願い
「……そんな、ことが……」
神様の言葉に、唖然と呟く私。だけど、同時にすっと腑に落ちる感覚もあって。
そう、神様は言っていた。生後その者が蓄積した魔力を、と。つまりは、奪う対象はその人が後天的に得た魔力に限られる――即ち、その人が先天的に備えている魔力は奪われないということ。
だから、ロイの魔力は目覚めた。神様により与えられた途方もないほどに甚大な負の魔力をロラ先生により全て吸い取られたことで、元来備えていたその莫大な魔力が解き放たれた。
……やっぱり、神様は神様なりにロイのことを不憫に思っていたのだろう。だから、彼は機会を与えた。今回の件を放置することで、再び、ロイが魔力を目覚めさせるチャンスを。そう思えば、当時の神様の処置も将来このような事態が生じることを見越しての……いや、流石に考えすぎでしょうか。
……ただ、いずれにせよ……それでも、やはり他にやりようはあったと思いますが。これだと、今件にて被害に遭われた方々が流石に不憫で――
――トントン。
すると、ふと控えめに届く扉の音。それに応じるように神様が軽く手を振ると、ゆっくりと扉が開き来客の姿が映る。そこには――
「――すみません、学園長。突然ですが、お願いがあります」
そう、真っ直ぐな瞳を向ける美少年。そんな彼に、何処か楽しそうな表情の神様。そして――
「おお、構わんぞロイ。今のお主の魔力は、願いを叶えるに十分すぎる量じゃ。なんでも申すが良い」
「はい、ありがとうございます!」
そう答えると、顔を輝かせて感謝を告げるロイ。そんな彼らの様子に、流石に私も理解に至って。
……なるほど、そういうことでしたか。元より、神様は誰も犠牲にする気なんてなかった。最初から、この展開になることを見越していたのですね。……全く、人が悪い。それならそうと、最初から言ってくれれば……いや、人ではないですね。じゃあ、神が悪い? うん、何でも良いや。
ともあれ、眩いほどに純真な瞳で神様の瞳をじっと見つめるロイ。そして、ゆっくりと口を開いて――
「…………へっ?」




