第1話 砲撃手になる
VRゲーム『IKUSA ONLINE』では多種多彩な職業から一つを選択し、自分だけのプレイスタイルを極めることができる。
従来のゲームとは違い、初期に街や国が存在しない。
NPCは小さな集落を営んでいるだけ。
かなり斬新だが、VRゲームをやった事の無い我輩はそこに惹かれた。
早速、サービス開始と同時にゲームにログインする。
何も見えない真っ暗な空間。
ゲームのサービス開始と同時ログインしたが、まさかのサバ落ちが頭を過ぎる。
「『IKUSA ONLINE』の世界へようこそ。私はナビゲーターのナビ子です。まずはプレイヤーネームを教えてください」
サバ落ちでは無く、デフォルトで真っ暗な空間のようだ。
ナビ子と名乗るナビゲーターの姿も見えない。
「名前なら既に決めてある。キングで頼む!」
「かしこまりました。キング様ですね。次に職業を選択してください」
職業……その膨大な数はこのゲームの売りの一つ。
安定の剣士や魔法使いの他にも奇術使いやアイドルなどよくわからない職業もある。
とにかく数が多く、総数は100を超える。
どれを選ぶか悩む。無難に剣士……いや、剣士でも大剣士とか細剣士、侍といった感じで種類がある。
それに我輩は運動神経悪いからあまり向いていない気がする。
ならば、後衛の職業だな。
あまりの多さにこれまた頭を悩ませる。
魔法使いや神官、テイマーに召喚士、弓使い、銃使いなど。
しかし、ある職業の紹介文を見て心は一瞬にして鷲掴みにされた。
砲撃手。遠距離から砲撃をすることができる職業。
しかも攻撃力は全職業中トップ!!
「砲撃手で!」
「かしこまりました。砲撃手ですね。次にキング様が所属する陣営を選択して下さい」
このゲームには陣取り合戦の要素がある。
その為、プレイヤーは開始前に所属する陣営を選択する。
メインは他のゲームと同じでモンスターを倒したりだ。
しかし、それだけでは味気ないと考えた運営は陣取りゲームを取り入れた。
それが意外と好評というか期待値が高い。
陣営は赤陣営、青陣営、黒陣営の三つ。
特にこれといった違いは無いから適当に選んでも問題無い。
「どこでもいいな。なら赤陣営で!」
「かしこまりました。赤陣営ですね。では、キャラクタークリエイトに移ります」
目の前に現実の姿にそっくりのアバターが現れる。
アバター作成で楽をする為に現実の自分を予めスキャンしていた。
これで後は適当に弄るだけで済む。
ベースは変えずに髪は白髪で短めに。
それから顔の輪郭も少しだけ細くしてアバター作成を完了する。
「続いてステータス作成に移ります」
NAME:キング
Lv1
職業:砲撃手
HP:70
MP:370
物理攻撃力:36
物理防御力:4
魔法攻撃力:1
魔法防御力:3
素早さ:5
精度:1
SP:10
〈スキル〉
『ファイアLv1』
「HPは体力、MPは魔力、物理攻撃力、物理防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、素早さ、精度はそのままの意味です。SPはステータスポイントの略称で自由にステータスに割り振ることができますが、注意点が一つございます。基本的に新たにスキルを取得するのにもSPが必要です。使う際は慎重に考えてからをオススメします。それからステータスとSPはLvが上昇すると必ず1上昇します」
HPは物理防御力と魔法防御力を足した数字の10倍。
MPは物理攻撃力と魔法攻撃力を足した数字の10倍。
精度は遠距離攻撃だとコントロールに影響を与える。
他にもクリティカル率にも影響がある。
基本的にSPを使わないと新たなスキルを取得できない。
一応、SPを使わなくてもLvが5の倍数で職業専用スキルを取得できる。
しかし、それだけでは自分だけのプレイスタイルを確立するのは困難ともいえる。
最初は誰でもSPが10与えられる。
焦って使うものではないし、貯めておこう。
「最後にチュートリアルモンスターとの戦闘を行っていただきます。見事、勝利すれば自動的に赤陣営の初期位置に転移されます」
真っ暗だった空間が突如として見晴らしの良い草原に。
ここでチュートリアルモンスターと戦闘を行うのか。
プル、プル、
姿を現したチュートリアルモンスターはスライムだった。
早々にチュートリアルを終える為に砲塔をスライムへと向け、攻撃する。
「ファイア!」
ドカーン!!
……おかしいな。しっかりとスライムを狙って撃ったのだが、真横に飛んでいったぞ。
精度のステータスが1だからか……いや、これくらいプレイヤースキルで。
「もう一発ファイア!」
ドカーン!!
今度は大きく上にスカした!?
くう、ここは戦略を変えるんだ!
スライムの接近をギリギリまで許し、ゼロ距離で撃てば当たる筈だ!
プル、プル、プル
遅い!これが焦らしプレイという奴か!なかなかにエグい攻撃をしてくる。
手強いぞ、このスライム。
ただのチュートリアルモンスターとは思えないな。
(※ただのチュートリアルモンスターです)
もう少し待て。まだ早い。まだ、もう少し。
砲塔がスライムに触れるくらいまで引き付けろ。
そう、もう少……!?ちょっと待てー!!ジャンプするとは聞いてないぞ!!
「グハッ!」
スライムの強烈な一撃をもらい、仰け反る。
なんのこれしき!
「ファイア!」
ドーン!!
残念なことに渾身の一撃はまたしてもあらぬ方向へ飛んでいく。
そのままスライムの追撃を受け、初陣を敗北で飾った。