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第129話 クリスマスツリーが灯る夜に


営業を終えたカフェ・ラフォーレ リーヴルスには、コーヒーと焼き菓子の残り香がまだわずかに漂っていた。

照明は作業用にいくつかだけ残され、昼間の賑やかさが嘘のように、静かな夜の空気が店内を包み込んでいる。


カウンター席では、詩音、沙織、ユキの三人が並んで腰をかけ、他愛もない話で時間をつないでいた。

マグカップから上がる湯気が、ゆらりと三人の間を漂う。


「ねぇねぇ、クリスマスのデコレーションって、どんな感じになるんだろ?」


詩音がカップを両手で包みながら、期待に満ちた目で二人を見る。


ユキが肩をすくめて答えた。

「装飾チームは本社直轄らしい……それなりのものになるかと」


「ってか、この前のデコレーション会議って、なんだったのよ」

沙織が半ばあきれたように言うと、詩音はふっと笑い、湯気越しにカップの中をのぞきこんだ。


「まあまあ。沙織ちゃん、楽しみじゃないの?」


「いや、そうね……楽しみかな」


「でしょ、でしょ!

 ツリーとかあるのかな。なんか、ちょっとワクワクしちゃうよね」


弾んだ声がカウンターの上で跳ねて、静かな店内にほんの少しだけ灯りが戻る。

三人とも、どこかそわそわしている。


そんな様子をよそに、店長の敦子は少し離れたソファ席で、ゆったりとハーブティーを口にしていた。ひとりだけ、いつも通りの落ち着いた雰囲気で。


そのときだった。


——ゴウン、と重たいエンジン音が遠くから響く。


「……あ」

ユキが窓の外を見て、小さく声を上げた。


駐車場に一台のトラックが入ってくる。

銀色のパネルの側面には、「Le Repos de Rêve Corp.」のロゴが、白いライトに照らされて浮かび上がっていた。

すぐ後ろには、ベージュのSUVが静かに続く。


「来た……!」

「待ってましたーっ!」


詩音が勢いよく立ち上がると、三人は一斉にカウンター席を飛び降り、エントランスへと駆けていく。

さっきまでの静けさが嘘のように、夜のラフォーレが一気に熱を帯びていった。


◇◇◇


エントランスのドアが開くと、夜の冷たい空気と一緒に、数人のスタッフが店内へと入ってきた。

先頭に立っていたのは、ネイビーのライトジャケットを羽織った一人の男性。


「遅くなって、すみません」

軽く頭を下げながら、穏やかな笑みを浮かべる。


「……耕平くん?」


ソファから立ち上がった敦子が、思わず声を上げた。


「ご無沙汰してます、敦子さん」


その声には懐かしさがにじんでいた。男性――村上耕平は、嬉しそうに笑みを返す。

ほんの一瞬、仕事の緊張感がやわらぎ、場の空気がふっと温かくなる。


「うわぁ、久しぶりじゃない!」

敦子の顔がぱっと明るくなった。


「みんな、紹介するわね。この人は村上耕平くん。ディスプレイ担当で、私が本社にいた頃からいろいろ助けてもらってたの」


「はじめまして。よろしくお願いします」


耕平は丁寧に頭を下げ、後ろのスタッフたちもそれぞれ軽く会釈をする。

詩音たちも慌てて姿勢を正し、「よろしくお願いします!」と声をそろえた。


その時——

「敦子さーん、お久しぶりで〜す!」


甲高い大きな声に、みんなが一斉に振り向く。


ライトベージュのモッズコートにワイドパンツを合わせた女性が、大きなトートバッグを抱えて駆け寄ってきた。

頬を少し赤くして息を弾ませながらも、笑顔は満点だ。


「あら、実乃里ちゃん」


敦子がにこやかに声をかける。


「やっと来れましたよ〜、ラフォーレ!」

明るい声が、静かな店内に弾けた。


「そういえば、グランドオープンのときはいなかったわね」


「そうなんですよ〜、あの時は別の店舗の担当で。やっと今日、来られました!」


詩音たちがぽかんとしていると、敦子は軽く向き直って紹介する。


「こちら、広報部の川瀬実乃里ちゃん。写真とSNSの担当……だったわよね?」


「はいっ、オンスタとかファストブックをメインにやってまーす! よろしくねっ!」


実乃里は、夜のラフォーレには少し場違いなくらいの元気さでウインクしてみせた。


「よ、よろしくお願いします……」

詩音と沙織は、勢いに押されながらも慌てて頭を下げた。


「じゃあ、さっそく始めましょうか!」


耕平が手を軽く叩くと、背後にいたスタッフたちの表情が一気に引き締まった。

夜のラフォーレが、ゆるやかに“現場”の空気へと切り替わっていく。


その空気をかき乱すように——


「お仕事、お仕事〜! 夜の現場、最高〜!」


実乃里はトートバッグからスマホを取り出し、装飾スタッフを追いかけながらパシャパシャと写真を撮り始めた。


「……あの子、なんか変なテンションだよねぇ」

沙織が苦笑い混じりに詩音へ視線を向ける。


すると詩音は、目をきらきら輝かせながら、

「うん! テンション上がるぅ〜!」と元気に答えると、そのまま楽しそうに実乃里を追いかけていった。


「なんだかなぁ……」

沙織が小さくため息をつく。


「……詩音さんと同じ匂いがします」

ユキがぽつりとつぶやいた。


◇◇◇


エントランスの外。


トラックの荷台が開かれると、スタッフたちが次々と資材を運び出しはじめた。

金属のスロープがカタンと地面に下ろされ、ゴロゴロと台車の車輪が夜気を切る。

静かな街に、作業音だけがリズムのように響いていく。


「ツリー、そっち行きまーす!」


耕平の声が飛ぶ。


それに応えるように、男性スタッフの颯真が、大きなダンボールに覆われた長い箱を台車で押してきた。

慎重に角度を変えながら、店の入口へと運び込む。


「うわ……でっか!!」


詩音が目をまんまるにして声を上げる。


「これ、屋外用のツリー。メインになるやつだよ」


颯真が軽く笑って答えると、詩音は「すごーい!」と、台車の上の箱を目で追いながら嬉しそうに声を弾ませた。



一方その頃、女性スタッフの里奈と千紗は、ツリーのオーナメントや電飾がぎっしり詰まった段ボールを次々と店内へ運び込んでいた。


「こっちは店内装飾〜、そっちは外ね〜!」


手際よく仕分けていく姿に、沙織とユキは慌てて合流する。


「よし、私たちも手伝おう!」

沙織が袖をまくり上げる。


ユキも「これ、けっこう重いです」と淡々と箱を抱えた。

そこに詩音も加わり、三人で次々と荷物を運び出していく。


その横では、実乃里がスマホ片手に、作業風景をパシャパシャ撮りまくっていた。


「働く姿、尊い〜〜〜!!」


「実乃里さん、手ぇ動かしてくださーい!」

耕平が苦笑まじりに声を飛ばす。


「はいはい、わかったわよ〜」


そう言ってトラックの方へと向かった実乃里だったが、荷台をのぞき込むと、すでに資材はほとんど運び終わっていた。


「ちょっと、みんな仕事早すぎない!?」


両手を広げて大げさに嘆く実乃里に、詩音が段ボールを抱えながら、ぷっと吹き出した。



詩音たち三人の手伝いもあって、搬入は着々と進み、ラフォーレの夜は、だんだんと活気と笑い声に包まれていった。


◇◇◇


外では、耕平たちが屋外ツリーの組み立てを始めていた。

工具を手に、枝を広げ、幹を固定していくその姿は、まるで舞台の仕込み現場のようだ。


一方その頃——店内では。


「えっと……これ、どうやって組むんだっけ?」

「ここに差し込むって書いてあるけど……逆じゃない?」

「うわっ、詩音さん、それ枝の向き逆ですよ!」


詩音・沙織・ユキの三人は、店内用の小ぶりなツリーを前に、仕様書とにらめっこしながらドタバタと奮闘していた。


枝を広げる方向を間違えたり、飾りの順番を勘違いしたり……。

ツリーは見るたびに形が変わり、もはや原形をとどめていない。


「これ……なんか、『倒れた笹』みたいになってるんですけど」


沙織が苦笑混じりにツッコむと、敦子がその様子を眺めながら、ふっと笑った。


「……うん、確かに。これはちょっと芸術的すぎるわね」


「店長〜! 笑ってないで助けてくださいよ〜!!」

詩音が枝の中から情けない声を上げる。


そこへ、女性スタッフの里奈が軽やかに微笑みながらやってきた。


「ここは私たちでやるので、皆さんはテーブルのデコレーションをお願いできますか?」


優しく、それでいてテキパキとした口調。


「あっ、はい! お願いしますっ!」


沙織が元気よく返事をして、三人は慌てて飾りを持ち直した。


「……ポンコツ三人組、戦線離脱」

ユキが小声でつぶやく。


「ポンコツ言うなー!」

詩音と沙織が同時にツッコみ、夜の店内に笑い声が広がっていく。


どこか文化祭前夜を思わせるような、楽しい空気がラフォーレを満たしていた。


◇◇◇


ツリーの組み立てがプロの手に託されたあと、

詩音たちは店内のテーブル装飾を任されることになった。


テーブルの上には、LEDキャンドルや木製オーナメント、松ぼっくりにリボンなど、

小さな飾りがずらりと並んでいる。

シンプルだけれど、ひとつひとつが丁寧に作られていて、思わず見とれてしまうほど可愛らしい。


席の種類に合わせて装飾を変える仕様になっており、

三人は仕様書を広げながら、ああでもないこうでもないと飾り付けを進めていく。


「わ〜、これめっちゃかわいい!」


詩音が目を輝かせながら、木の実が入った小さなガラス瓶を手に取った。


「詩音、そればっかり触ってないで、キャンドル並べて」

沙織が苦笑まじりにツッコミを入れる。


「沙織さん、そっちのテーブル、キャンドル置き忘れてます」

ユキが冷静に指摘する。


「え、うそ……あっ、ほんとだ! 詩音、持ってきて!」


「了解〜っ!」


詩音が箱を抱えて駆け出した瞬間、足元のコードに引っかかりそうになり、

「わっ、あぶなっ!」と声を上げる。


「……詩音さん、落ち着いてください」

ユキが半ば呆れ顔で手を伸ばし、慌てて支えた。


そのやり取りを、実乃里は少し離れた場所からスマホでパシャパシャ撮影していた。


「はい、働く女子〜! 尊い〜〜〜!!」


「実乃里さん、また撮ってる!!」

「ちょっと、邪魔しないでくださいよ〜!」


沙織が苦笑しながら抗議すると、実乃里はスマホを構えたまま、いたずらっぽくニヤリ。


「はい、笑って〜。オンスタ用の写真ね!」


突然の指示に、沙織は「えっ」と固まる。

その隣で、なぜか営業スマイル全開のユキが、しっかりピースを決めていた。


「ユキ、なんでそんな慣れてるの!?」


「写真は残るから……気をつけないと」


撮られたあとは、すぐにいつもの淡々とした表情に戻るユキ。

その切り替えの早さに、沙織がぽつりとつぶやいた。


「あの変わり身、職人芸だわ……」

そう言いながらも、どこか感心したようにユキを見つめていた。



「ハイ、こっちも撮るよ〜!」


「うおー! きた、きた!」


実乃里にスマホを向けられた詩音は、カメラ目線でガラス瓶のオーナメントをテーブルに置く“お仕事中ポーズ”をビシッと決めた。


「いいね〜いいね〜! 違うポーズもいこうか!」


実乃里がテンションを上げて声をかけると、今度は詩音が松ぼっくりを手のひらに乗せて、にっこり微笑む。


「サイコー! あなた、名前は?」


「あ、詩音です!」


「詩音ちゃんね、いいよー! 次はそのキャンドル持ってみて〜!」


次々とポーズを決める詩音に、実乃里がノリノリであおる。

二人はいつの間にか息がぴったり合って、

まるで即席のアイドル撮影会のようなテンションになっていた。


「……詩音さん、作業もしてください」


ユキのちょっと低めの声に、詩音と実乃里は「ごめん、ごめん」と謝りながら、

顔を見合わせてクスクス笑い合った。


そんな様子を少し離れたテーブルから見ていた沙織は、両手を腰に当てて、ため息まじりにぽつり。


「……現場、完全にカオスだな」


けれどその口元には、思わずこぼれた笑みが浮かんでいた。


◇◇◇


夜の店内には、作業の音と笑い声がほどよく混じり合い、なんとも言えない温かな空気が満ちていた。


敦子は女性スタッフと並んで、装飾の微調整をしながら身振り手振りで楽しそうに話している。

詩音たちも次第に作業の手つきが慣れてきて、テーブルの上に少しずつ彩りが広がっていった。


ふと、詩音は手を止めた。

飾り付けが形になっていくテーブルを眺めながら、ぽつりと呟く。


「……なんか、夜の作業って、ちょっと楽しいね」


詩音の言葉に、沙織とユキもふっと笑った。

作業の音と小さな笑い声が混ざり合いながら、夜の店内に静かな温もりが広がっていった。


◇◇◇


作業が始まってから、あっという間に数時間が過ぎていた。

山のように積まれていた段ボールはすっかり空になり、店内には木の香りと新しい飾りの甘い匂いがほんのりと漂っている。


エントランスには、高い天井に届きそうなほどのクリスマスツリーがそびえ、

店内もテーブルや棚の装飾がほとんど仕上がっていた。


「じゃあ……そろそろ、いきますか」


耕平のひと言に、場の空気がすっと引き締まる。

店内の照明が落とされ、ふわりと夜の静けさが広がった。


「ツリー、点灯テスト……いきます!」


颯真の声が響き、スイッチが押される。


──パッ。


エントランスのツリーが一斉に灯り、

まるで冬の夜空に光の花が咲いたように輝いた。

金と赤のオーナメントが柔らかく光を反射し、

ひとつひとつの飾りが命を宿したように煌めく。


「うわぁぁ……!」


詩音の声が、静まり返った夜のラフォーレに

透き通るように響いた。



続いて、店内の電飾がひとつ、またひとつと灯っていく。

カウンター横のツリーは、先ほどのドタバタが嘘のように美しく整い、

やわらかな光に包まれて輝いていた。


本棚の輪郭には、細いワイヤーライトが這わせてある。

棚に並ぶ本たちが淡い光を受けて、ふんわりと浮かび上がる。

まるで“光の小径”が、静かな店内にそっと現れたかのようだった。


「……きれい」


ユキが思わずつぶやく。

その隣で、沙織も目を細めながら光の粒を見つめていた。


「夜のラフォーレ、すご……」


詩音がぽつりとこぼす。

その声には、驚きと、胸の奥をくすぐるような小さな感動が混じっていた。


その美しい空気を、実乃里が我慢できるはずもなく――


「はいっ、SNSタイム入りま〜す!!」


「ちょっ、実乃里さんテンション高すぎ!」

詩音が笑いながらツッコむと、二人でスマホを構えてキャッキャと写真を撮りはじめた。


やがて沙織やユキ、女性スタッフたちも加わり、

店内のあちこちで小さな撮影会が始まる。

ライトのきらめきと楽しげな笑い声が、夜のラフォーレをやさしく包み込んでいた。


そんな賑やかなやり取りの中、耕平と敦子はツリーを見上げながら小さく頷き合う。


「さすが耕平くん。いい仕事するわね」


「僕たちもブックカフェは初めてだったんで、少し心配でしたけど……よかったです」


「サイン会前日の改装にも来るの?」


敦子がふと尋ねると、耕平は苦笑しながら肩をすくめた。


「いや、そのときは“本隊”が来ますよ。僕たちじゃ手に負えません」


「そう……またバタバタしそうね」


敦子は小さく笑い、肩の力を抜くように息をついた。


ツリーの灯りが、そんな二人のやり取りを静かに照らしていた。


◇◇◇


作業がすべて終わったのは、日付が変わる少し前だった。

店内の照明が再び通常に戻り、静まり返ったラフォーレには、

クリスマス装飾の余韻がまだやさしく漂っている。


装飾チームは慣れた手つきで、空になった段ボールや工具を片づけ始めた。

ツリーの影が床に長く伸び、開け放たれたエントランスのドアから

夜の冷たい空気がすっと入り込んでくる。



「お世話になりました〜」


耕平がぺこりと頭を下げる。

額にはうっすらと汗が残っていたが、表情はどこか晴れやかだった。


「こちらこそ、ありがとう。すごく素敵になったわ」

敦子が微笑みながら答える。


詩音たち三人も横に並び、「ありがとうございましたー!」と声を揃えた。


「実乃里さん、またね〜!」


詩音が元気に手を振ると、広報の川瀬実乃里はスマホを片手にひらひらと手を返した。


「詩音ちゃんもね〜!またオンスタでバズらせよ〜!」


「……夜中とは思えないな、あの二人」


最後までテンションが高い二人に、沙織が呆れ顔で笑った。


装飾チームは、トラックとSUVに分かれて乗り込み、

次々と駐車場をあとにしていく。

エンジン音が夜の静けさに響き、やがて遠くへと溶けていった。


「……終わったね」


沙織がぽつりとつぶやく。

夜空にはいくつかの星が瞬き、吐く息が白く漂った。


敦子が腕時計をちらりと見て、軽く眉を上げる。


「もう0時になるわね。今日は私が車で送って行くわ」


「えっ、いいんですか!?」


「終電、もうないでしょ」


「やったー!夜のドライブだー!」

詩音が両手を上げてはしゃぐ。


「子どもじゃないんだから……」

沙織が苦笑しつつも、どこか楽しげだった。

その横で、ユキもほんの少しだけ口元を緩める。


ラフォーレの照明が一つ、また一つと落とされ、

やがて店内は静かな闇に包まれた。

ツリーの灯りだけが残り、

まるでこの夜の出来事を、そっと見送っているかのように瞬いていた。


◇◇◇


翌朝。


冬らしい冷たい空気の中、カフェ・ラフォーレ リーヴルスは、いつもより少しだけ早くざわついていた。


出勤してきたメイが控え室から店内へ向かうと、ドアの向こうから楽しげな声が聞こえてくる。


「……なんだろう?」


首をかしげながら扉を開けた瞬間、思わず足を止めた。


目に飛び込んできたのは――

まるで童話のワンシーンのように彩られた、クリスマス仕様の店内だった。


レジカウンター横に立つツリーはきらきらと輝き、天井から吊るされた小さなオーナメントやライトが、冬の朝日に淡く光を返している。

本棚にはフェアリーライトが這わせてあり、棚の輪郭がやわらかく浮かび上がっていた。


まるで、夜のあいだに魔法がかかったみたいに――

いつもと違う空間がそこにあった。


「うわぁ……すごい……」


メイは小さく息をのむ。


想像していたよりもずっと華やかで、けれど派手すぎず、ラフォーレらしい静かな温もりが店全体を包んでいた。


すでに出勤していたアルバイトのくるみや亜里沙たちが、スマホを片手に大はしゃぎしている。

「かわいい〜!」「すごい、本物のツリーみたい!」


「昨日の夜、装飾チームが来たんだよ」

沙織が少し誇らしげに言った。


「沙織さん、おはようございます。昨日、遅かったんじゃないですか?」

メイが少し心配そうに話す。


「うん、まぁね。でも、ほら、誰かがレジ開けなきゃだし」

そう言って笑う沙織の顔には、ほんの少しだけ疲れの色が残っていた。


「そうそう。展示エリアも見てきたら?」


「はい……」


メイは頷き、足早に展示エリアへと向かった。


展示エリアに足を踏み入れると、そこにも細やかな演出が施されていた。

もみの木をイメージした小ぶりのツリー、棚や木のオブジェには綿の雪がふんわりと積もっていて、

まるで冬の小さな森に迷い込んだような雰囲気だ。


「……なんか、いい感じになってる」


メイの胸にじんわりと感動が広がっていく。


――ここで、クリスマスイベントをするんだ。

そう思うと、胸の奥が少し高鳴った。


沙織がメイの横に来て、そっと声をかけた。


「どう、仕上がりは?」


「想像以上です……ありがとうございます」


「詩音がさ、ここの飾りつけをしてるとき、『メイちゃん、驚かすんだ』って張り切ってたんだよ」


沙織はその光景を思い出すように微笑む。


「……そうなんだ」


メイはそっと写真パネルの横に飾られたツリーへ近づき、

枝先のオーナメントに触れてみた。

ひんやりとした感触と、きらめく光が指先に伝わる。


「ありがとう、詩音」

メイは心の中でそうつぶやいた。


——その頃、詩音は。


自宅の布団にくるまり、夢の世界の真っ只中だった。

「……もうケーキ、食べられないよぉ……ムニャムニャ」


布団の中から、幸せそうな寝言が聞こえてきた。



ここまで読んでくださってありがとうございます!

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