桁違い
――それから、二週間後。
「…………あっ」
「良いのよ、フランくん。人間なのだし、失敗する時もあるわ」
「……すみません、ロラ先生」
二限目、中級魔法の授業にて。
そっと肩に手を置き優しく告げるロラ先生に、俯いたまま力なく謝る男子生徒、フランくん。クラスでも指折りの優秀な生徒だ。
もちろん、優秀な人でも失敗することはある。ロラ先生の言うように、人間なのだし失敗することはある。だから、これだけならさほど驚くことでもないし、フランくん自身それほど落ち込むことでもないと思う。
……だけど、このような光景は今日だけでなく。ここ二週間ほど、似たような――優秀なフランくんが魔法の発動に失敗するという、それまではほとんどなかった光景を度々目にすることが増えていて。
「……はぁ、俺はもう駄目だ……」
「……そう落ち込むなよ、フラン。今はちょっと調子が悪いだけだって。絶対、またすぐに出来るようになるから」
「……ジャン」
それから、数時間後。
放課後、廊下にて肩を落とすフランくんを暖かな笑顔で励ますジャンくん。……うん、やっぱり優しいよね、ジャンくん。フランくんのことも心配だけど、彼がついていれば大丈夫だと思う。
……ただ、それはそれとして――
「……流石に、おかしいよね」
そう、ポツリと口にする。と言うのも、あのような現象――優秀な生徒が驚くほどに調子を落とすという現象はフランくんだけでなく、他のクラスの生徒達にも見受けられているとのこと。性別も学年も問わず、校内でも優秀と評される生徒達に見受けられているとのこと。それも、フランくんと同じくこの二週間の内に……こうなれば、いくら馬鹿な僕でも流石に理解せざるをえなかった。なにか、この校内全体に異常な事態が生じているということを。……だけど、いったい何が――
「…………っ!!」
刹那、脳裏に衝撃が走る。そして、気付けば駆け出していた。……もちろん、確証なんてない。それでも――
その後、ほどなく到着したのは三階隅の空き教室――ここ最近、選ばれし者だけが使える特別な上級魔法を教えるとの理由で、学内の優秀な生徒達が呼び出されているとの場所で。そして、今日呼び出されていたのは――
「――――ジャンくん!」
「……ロイ、くん、どうして……」
そう、微かに届く声。そんな僕の視界には、呆然とこちらを見るジャンくん……そして、従来のこの場所とはまるで違う、何とも禍々しい雰囲気に満ちた空間で。そして、視線を移すと――
「……あんた、なんでここに……」
そう、こちらも呆然と呟く妖艶な女性。授業時と同じく、真っ黒なローブを纏うロラ先生がこちらをじっと見つめていて。そして、そんな彼女の目的は――
「……ここで、奪っていたんですよね? ジャンくんのような優秀な生徒達を誘き寄せて、その高い魔力を奪い取っていたんですよね……ロラ先生」
「…………それは、どういう……」
すると、僕の言葉に反応したのは先生でなくジャンくん。……まあ、仕方ないよね。どうしてか魔力が減っているとは気付いていても、よもや奪われてたなんて思いもしないだろうし。
……だけど、間違いない。ここに入ってしまったが最後、大幅に魔力を奪われる。どうやら、人によって多少なり個人差はあるようだけど――総じて、大半の魔力を奪われてしまうようで。
……そして、感覚で分かる。今、傍にいるジャンくんも、ついさっき――フランくんと廊下で話していた時とはまるで別人のように、その豊かな魔力がほとんど失くなっていることが。……そして、その原因こそが――
「――ハハッ、よく分かったわね坊や!」
すると、僕の問いに呵々として答えるロラ先生。自分で言っておいてなんだけど……正直、違っててほしかった。授業の時のような、生徒想いの優しい先生であってほしかった。だけど――
「さて、この際だしついでにあんたの魔力も貰っちゃおうかしら。尤も、落ちこぼれと評判らしいあんたから取れる魔力なんてないかもしれないけ…………えっ」
すると、愉悦に満ちた先ほどまでの笑顔が一転、突如真っ青になるロラ先生。そして、
「……なんで……なんで、私の魔力が失くなって……それに――」
そう、膝から崩れ落ちる。それから、僕をぎっと睨みつけ叫ぶ。さながら、最後の力を振り絞るように。
「……なんなのよ……なんなのよ、あんたのその桁違いの不気味な魔力は!」




