ロイの決意
――さて、それはそれとして。
「……今更ではありますが、どうしてあのような願いを申し出たのですか? 折角、生来の魔力を取り戻せたというのに」
「……あ、あの、リリアさん?」
その日の昼休み。
中庭のベンチにて、ジトッと彼の目を見つめ問い掛ける私。そして、そんな私に戸惑った様子のロイ。……いや、まあ分かってますけども。彼を責める筋合いなど何もないのは分かってますけど……それでも、やはり納得は出来なくて。
だって……別に、救うだけで良かったでしょう? 被害に遭った方々を救うだけで、全く以て良かったでしょう? いえ、もっと言えば絶対に助けなければならない義務もない。彼自身の権利で願いを叶えてもらうのだから、言ってしまえば自身のためだけに行使しても何ら問題はない。……なのに、あまつさえ自身を犠牲にしてまで――
「……そうだね。強いて言うなら……それが、僕にとっての罪滅ぼし――贖罪のようなものだから」
「……贖罪、ですか……?」
すると、ふっと微笑み答えるロイ。一方、私はただ茫然として。そんな私に、彼は再び口を開いて――
「……実は、僕は昔、両親を殺したんだ。信じられないかもしれないけど……昔、僕にはそれくらいの魔力が備わっていて……」
「……そう、なのですね」
「……でも、幸い……本当に幸い、両親は生き返った。神様の……学園長のお陰で、両親は生き返ったんだ」
そう、仄かな笑みで話すロイ。……まあ、知ってるんですけどね。もちろん、既知とは言えませんが。
「……もちろん、こんなことで贖罪に――僕の殺人を贖えるなんて思っていない。二人の尊い生命を奪ったこの僕が、こうして生きているだけでも罪深いことくらい分かってる……つもり」
「……そんな、こと……」
……ううん、そんなことない。貴方は、何も悪くない――そう、言ってあげたい。今すぐここで、ぎゅっと抱き締めて伝えてあげたい。そもそも、ご両親は生き返ったのでしょう? 例の代償と引き換えに、その尊い生命を取り戻したのでしょう?
……ですが、何の意味もない――いえ、どころかいっそう彼を苦しめてしまうだけなのでしょう。だって、彼は許しなんて求めていない。彼は――
「……だからね、リリアさん。せめて、この代償は僕が背負わなればならない。生涯、その命果てるまで背負わなければならない。……それが、僕の義務だから。その義務を果たすことこそが、こうして僕が生きることを許してもらえる、唯一の理由だから」
「……ロイ」
そう、ニコッと微笑み話すロイ。その莞爾とした笑顔の裏に、どれほどの痛みを抱えているのか……きっと、私の想像も及ばない。そんな彼に、私は――




