……全く、馬鹿な人ですね。
「――ねえ、ロイくん。本当に、本当にこんなことを言うのは心が痛むのだけど……流石に、もう少し出来るようにならないかな?」
「……あはは、すみませんミシェル先生」
それから、一週間ほど経て。
三限目の授業にて、そんなやり取りを交わすロイとミシェル先生。そして、今日も今日とて注意を受けるロイを皆が笑って――もう、恒例と言って差し支えない光景です。……全く、馬鹿な人ですね。
『……あやつが、魔力を吸収する前の状況に戻す? 本当に、本当にそれで良いのか、ロイ?』
『はい、お願いできますか?』
『……ああ、それは可能じゃが……』
一週間ほど前のこと。
校長室にて、ロイの申し出に茫然とした表情で尋ね返す神様。そして、私もきっと同じような表情で。
今件にて被害に遭った他の方々の魔力を、元に戻してほしい――それがロイの願いだと神様……そして、私も疑わなかった。それなら、他の方々の魔力は以前の――吸い取られる前の状態に戻り、ロイ自身も生来の魔力を維持したまま。神様も私も、それで良い――いや、そうであるべきだと思っていました。
……だけど、彼の願望は違った。似ているようで、まるで違った。魔力を吸収する前の状況、ということは即ち――ロイの魔力も元の状態に戻るということ。神様に負の魔力を与えられ、何一つ魔法を使えないままの状態に戻るということで。
だけど、魔力ある者の願いとあらば叶えないわけにはいかない。なので、ロイの願い通りに叶えた結果――まあ、以前と同じ状況で。いわゆる落ちこぼれと認定されていた、以前のロイのままで。
そういうわけで、状況は以前と変わらず……いや、一つだけ違いあるとすれば――
「――あれ、どうしたんだよジャン」
「……いや、別に」
ふと、少し遠くから届くやり取り。皆、とは言いましたが、正確には違いますね。ジャンくん――以前は最もロイを馬鹿にしていた彼が、今はクスリともしていません。どころか、何処か畏怖すら見受けられる表情で少し視線を逸らしていて……まあ、無理もないでしょうね。神様と私を除けば、恐らくこの校内で唯一あの状態のロイを知っているのが彼なわけですし。