな勢いで玄関へ向かった。


「じゃあ、私はシャンパングラスを……

あ、みんな適当に座っててね」

メイは胸の奥をくすぐられるような笑顔で、食器棚へ向かう。


* * *


「ピザ、ピザ〜♪」

詩音は運んできた箱をテーブルに並べると、

キッチンに近い席へすとんと座った。


その隣には凛々花が自然に腰を下ろし、

梓もコートを脱いで向かい側の椅子に静かに座る。


ほどなくして、テーブルには四つのシャンパングラスが並んだ。


「これで準備できたかな……」

メイが詩音の向かいに座った、そのときだった。


「開けるよー!」

詩音が勢いよくシャンパンの栓に手を伸ばす。


「おい、それ危ねーだろ!」

梓が素早く取り上げる。


「えー! ポーンって飛ばしたいのに!」


「天井に穴あけたらどうすんだよ」

梓はタオルをかけ、角度を慎重に調整して――


ーーーポン!


軽やかな破裂音。

つづいて、三人の「おーっ!」という歓声が重なる。


梓は慣れた手つきで、黄金色のシャンパンを

一つひとつ丁寧にグラスへ注いでいった。


「梓ちゃん、プロっぽい!」


「ルルポのあと、ちょっとだけレストランでバイトしてたから」


泡がふわりと立ち上り、四つのグラスを満たした。


「じゃあさ、乾杯の音頭は――メイちゃん!」

詩音が嬉しそうにグラスを掲げる。


「えっ……な、なにか言うの……?」

メイは肩をすくめ、もじもじと視線を落とした。


その瞬間。


「カンパーイ!」

凛々花がぱっと明るく声をあげた。


「え、私……」

乾杯の音頭を振られていたメイが、思わずぽそっとつぶやく。


けれどもう、他の三人はつられるように「カンパーイ!」


笑い声とグラスの澄んだ音が、温かく重なり合う。

メイは苦笑いを浮かべながら、自分のグラスをそっと口へ運んだ。


「……わっ、これ、美味しい!」


隣で詩音もひと口ふくんで、ぱっと目を見開く。


「ホントだ! すごく飲みやすい!」


「度数あるから気をつけてって、ママが言ってたよ」

凛々花はさらりと言うと、喉をすっと鳴らしながらグラスを傾けた。


「これ、ヤバいやつだよ〜」

詩音が笑いながら、さらにグラスに口をつけた。


メイが梓を見ると――

梓の顔はりんごみたいに真っ赤になっていた。


「梓ちゃん、りんごみたい」

凛々花がふわっと微笑む。


「かわいいー!」

詩音がはしゃぐ。


「うっせーな……血行がいいんだよ」


照れ隠しみたいに声を張る梓に、テーブルの上へふわっと笑いが広がった。


「あ、そうだ!」

シャンパングラスを置いた詩音が、何かを思い出したようにぱっと立ち上がる。


スマホをテーブルに置くと、

バッグの中から小さなスピーカーを引っぱり出した。


「雰囲気、出さなくちゃだよね〜」


接続を済ませると、スピーカーから流れ出したのは

竹内まりやの「すてきなホリディ」。


軽やかで優しいメロディが、ダイニングをそっと満たしていく。


「さて!」

「では!」

「いっただきまーす!」


四人の声が重なり、手が一斉に料理へ伸びた。


「お腹すいたよ〜」

詩音はチキンをひとつつかんで、嬉しそうにかぶりつく。


「昼から頑張ってたからね」

メイもフライドポテトをひとつつまんで、ほっとしたように笑う。


「このミネストローネ、美味いな」

野菜の旨みがぎゅっと染み込んだやわらかい味に、梓が思わず声をもらした。


「小豆沢家秘伝のミネストローネ! お母さん直伝だよ!」

チキンを片手に、詩音は頬をふくらませながら、どこか誇らしげに胸を張る。


「詩音、口のまわりベタベタだよ……」


メイがウェットティッシュを差し出しながら言うと、ふと隣が視界に入った。


そこには——


詩音以上に口のまわりをテカテカにしながら、

夢中でチキンにかぶりついている凛々花の姿。


「なんか、ワイルド……」

メイがぽそっとつぶやく。


「凛々花がチキンかぶりついてるって、ギャップすごいな」

梓が肩を揺らして笑う。


「いいの、クリスマスだし!」

詩音が口を拭きながら、今度はウェットティッシュの箱を凛々花に差し出す。


「クリスマス、だもんね」

凛々花はニコッと笑い、ティッシュを一枚取ると

ていねいに手と口元をふいた。


そんな二人のやり取りを、メイはどこか微笑ましい気持ちで見つめていた。


(……凛々花ちゃん、なんだか前より自然に話してる気がする)


胸の奥がじんわりあたたまるような感覚を抱きながら、

メイもミネストローネをひと口すくう。

ふわりと広がる深いコクに、思わず目を丸くした。


「……ホントだ。これ、美味しいよ」


「でしょでしょ〜!」

詩音は得意げにピースして見せる。


その明るさに釣られて笑ったメイだったが、

ふと、ほんの少しだけ眉を寄せた。


「やっぱり……キャンプするのに、料理できないとダメだよね」


落ち込むような声に気づいた梓が、そっとグラスを置きながら言った。


「そんなことないさ」

穏やかな声がふんわりと届く。

「カップ麺だって立派な料理だよ。スタイルはそれぞれだしな」


メイが目を上げると、梓はいつもの不器用な優しさで微笑んでいた。


「大丈夫! 私が美味しいの作るから!」

詩音が胸をどんと叩くと、空気がぱっと明るくなる。


「でも、次は……ソロキャンだし」

メイの声はほんの少しだけ小さくなった。


「えー! ソロキャンデビュー? いつ行くの?」

詩音は条件反射みたいに身を乗り出す。


「年越しで……もう予約したんだ」


「どこにしたんだ?」

梓が興味深そうに尋ねる。


「伊豆の……西浦ってとこ」


「駿河湾が一望できるところか」

梓はすぐに景色を思い浮かべたように言った。


「伊豆キャンかぁ。いいなぁ〜私も行きたい」

詩音の声が弾んだ。


「お正月に行くんだよ?

詩音は予定、あるんじゃないの?」


メイが言うと、


「……あ、そっか。うちは毎年、おばあちゃん家に親戚が集まるんだよね」

と、詩音は名残惜しそうに肩を落とした。


「それ、賑やかそう!」

凛々花がチキンを片手に、にこっと笑う。


「うん、二十人くらい集まるんだぁ」


「それはそれで……大変だな」


梓は、ノンアルコールのシャンメリーをポンと開けて、手酌で注ぎながら、ぽつりとこぼした。


テーブルの上の料理は、いつの間にか少しずつ減っていた。

話題は自然に、年末やお正月のことへ移っていく。


「梓ちゃんは? お正月」

メイに問われると、梓は迷わず答えた。


「キャンプ行ってる。今回は精進湖」


「富士山、見えるとこだよね?」

詩音が身を乗り出す。


「うん。“子抱き富士”って言って、山が二重に見えるんだ。富士山が子どもを抱いてるみたいに」


「それ、ステキだよ〜」

今度はピザを取りながら、詩音の声がふわっと弾む。


「凛々花ちゃんは、お正月どうしてるの?」

メイが尋ねると——


「ハワイだよ……」


骨だけになったチキンをお皿に置きながら、

凛々花はあっさりと言った。


「ハワイ!?」

三人の声が見事にそろう。


凛々花は小さく“うん”とうなずく。


「それって芸能人じゃ〜ん!」

詩音の目はキラキラ。


「短絡的だな、その発想」

梓が苦笑しながらも、どこか楽しそうに返す。


「家族旅行かぁ……いいなぁ」

メイの声には、ほんの少し羨ましさが滲んでいた。


「いつもみんなバラバラだよ。

パパはカメラ持ってどこか行っちゃうし、

ママはひとりでショッピング。

私は……プールで本読んだり」


「ワイハのプールで読書〜」

詩音の目の輝きは増すばかりだ。


「そうなんだ……」

梓の言葉は、ほんの少し複雑な色を帯びる。


「でもね、今度はパパがレンタカー借りるって。

みんなで見て回ろうって言ってるんだ……」


凛々花はふふっとやわらかく笑うと、シャンパンをそっと口に運んだ。


「なんか……よかったね」

メイが静かに言う。


「うん」

凛々花は小さくうなずき、ミネストローネをすくってひと口。


「……わ、これ、美味しいね」


「なんかズレてないか?」

梓が思わずツッコむ。


「え? みんな食べたの?」


「凛々花ちゃん、チキンに夢中だったから」

メイのひと言に——


テーブルいっぱいに、やわらかくあたたかい笑いが広がった。


◇◇◇


四人のクリスマス会は、ゆっくりと、穏やかであたたかな時間を刻んでいった。


「いやー、食べたな……」

梓がお腹をさすりながら言うと、


「お腹いっぱいだね」

メイも背もたれに体を預け、満足そうに息をついた。


そのとき——


「ジャジャーン!」

詩音が冷蔵庫から白い箱を掲げて戻ってくる。


「本日のメインでございまーす!」


箱を開けると、小ぶりのホールケーキが顔をのぞかせた。

真っ白な生クリームと鮮やかないちご。

サンタのマジパンがちょこんと座っていて、

チョコプレートには「Merry Xmas」。


「まだ食べるのかよ……」

梓は呆れたように眉をひそめる。


「ケーキは別腹だもん」

詩音が胸を張ると、


「だもん!」

凛々花も楽しそうに続いた。


「キャンドル、立てないと」

メイは横に添えられた、少し大きめのキャンドルをそっとケーキの中央へ。


「一本なんだ」

梓が首をかしげる。


「詩音が一本でいいって言うから……」


「だって、一歳の誕生日だもんね」

凛々花がニコッと微笑む。


「凛々花ちゃん、分かってるぅ!」

詩音は嬉しそうにキャンドルへ火を灯した。


「電気、消すね」

メイがスイッチを切ると、部屋はふっと暗くなる。


次の瞬間、キャンドルの炎が柔らかく揺れ、

薄暗いダイニングをあたたかなオレンジ色に染め上げた。


「……きれい」

四人はいつの間にか顔を寄せ合っていた。


「四人ではじめてのクリスマス。だから一本なんだよ」

詩音が炎を見つめながら、静かにこぼす。


「じゃあ、来年は二本だね」

凛々花の声は、火の明かりみたいにやわらかい。


「そうそう。その次は三本……それで四本になって……」

詩音が指を折りながら続けると、メイはうれしそうに目を細めた。


キャンドルの灯りに照らされた梓の横顔は、

どこか照れくさそうで……

でもその表情は、たしかに“楽しんでいる”色をしていた。


「キャンプファイヤーって、こんな感じ?」

凛々花がぽつりと言った。


「キャンプの焚き火はもっと綺麗だったよ」

詩音は懐かしさを含んだ声で答える。


「……いいなぁ」

凛々花の言葉は、キャンドルの炎のように静かに揺れた。


「みんなで行こうよ、キャンプ!」

詩音がぱっと明るく声をあげる。


「いきたい!」

凛々花は迷いなく応じた。


「いいよね、それ!」

メイが梓へ目を向ける。


「あ、うん……まあな」

梓は少し照れたように目をそらした。


「梓ちゃん、グルキャンの本、買ってたじゃん」

凛々花がさらりと暴露する。


「お、お前……それ、みんなに言ったんだよな!」

梓は顔を真っ赤にして慌てる。


「え、知らないもん」

すっとぼける凛々花。


そのやり取りに、三人は吹き出して笑った。

梓もつられて下を向きながら肩を揺らす。


「よしっ! グルキャン決定ーー!!」


詩音の声がぱっと弾け、

その明るさがまるで夜空に投げた小さな火の粉みたいに、

四人の間にふわりとあたたかい風を広げた。


「やったー!」

凛々花がふわっと笑う。


メイは小さく拍手した。

そっぽを向いた梓の横顔は、メイにはやさしく色づいて見えた。


「ねえ、写真撮ろうよ、みんなで」

メイが言う。


「撮ろう撮ろう!」

詩音がすぐ立ち上がる。


詩音はスマホをテーブルのグラスに立てかけ、

「もっと顔寄せてー!」とセルフタイマーをセットして駆け戻る。


カシャッ。


四人がスマホへ身を寄せる。

キャンドルの灯りに浮かぶ四人の笑顔と、白いクリスマスケーキ。


「うわー、これ上手く撮れてない? ……ね、凛々花ちゃん」

詩音が自画自賛気味に言うと、


「うん。いい空気が写ってる」

凛々花はやわらかい声音で答えた。


「じゃあ、みんなで火を消すよー」

詩音の声に、四人は顔を寄せ合う。


「せーの!」


ふーーっ。


キャンドルの炎がふっと消え、室内が一瞬、静かな暗闇に包まれた。

次の瞬間、自然と拍手がこぼれる。


「メイちゃん、電気つけてー」

詩音の声に、メイがスイッチを入れると——


凛々花のほっぺに、生クリームがぽつんとついていた。


「凛々花……顔近づけすぎだろ。ってか、フライングじゃね?」

梓が思わずツッコむ。


「食べてないもん」

凛々花は小さく口をとがらせた。


「待ってて、いま切るからね! 詩音が!」


「メイちゃんだと、ケーキ潰しそうだもんね」


「凛々花ちゃんまでそんな……!」


メイが抗議するも、すでにダイニングには笑い声が弾んでいた。


クリスマスツリーの豆電球が、

小さな灯りをこぼしながら、

四人の笑顔をやさしく照らしていた。


外では、冬の風がそっと窓ガラスを揺らし、

その向こうに広がる夜は、しんと静まり返っている。


けれどこの家の中には、

四人だけの温かな時間がひっそりと流れていた。


初めてのクリスマス会は、

笑い声とあたたかな灯りに包まれながら、

こうして静かに、そして幸せそうに続いていった。



ここまで読んでくださってありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ