第93話 ミカゲ
なかなか信じてもらえないかも知れない状況に、コレットは焦燥感を抱いていた。
天空の、それも大図書館の司書なんだと言うのなら、もっと人の話をちゃんと聞いてくれるものだと思っていたのに何故こんなに信用してくれないのか?と、コレットは少し苛立ちすら感じ始めていた。
ああ・・・神族が神界が滅んだのには、何か特別な愚かな行動が原因だったのかも知れないな・・・それでこの大司書様は神族をあまり信用していないのかも知れない・・・とすら、コレットは思い始めていた。
「おい!コラ!!ジジィ!!コレットを悲しませたらあちしが許さないんだち!!」
突然、周囲の皆の耳をつんざく程の大音量で、ミカゲが大司書に文句を浴びせた。
急な大音量が耳に入って来た事に驚いた大司書は、しばし目をぱちくりさせていたが、耳から音の衝撃が抜けると自分とそう身長の差が変わらない角の生えた亜人の少女に向き直った。
「ふぉっふぉっふぉ・・・お嬢ちゃん、ちょっと声が大き過ぎやしないかな?ワシも偉く歳を取って耳も割と遠くなっているんじゃが、そんなに大きな声を出さずとも聞こえはするんじゃぞ?」
言いながら大司書は、角の亜人の少女に妙な違和感を感じ始めていた。
この少女は、ただの亜人ではない。
亜人の器では無い・・・では何だ?と首をかしげる。
そして、目の前の亜人の少女の小さな身体からは想像もつかない程の質量を、天空図書館の大司書は感じ取り始めていた。
「お主・・・・竜族じゃな・・・・」
その声は恐怖に打ち震える。
大司書にどんな過去があったのかは、そこに居る誰も知らない。
ただ、ミカゲを前にした大司書の、その怯えっぷりだけは異常とも思える状態だったのは確かだった。
「あああーー!!」
突然声を上げたのは、ソラ・ルデ・ビアスだった。
何かを思い出した様だった。
何かを思い出してそれが鮮明になったソラ・ルデ・ビアスは、慌ててミカゲを制止しに駆け寄った。
「み、ミカゲ君!ちょ、ちょっとコチラに来たまえ!!」
そう言って、ひょいっとソラ・ルデ・ビアスはミカゲの身体を持ち上げる。
目の前に大質量で立ちはだかっていた亜人の少女が、自分の弟子の手で軽々と羽根の様に持ち上げられたことに驚いた大司書だったが、未だ竜族の恐怖の記憶に囚われている様だった。
しばらくすると、亜人の少女の立っていた空間に手を伸ばし、竜族の魔力残滓を掴み取ろうとしていた。
その頃、ミカゲを自分の目の前に持ってきた?ソラ・ルデ・ビアスは、ミカゲの耳元で何やらゴニョゴニョと囁いていた
「ちょちょちょっと、ミカゲさん!あんなに失礼な事大司書に言ったらダメでしょ!後で拙者が怒られちゃうでしょ!」
何やら、若干泣き言の様で更に、
「師匠(大司書)、昔竜族に襲われて大怪我したことがあるらしくてね!それでちょっと竜族怖いみたいなんだよね!だからミカゲ、ちょっとはその辺察してあげ・・」
ミカゲは、ソラ・ルデ・ビアスの言葉の最後を聞き終わる前に、大司書の前に向かった。
ソラ・ルデ・ビアスはまた制止しようと手を伸ばしたが、スルリとその手を払いのけて、ミカゲは己の正義を貫くために大司書に対峙する事を決めていた。
再び目の前に亜人の少女が立ちふさがって来た事に恐怖感を感じながらも大司書は、今度は恐れる事無く向きあう決意を・・・少々迷いながらもした様だった。
「ふぉふぉふぉ・・・・お嬢ちゃん、ただの亜人じゃなかったんじゃの。」
自身の身体から滲み出続ける恐怖感をいなしながら、大司書はミカゲに感じた事を話しかける。
先ほど、弟子が軽々と持ち上げた少女の身体から発せられる質量は、また巨大な竜のモノと同じになっていた。
「あちしは、氷炎竜。氷炎竜グレアリー・ニーゼンヴォルフの血に連なる者だち。そして、コレットの深層意識の中で、コレットの過去を視たんだち。」
ミカゲは、先日コレットが倒れて生命の危機に陥った時に体験した事を話し始めた。
「コレットの深層意識の中で、あちしは見たんだち。小さい頃のコレットが孤島の小屋に自然に出入りする姿を。コレット以外のあちしが見た!って言ってるんだち。これでもコレットの言葉を信じられないだちか?」
コレットが大司書に訴えていた「赤の孤島の小屋は自分なら開けられる」話の補足として、ミカゲは大司書に説明した。
ミカゲは、これでもコレットの事を信じられない様ならもう、赤の孤島の場所を自分で探しに行く事を決めていた。
青の星の上空のかなり高い位置から探せば、低空層しか飛べない黒竜に見つかる事無く赤の孤島を見つけられるかもしれないと、ミカゲは頭の中でグルグルと考えを巡らせていた。
しばらくの沈黙の後、
「分かった。お前さんたちを信じよう・・・・」
天空図書館の大司書は、ポツリと呟いた。
「ワシは歳を取り過ぎた様じゃ・・・柔軟な思考が出来なくなる程にな。神族のお嬢さんよ、悪かったの。ワシの頭が固い所為で悲しい思いをさせてしまった、許して欲しい。」
そう言いながら、杖に身体を半分預けながら深くコレットに向かって頭を下げた。
その後ろでミカゲは、「どうだ!参ったか!」的な、何かと戦って勝利した時の様に右手を高く振り上げていた。




