第13話 小豆沢詩音
——ロッカーの小さな鏡に映る、自分の目を見据える。
『この戦闘服を着たからには、私も立派な戦士だ!』
——バタン。ロッカーを勢いよく閉める。
『胸の中で、ほとばしる闘志が止まらない!』
——エプロンの紐をキュッと締め上げる。
——【ここから店内 笑顔を忘れずに】と書かれたドアの前で、仁王立ち。
『さあ、今日も始まる。戦いの日。
この熱い思いを、全力でぶつけるぞ!』
「いくぜーっ、おーっ!!」
盛大にシュプレヒコールを上げた。
「うるさい、詩音!」
厨房からすかさず怒鳴られる。
「うひゃーっ!」
そそくさとドアを開けて、カフェのフロアに飛び出した。
******
『えっと、私の名前は小豆沢詩音、“あずさわしおん”って読むよ!
ほら、たまに読めないって言われるから、先に言っとこうと思って!
名前はね、詩の音って書きます!
ポエム作家のお母さんが付けてくれました!
ただいま21歳、カフェの店員さんやってます!
家族は、お父さん、お母さん、お姉ちゃん、そしてワンコが一匹。
ワンコの名前はチワワ。……だけど、チワワじゃないよ、雑種だよ!
あのね、私、チワワがずーっと飼いたくて、昔ペットショップで大騒ぎして、駄々こねて、でも買ってもらえなかったんだ。
おじいちゃんは「いいじゃないか」って賛成してくれたけど、お母さんが絶対ダメって。
それでね、ある日、友達の家で生まれたワンコを、もう、ほぼ強引に連れて帰ってきちゃった!
お母さんは「もう……しょうがないわね」って、あきらめたみたい。
名前?
もちろん『チワワ』!
犬種は、全然チワワじゃないけど、ちっちゃくてかわいかったし、チワワって名前にすればチワワってことで!
お姉ちゃんには「アンタ、バカじゃないの」って呆れられたけど!
でも、いいんだ。チワワ、超かわいいんだもん!
ちなみにチワワは今——すっごい大きくなっちゃって。
この前、「デカワに改名しちゃうぞー!」って冗談で言ったら、
「クゥン……」って、すっごく悲しそうに鳴いたから――
やめた。即座にやめた。
うん、チワワはチワワのままでいいんだ。
……あ、ちなみにこの話、就活の面接で五分間ぐらい熱弁したら、不合格になった。
世の中って、ほんとわからないよね。』
「詩音、早くこれ持ってって!6番ね!」
『うひゃーっ、また怒られた!
そう、私はこのカフェの怒られ隊長でもあるのです。
みんな、私がいるからストレスフリー!』
「早く持ってけー!」
「はーいっ!」
バタバタとお皿を持って走り出す。
『あ、最後にひと言!
そんな私の物語、
ここから、はじまり はじまりー!』
——ぴょんっと軽く跳ねて、小豆沢詩音は6番テーブルへ猛ダッシュした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今日から第2章が始まります。
メイとはまた違う空気感の「詩音」の物語も、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。




