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第108話 夢見た焚き火の向こうに 〜デュオキャン Ⅵ〜


第108話 夢見た焚き火の向こうに 〜デュオキャン Ⅵ〜



お風呂は諦めて、赤く染まった富士山に見とれながらテントへ戻ってきた二人。


日が傾くほどに、空気はぐっと冷え込んでいく。


メイは椅子にかけていたダウンを羽織り、ジッパーを首元まで上げた。


「ふぅ……あったかい」


詩音も同じようにダウンを着込み、両手をこすり合わせる。


「メイちゃん、そろそろ焚き火の時間じゃない?」


「そうだね。薪も割っちゃわないと」


メイは焚き火台の準備を、詩音は薪割りの準備を始めた。


焚き火シートを広げたメイは、風がやや強いのに気づいて四隅をペグで押さえる。

カチャカチャと金属を組む音が静かな草原に響いた。


「メイちゃん、ナタってどこ?」


「その黒いバッグだよ。気をつけてね、けっこう切れるから」


詩音がナタを取り出しながら首をかしげる。


「これ、どうやって割るの?」


「ちょっと貸して」


メイは革手袋をつけ、薪を軽く押さえてコンコン。

パキッと気持ちのいい音を立てて、薪が見事に割れていく。


「メイちゃん、上手いね」


「梓ちゃん直伝なんだ」


細い薪、中くらいの薪、太い薪……きれいに並んでいく様子は、まるで料理の下ごしらえ。

詩音はぽかんと見つめたまま。


「私もやりたい!」


交代した詩音が力を込めてナタを振ると――パキッと割れた。


「おー! 簡単に割れた!」


「じゃあ薪割りお願い。私、防風板たてるね」


「カビラ〜!」


調子よく薪を割っていた詩音の手が、ふいに止まった。


「……これ、硬いやつだ」


ナタが刺さったまま抜けなくなり、詩音は薪ごと地面に叩きつける。


「えいっ!」


ビクともしない。

詩音は半泣きになる。


「メイちゃん、ナタ抜けないよ〜!」


「あー、それね。こうやるんだよ」


メイは薄い薪を裂け目に差し込み、別の薪で軽くコンコン。

パキッと裂け目が広がり、ナタがゆるっと動いた。


「ほら、これで抜ける」


スッと引き抜くメイ。


「おー!!」


詩音が子どもみたいに手を叩く。


「これも梓ちゃん直伝なんだよ」


「梓ちゃん、直伝の玉手箱や〜!」


冷えた空気の中に、二人の笑い声がぽん、と弾む。


ーーー


「メイちゃん、薪けっこう割れたよ!」


「焚き火台も準備オッケー」


「じゃあ……いよいよ点灯式?」


「ちょっと待って。その前に――」


メイはバッグをごそごそ。

取り出したのは、ブロンズ色のオイルランタン。


「出たー! メイちゃんのランタン!」


「これ、キャンプ場で点けたかったんだ」


タープ下のテーブルに置き、芯に火を点ける。


ポッ……。


柔らかな橙色の光がガラス越しに広がる。


「おぉ〜……」


二人の声がぴったり重なった。


メイはランタンをタープの前方ポールに吊るす。


暮れゆく富士山の手前で、オイルランタンの灯りがふわりと揺れた。


「なんか……雰囲気出てきたね〜」


「キャンプって感じするよね」


冷たい風がタープの下をひゅっと抜ける。


「……寒っ!」


「じゃあ焚き火、しよっか」


二人はローチェアを焚き火台の前に移動した。


「なんでタープの下でやらないの?」詩音が不思議そうに聞く。


「え? タープに穴あいたら嫌じゃん?」


「あっ……そっか。ビニールだから溶けちゃうんだ」


「ビニールとは違うけどね。このタープ、ポリコットンだから」


「ポリ……?」


「ポリエステルとコットン混ざってるやつ。燃えにくいけど、燃えないわけじゃないから、ちょっと離す」


「ほぇ〜……」


詩音が感心しきりでうなずく。


「なんかさ、メイちゃんの知識、うなぎのぼりじゃない?」


「……使い方間違ってる気がするけど……ありがとう」


焚き火台の金網が風でぱちんと鳴った。


ーーー


着火剤の上に細い薪を井桁に組む。


「いよいよ……点灯式だね」


「だね。いくよ」


チャッカマンを近づけると、小さな炎がポッと生まれた。


「ついた!」


炎は細い薪へ移り、パチ……パチ……と音を立てる。


「太いのも、入れよ!」


詩音が太い薪をくべる。

しかし火は小さくなり、白い煙がもくもく。


「あれ……? 消えた?」


風下の詩音が煙をまともに浴びて——


「ゲホッ、ゲホッ……!」


「詩音、そこ煙いでしょ……!」


移動する詩音。

しかし二回目も白煙。風向きはなぜか詩音を狙う。


「ゲホッ、ゲホッ……なんか煙に好かれてるよぉ……」


「空気入れないと!」


メイは火吹き棒へ、詩音は「うちわ持ってくる!」とタープ下へ走る。


三度目。


火がつき、細い薪が赤く染まる。

メイがふぅ〜と息を送り、詩音がうちわを――


「パタパタパタパタパタ!!」


「ちょっ……!」


灰がふわーーーーーっと舞い、二人の髪や服に降りかかった。


「うわっ!! 詩音〜、あおぎすぎだよ!」


「ご、ごめん……でもメイちゃん、見て!」


炎は勢いよく太い薪を包み込み、赤々と燃え始めた。


「……結果オーライ」


二人はようやく腰を下ろし、焚き火のあたたかさにほっと息をつく。


「いい感じ……あったかいね」


「……うん」


炎が揺れ、夜の始まりを静かに告げていた。


防風板が光を反射し、小さな炎が幾重にも揺れる。


「……きれい」


最初に見た“焚き火動画”の記憶が、ふっと胸をよぎる。


あの炎に憧れて始まったキャンプ。

今、同じ色の炎が目の前で生きている。


メイは吸い込まれるように炎を見つめた。


「……メイちゃん」


「ん?」


「……ししゃも、焼かない?」


「…………プッ」


あまりのタイミングに、メイは吹き出した。


「焼こうか!」


ーーー


来る途中の「ミックスバリュ」で買った子持ちししゃも。

詩音がクーラーバッグから取り出す。


「あ、お酒も買ったよね。乾杯しちゃう?」


「しちゃおう!」


ミニテーブルに梅酒サワーと白桃サワーを並べ、メイは網をセットする。


「五匹、全部いっちゃおっか」


脂がじわっと落ちて火花が弾ける。

メイが薪をくべ、火吹き棒で息を送る。


「カンパーイ!」


缶がカチンと鳴り、梅と桃の香りがふわっと広がる。


「これ甘くて美味しい!」


「こっちも当たり〜!」


まったりした空気の中、詩音がトートから箱を取り出す。


「じゃじゃーん!」


「何それ?」


「調味料セットだよ〜!」


塩、胡椒、七味、豆板醤、万能スパイスまで整然と並んでいる。


「すご……完璧じゃん」


「今日のメニューに合わせてチョイスしたんだよ〜」


ドヤ顔の詩音に、メイは思わず笑う。


その時――ジューッとししゃもの音が大きくなる。


「あ、ひっくり返さなきゃ」


詩音が割り箸を伸ばした瞬間、

ボッと炎が上がり魚を包む。


「あちっ!」


掴み直すも網にくっついて取れない。

ポロッ……と崩れ落ちる。


「うわ、ししゃも解体ショー!」


「大丈夫大丈夫!」


強引にひっくり返す度、炎はゴウッ!


隣のししゃもも同じ悲劇に。


「軍手しないと!」詩音が慌てて軍手を装着。

しかし焦げる匂いは増すばかり。


「これ焦げてない!? ししゃも炎上!」


「うわうわうわ……!」


「一匹逃げた!」


「こっちも救出しないと!」


――数分後。


紙皿に並んだししゃもは、黒く、崩れ、原型はほぼ一匹。


「ま、こんなもんでしょ」詩音。


「うん……食べられるし」メイ。


「いただきまーす!」


詩音が半身のししゃもをパクリ。


「……ちょっと苦い」


「私の、案外いけるよ」


「うん、甘いサワーに合うかも」


二人は笑いながら焦げししゃもを頬張った。


「次は絶対リベンジしようね」


「うん。次はみんな生還させよ」


焚き火は、まるで「まだ修行が必要じゃのう」と言わんばかりに、

パチパチと夜空へ火の粉を跳ね上げた。


——夜は、まだこれからだ。



ここまで読んでくださってありがとうございます!

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