第73話 仮説
「悪い悪い、ええ~と、つまりだな。」
セレスが説明しようとすると、横から、
「もしかするとグレアラシル、お前の父親は本当の父親ではない可能性が高いって事さ。」
と、ソフィアステイルが口を挟んだ。
「ええ?!」
グレアラシルは眼を見開いて驚く。
そう、そんな事、今の今まで全くと言っていい程触れてこなかった話がいきなり降って湧いたので、グレアラシル以外の皆も驚いた。
「え?何を言ってるんだソフィア?グレの親父が赤の他人だって言うのか?」
驚きを隠せないセレスがソフィアステイルに詰め寄る。
「そうさ、考えてもごらん?幼少の頃に別れて記憶も朧げな父親が、完全にこの蒼壁の大陸の側の人間だと言い切れるかい?それにあのグリムエルド、いやアルセア・ティアードの知り合い?か恩師に当たるかも知れないんだぞ?ライカンスロープ研究をしていたのなら、ソルフゲイルではかなりの重要人物だと考えられよう。」
詰め寄られたソフィアステイルは、自身の考える所を語り始めた。
一呼吸、またコーヒーを飲んでから続ける。
「私の考えではね、黒竜族を生み出したのはグレアラシルの父君だと思うんだよね。赤い月の住人か、はてまた別の種族で人間やメルヴィよりも長命なら、100年ちょっとの時間は容易だと思うんだ。ただ、私の考えの中で腑に落ちないのは、そう君だ、グレアラシル、君の存在だよ。」
言い終わるとまたコーヒーを飲もうとするソフィアステイルだが、既に空になっていた。
諦めてミカゲが貰って来たパンを手にしようとするが、
「ちょ、ちょーっと待った!何か話が飛躍し過ぎてない??」
セレスの制止が入る。
「おや、そんなに分かりにくい説明だったかな?」
セレスの制止に首をかしげながら、ソフィアステイルはパンを口に運ぶ。
「まぁ、ちょっと時系列を整理しながら話した方が良いかもね。僕も急に展開が変わったのには流石に驚いたし、グレアラシル君の家族構成とか昔の話とかのすり合わせをしながら確認した方が、多分僕もセレスも理解が深まると思うんだよ。」
ベルフォリスが、パンを貪るように食べ始めたソフィアステイルにアドバイスした。
もぐもぐもぐもぐ ごっくん
ソフィアステイルはパンを飲み込むと、
「そうか、分かった。ではまずグレアラシル君の記憶の方からすり合わせてみる事にしようか。」
と言って、いつも腰からぶら下げているカバンから、少し大きい紙とペンを取り出した。
「いつもこんなの持ってるんですか?」
と尋ねるコレットに、
「ええと、いつだったか忘れたけど将来これを使う日が来るかもな?と思って入れておいただけさ。」
と言って笑う。
その後のソフィアステイルは、大きめのその紙に年表を書き出し、これまでに起きた出来事などを記して行った。
「で、大体こんな感じで、トトアトエ戦役の後の出来事はこの国ではそんなに目ぼしい出来事は無かったけど、ソルフゲイルの方ではトトアトエ戦役の20年後に、急に黒竜族と言う種族が生まれている。この大陸では竜と言ったらソルフゲイル北部の地域にしか居ないし、彼らの身体は青くて水辺に棲む飛行が得意じゃないタイプの竜だからね。あと竜と言ったら竜タクシーのアイツらかな。背中が赤い小柄なヤツ。黒竜族とは全く別物だと当時から思っていたものさ。」
トトアトエ戦役後の事象を書き記して行く過程で、ソフィアステイルは黒竜族の話をする。
「ヤツらが銀狼族の魔力と肉体と魂を糧に黒竜族を錬成したと考えられるけど、その後の黒竜族の中には人の形を取れる上位種が現れている。多分この人の形を取ると言う部分にグレアラシルの父君とされる男が関与していると考えられるだろうね。これもトトアトエ戦役の20年後、つまり今から約80年前の出来事と言う事になる。」
ソフィアステイルは年表に黒竜族の進化の過程を書き記して行く。
それを見ていて何かを閃いたコレットが、
「もし、黒竜族の生まれた経緯にライカンスロープの技術が関わっていたと言う場合は、グレアラシルさんでライカンスロープの実験をしていたと言う話は、これ以前に行われていなければオカシいですよね?」
と、今ここに居るグレアラシルと、グレアラシルの父とおぼしき人物の所業と時間のズレの様なものが、霧の様に皆の思考に覆いかぶさってくる。
何か、言い知れ様の無い謎の不安の様な、今まで全く想像もしたことが無い世界に来てしまったような、そんな感情が皆の心の中に渦巻き始めた。
ソフィアステイルの考えに耳を傾けていたレオルステイルが、ふと口を開く。
「儂の仮説じゃがな、そもそもコレットをこの書架に追い込むためにグレアラシルを使ったと言うのなら、グレアラシルに対しても何らかの術か或いは、元からそのつもりでこの時代に放ったと言う可能性もあるじゃろうよ?」
と、誰もが口にするのを躊躇っていた事をサラリと口にした。
「母さん!それは!!」
「何じゃ?セレスも薄々気付いていたかの?グレアラシルがこの時代の人間では無いと言う可能性に。」
この、レオルステイルの一言が、今まで思考を重ねて仮説を説いてきたグレアラシルの父親との時代のズレの原因を、一気に解決に導く決定打になる事は間違いなかった。
「この時代の人間では、無い?」
当のグレアラシルは、頭の中から煙が吹いている(様に見える)状態で、呆けて一言呟く。
グレアラシル自身には、まったくと言っていい程に時空間移動の記憶すら無かった。
「セレスとあちしとコレットとライカンスロープ君が出会ったのは、昔から仕組まれていたって事だちか?」
ミカゲの質問にレオルステイルは、
「そう考えた方が自然じゃろうな。」
と、答えた。
またもや急激な話の展開についていけていないベルフォリスは、
「ええ?今回のこの話に付いていけてないの僕だけ?!」
皆の顔を見渡しながら慌てて、ソフィアステイルに問いかける。
焦った様子のベルフォリスにソフィアステイルは、
「まぁ、焦るな。この件に関しては私も突っかかりを感じていた部分だったんだが、まさか姉さんがその展開を話してくるとはな。でも、ようやくこの話は前に進めそうになって来たぞ、ベル!」
目の前の霧がサ~っと晴れて青空の見える晴天の空を眺める様な目で、ソフィアステイルは書きだした年表の出来事の中に、バツを一つ書き入れた。
そして、
「では、まずセレスとミカゲとコレットとグレアラシルの出会いのシーンから、グレアラシルの素性を洗っていこうぞ!」
ソフィアステイルは、グレアラシルの父親やアルセア・ティアードの思惑を解き明かす為、再び紙にペンを走らせた。




