第86話 酒場で
コレットの告白に、アルファスとソラ・ルデ・ビアス以外の面々は驚きを隠せなかったのは言うまでもない。
ただ、セレスはふと、オヤジが帰宅してきたときに何故コレットの事を知っていたのか?と言う、モヤっとした疑問が今晴れた様な気がしていた。
「なる程なるほど、そう言う訳だったのか。」
うんうんと頷きながら納得して行く。
今回は情報が小出しのお陰で、セレスの情報過多頭痛の発生は抑えられていた。
コレットの話に食いついたのはソフィアステイルで、
「へぇ~、面白いね。コレットと言う人格を得るきっかけとなったのがこの店と言う事は、もしかするとコレットと言う名を付けたのはグレイスルフ殿と言う事になるのかな?」
当時の事を徐々に思い出しているコレットに、鋭い質問を投げかけた。
この質問にコレットは、
「多分・・・そうですね。グレイスルフさんが・・・確かに私の名前が長過ぎるとか著名人の名は不謹慎だと思われる、もっと呼びやすい名前にしようって言ってコレットと名付けてくれた・・・・と思います。」
徐々に記憶を取り戻しつつある状態の所為か、質問に対する回答は朧げに浮かぶ記憶の中から手探りで発掘するような状態だった。
「アリ・エルシアの名は気に入ってますが、やっぱり呼びにくいですしそれに、壁の名を拝する大陸でのアリ・エルシアは戦女神として信仰されているので、コレットの名は非常にありがたかったですね。」
そう言ってコレットは、やんわりと笑った。
この世界には、壁の名の付く大陸が4つ(白壁・黄壁・蒼壁・緑壁)あるのだが、この4つの大陸間でアリ・エルシアは戦女神として信仰されているのだ。
その戦女神がコレットで、そのコレットが今目の前に居る少女だと言う事は、ここに居るメンバーしか知らない事とは言え、本来は壮大なる神の世界の住人である筈なのに、何とも世界が狭まった様な、変な感覚をセレスは感じていた。
「何か、移動の途中でチラっと立ち寄るだけの酒場かと思っていたら、意外や意外に深い事情や真実が分かって良かったよ。」
セレスがそう言うと、同じテーブルを囲んでいた面々は皆、首を縦に何度も振った。
話し込む前に注文していた料理も届き、書架のメンバーは料理に舌鼓を打つ。
特にグレアラシルはかなり空腹だったようで、舌鼓と言う表現には見合わない食べっぷりだ。
そんなグレラシルに負けず劣らず貪欲に料理を腹に収めているのが、書架の主ソラ・ルデ・ビアスだったのだが、ちょっと品位を疑う食事マナーの悪さに目をつむっていられなくなったセレスに、
「おいオヤジ、いつからそんなに意地汚い野犬の様な食べ方になったんだ?」
と、辛辣な眼差しと共に注意されていた。
この二人の関係をよく知るメンバーは「やれやれ」と言った視線を送るだけだったが、アルファスだけは物珍しそうに楽しそうに観察していた。
「いや~、ソラはアレなんだな、娘さんの尻に敷かれている父親だったんだな!」
と言いながらゲラゲラ笑うので、
「うぉっほん!拙者はいつも尻に敷かれている訳では無い!!」
偉そうな書架の主を装って?言ったのが、かえって墓穴を掘る様な返答だったので、他の面々も大爆笑したのは言うまでも無かった。
「何か、久しぶりに大笑いした気がするち!」
ミカゲが、笑い過ぎで出た涙を拭いながら話す。
確かに、あの一件以降、心の底から笑った記憶が無かったとセレスは思い出していた。
正面の席に座るコレットも、やっと本来の笑顔を取り戻してきている様にセレスには感じられた。
(オヤジの変な行動も、たまには役に立つな)
セレスは心の中だけで父に感謝の気持ちを浮かべるが、本人に直接その言葉を言う事は無かった。
夜も白んで、酒場の店内も徐々に人影がまばらになって来た頃、店主のアルファスはコソコソと店仕舞いを始める。
今まで、書架のメンバーとの語らいをしている間は、雇っている従業員に店を任せていたので、後片付けは自分がやると言って従業員は帰宅させていた。
1階のテーブル席に残っていた最後の客が帰ると、酒場の入り口に立てかけてある看板を仕舞い店内に引き入れ、その後は店の入り口のドアを閉めて鍵をかける。
今夜は酔いつぶれた客も居らず、店内には蒼壁の大陸から遠路はるばるやって来た客だけが残っている状態になっていた。
店内1階のテーブルを布巾で丁寧に拭く作業をし始めた時、コレットとミカゲがアルファスに、
「あちし達も手伝うち!」
と言って、テーブル拭きの作業の手伝いを始めた。
「おお!助かる、ありがたい!じゃあテーブルを拭いたら今度は、椅子の座面をこの青い布巾で拭いておいてくれ。拭き終わったら椅子は、テーブルの上に逆さまにして積んでくれると助かる。」
アルファスは礼を言いつつも、新たな仕事を2人に言い渡して厨房の方に行ってしまった。
本来は手慣れた従業員数名と一緒にやる作業なのだろう。
コレットとミカゲは返事をすると、テーブル拭きを手早く終わらせて今度は椅子の座面を拭き始めた。
「これは、私は傍観しているだけではイカンな、私も手伝おう。」
久しぶりに酒を飲み過ぎて酔いを醒ましていたソフィアステイルが、重い腰を上げて1階のテーブル席の方に移動する。
そして、拭き上がった椅子をテーブルの上に上げ始めた。
「おお~、皆お手伝い関心関心!」
セレスは、皆のお手伝い風景を見ながら、今の今まで食事をして一テーブルを方付けていた。
大食い?競争並みに食べていた父親とグレアラシルは、食べ過ぎの腹を抱えて座席でうなだれて居る。この二人は片付けの役には立たないだろうとセレスは踏んで、その場に放置する事にした。
多分、今は何を言っても急には動き出すのが難しい状態なのは、誰の目にも明らかだった。
しばらくすると酒場の店内の清掃がすべて終わり、店内に充満していた酒や料理の匂いも消え去っていた。
店内には、カウンター席に置かれていた花瓶の花の香りが漂うまでになっている。先程までの、酒と料理の匂いが消え、清涼な空間が戻ってきていた。
厨房の方の片付けも滞りなく済んだ様で、額の汗を手拭いで拭いながら、
「ご苦労様!いや~~、いつもの半分の時間で片付けが終わったよ!本当ありがとうね!」
アルファスがお手伝いのメンバーに礼を言いながら戻って来た。
そして、
「今夜は遅いから、2階の奥の部屋に泊まって行くとイイさ。」
と言って、書架のメンバーに休息を促した。




