追憶
『――ねえあんた、ちょっと魔法が出来るからって調子こいてるそうじゃない』
ある放課後のこと。
そう、何とも高圧的な口調で告げる女子生徒。そんな彼女の周りには、ニヤニヤと何とも愉しそうな笑みを浮かべる女子生徒が五人。まあ、確認するまでもなく取り巻きでしょう。
さて、そんな彼女らと私がいるのは、校舎の隅に在する非常階段の踊り場。つい先ほど、昇降口へと向かうべく一人廊下を歩いていたところに用があるからと声を掛けられ――まあ、今に至るわけで。
『――おいてめぇ、無視してんじゃねえぞコラァ!!』
すると、私の無言をそう解釈したようで、途端に怒りを顕にするリーダー格の女子生徒。まあ、何か言ったら言ったでどうせ逆上するだけでしょうし、だったら何も言わない方が無駄な労力を費やさずに済む分まだマシでしょう。
ただ、それはともあれ……さて、どうしましょうか。まあ、追っ払うのはいとも容易いのですが……ですが、騒ぎになってもそれはそれで面ど――
『――――止めてください!』
『…………は?』
卒然、上方から降りてきた声に唖然と声を洩らすリーダー格の女子生徒。まあ、取り巻き達も同様の表情ではありますが。
ともあれ――声の方向へ視線を向けると、そこには綺麗な栗色の髪を纏う男子生徒。すると、瞬く間に階段を駆け降りてきて――
『……そ、その、止めてください。もうすぐ、ここに先生も来ますから……』
私の前にバッと立ち、両手両足を広げたどたどしくそう口にする。もちろん、そのお気持ちや勇敢な行動は嬉しいのですが……うん、なんだかこちらが心配になりますね。足とか震えていますし。……うん、やはりここは私が――
『……チッ、行くよあんたら』
『……へっ? あ、はい!』
すると、そう言い残し少し駆け足で階段を上がっていくリーダー格の女子生徒。すると、取り巻き達も彼女を追うように階段を上がっていき……うん、何とも意外な展開です。やはり、先生という言葉に反応したのか……あるいは、意外にもバツが悪くなったとか。パッと見ただけで分かるほどの美少年ですし、これ以上ご自身の印象を悪くしたくなかったとか……ともあれ、少しの間があった後――
『…………ふぅ』
その後、安堵したように膝をつく男子生徒。そんな彼の様子に、何だか少し微笑ましくなってしまいます。まあ、それはともあれ――
『どうもありがとうございます。お陰で助かりました』
そう、彼に手を差し出し告げる。まあ、正直のところ私自身でどうとでもなったのですが……ですが、勇気を出して助けにきてくれた方にそんなことを言うほど無神経ではありません。すると、彼は恥ずかしそうに微笑みつつそっと私の手を取ってくれました。




