……うん、ほんとになんで――
「――ねえ、ロイ。先ほども、少し遠目に見てましたけど……このままで、本当に良いのですか? このまま何も出来ず、あのように見下されたままで」
「……あはは、見られてたんだ。でもまあ、仕方がないよリリアさん。実際、僕は何も出来ないし」
「……そんなの、まだ分からないではないですか」
その後、お昼休みにて。
いつ見ても景色が変わる不思議な庭園にて、隅の方に腰掛けそんなやり取りを交わす僕ら。そして、眼前にてありありと不服を浮かべ問い掛けるのはリリアさん――ジャンくんと同じく二年A組のクラスメイトで、鮮やかな銀髪を纏う見目麗しい女子生徒だ。その美しさと言ったら思わず息を呑むほどで、クラスや学年のならず、校内にて絶大な人気を博していて……うん、どうして僕といてくれるのかいつも不思議でなりません。
「――それにしても、リリアさんは今日も凄かったね。誰も出来なかった上級魔法を、一人だけ見事に成功させて」
「……別に、大したことでは……」
ともあれ、昼食を取りつつそう口にする。すると、少し目を逸らし呟くリリアさん。心做しか、雪のように白いその頰がほんのり染まっている気がして。
ともあれ、リリアさんは容姿のみならず魔法力も桁外れ――それこそ、学年どころか上級生を含めた全校生徒の中でも指折り……いや、トップと断言しても差し支えないと思う。きっと、彼女のような人を才色兼……ううん、その表現でさえ彼女を形容するに足りないように思えて。……うん、ほんとになんで僕といてくれるんだろうね。
「……ときに、ロイ。実は、つい先日ジャンくんに誘われたのです。一緒に、映画に行かないかと」
「……そっか、ジャンくんが」
食事も終わりに近づいた頃、ふと躊躇いがちにそう話すリリアさん。どうしてか少し上目遣いなのは気になるけど、それはともあれ――
……そっか、ジャンくんが。きっと、相当緊張したんだろうな。それでも、頑張って勇気を出して……すごいなぁ、ジャンく――
「……それで、どう思います?」
「……へっ?」
「……だから、ロイはどう思うのかと、そう聞いているのです。私が、彼のお誘いを受けるべきかどうか」
そんな感心の最中、不意に届いたリリアさんの声。いや、不意にでもないか。会話中だったんだし。
……だけど、その内容は中々に思い掛けないもので。えっと、僕がどう思うか……どう思うか……
「……えっと、リリアさんの心のままに返答すれば良いかと思う、かな」
「……そうですか。いえ、もう返答は済ませているのですけどね。申し訳なくも、丁重にお断り致しました」
「……そ、そっか」
すると、僕の返答に不服そうな表情でそう話すリリアさん。……まあ、そもそも僕なんかがためになる助言なんて出来るわけないよね。
ただ、それはそうと……うん、もう返事しちゃってるんだね。だったら、どうして聞いたのかという疑問はあるけど、それはともあれ……大丈夫かな、ジャンくん。やっぱり、落ち込んでるよね……とは言え、誰が悪いわけでもないので仕方ないのだけど。
「ところで、リリアさん。リリアさんは、何か叶えてもらいたいこととかある?」
「…………へっ?」
ふと、そう問い掛けてみる。すると、少しポカンとした表情のリリアさん。まあ、そうだよね。僕としては雑談がてら話を振っただけなんだけど、ちょっと急だった気もするし。
だけど、この話題にしたのはちょっとした理由があって。と言うのも――当校では魔力の量が一定以上の水準を満たすと、学校長から何でも願いを叶えてもらえるというとんでもない制度があって。そして、あくまで僕の感覚ではあるけれど、彼女はその水準を越えているように思う。だから、もしあるならすぐにでも――
「……そうですね……今は、内緒です」
「……そっか」
すると、少し目を逸らし答えるリリアさん。ほんのり頰が染まっているところを見ると、きっと恥ずかしいのだろう。まあ、願いごとなんてそんなものだよね。




