第41話 『門』の移動
散々な目に遭った。
と、セレスはびしょ濡れの状態で「門」の安定空間の中でぼやく。
白壁の大陸は極北の地で、蒼壁の大陸の最北端の国のルキソミュフィアとは比べ物にならない程に極寒だった。
幸い、持参した簡易魔導書の中に、炎の魔法で身体の周囲に炎で壁を作るタイプのものがあったお陰で寒さをしのぐことが出来たが、問題は『門』が口を開いた場所が極寒の海の上で、普通に陸地に着地するものだと思っていたセレスは、まんまと海に落下してしまったのだった。
「この恨み、後々に倍以上にして変換してやるから覚悟しておけ!」
セレスはソフィアステイルに文句を言いながらも、目の前に居る母『レオルステイル』に声をかけた。
「よ!母さん久しぶり。でも時間が無いから手短に言う。」
声を変えて来た娘の姿に一瞬ギョっとしたレオルステイルだったが、セレスの後ろに浮いていた『門』と『門」の中に居るソフィアステイルの姿を見て、今の状況を大体理解した様だった。
「なるほど、ヌシら未来から来たのだな?」
そう言いながら、白クジラとの戦闘の計画を練る。
セレスは、
「アタシが何で今ココに居るか分かった所悪いんだけど、もう行くわ。ただし、50年以内に蒼壁の大陸に戻って来てくれ。理由はその時話す。」
レオルステイルにそう言い残すと、セレスは魔法でびしょ濡れ状態を乾かしながら『門』に戻って行った。
その後ろ姿をレオルステイルは見ながら、
「何ぞ、もう少し話をしてくれても良かろうに!」
そう言って少し不貞腐れてはいたものの、
「まぁ、50年なんてあっという間じゃ。50年後を楽しみにしておくかな。」
去ろうとするセレスにむけて呟くと、白クジラに向かって行った。
白クジラは山の様に大きく、凄まじい魔力を持っていた。
破壊力も凄まじかったが、レオルステイルには何の問題も無いだろう。
そんな後姿をセレスは『門』の中で見送ると、次なる目的地であるこの白壁の大陸から50年後の蒼壁の大陸のメルヴィ・メルヴィレッジのあの世界樹のたもとの街の、クレモストナカに向かった。
「あ、でも、クレモストナカの街で『門』を開くと普通の人間が『門』に食われちゃう可能性があるから、別の所が良いかも知れないね~。」
ソフィアステイルは移動の前にセレスに提案する。
「確かに・・・・この『門』の魔力質量からするとあのクレモストナカの住人が『門』に食われてもおかしくないな・・・・正に『慟哭の門』が発動してしまいそうになるな。」
セレスもこの『門』の危険性を流石に鑑みて、クレモストナカではない場所に『門』を降ろす方針に賛同した。
「なら、クレモストナカから南東に~ちょっと離れたところにある平原にしないか?あそこは平原だけど海の近くで、海までは断崖絶壁で隔てられてるからあまり近づく人は居ないんだ。」
セレスは、頭の中のクレモストナカ周辺の地理を思い出しながら、ソフィアステイルに場所の提案をした。
すると、
「ふむふむ、なかなか良い場所だね。そこに『門』を降ろすとしよう。あとは、レオルがちゃんとこの場所を把握してくれていると良いのだがね・・・・」
ソフィアステイルは腕を組みながら何やら模索し始めたが、しばらく後に、
「まぁ、何とかなるだろうよ?。」
と言って『門』を目的地に移動させた。
移動の時間はほんの一瞬で、50年と言う時間と白壁の大陸と蒼壁の大陸との距離の感覚が全く考慮されずに目的の地に着いた。
これがかの『慟哭の門』の恐ろしい所だとセレスは実感していた。
クレモストナカ南東平原にセレスが降り立つと、何故か既にレオルステイルが来ていた。
そして、
「ほれ!来てやったぞ?儂の方が早く着いただろう?『門』の力にすがらないと儂に何も伝えられないお前の事じゃからな、先を読んで早めに着いてやったのよ!」
と、かなり偉そうにセレス達に指をさしながら言い放った。
「姉さん・・・思ったより早かったな、相も変わらず元気そうと言うか、あの温泉からの移動は何を使ったのかな?ソラ殿が開いた通路から通って来たのか?」
ソフィアステイルは、レオルステイルの言い放った言葉に少々の疑問を感じながら質問する。
どうやら魔界からこの蒼壁の大陸に移動するには、セレスの父がその昔作った通路を通る必要があるのだが、レオルステイルにはそれを使ってやってきた形跡を、ソフィアステイルは感じなかったのだ。
その疑問にレオルステイルは、
「な~~に、簡単な事よのぅ~。儂はもうこの地でかれこれ3000年以上も世界樹の守護者をやっておったのじゃぞ?しかも数百年に1回は世界樹の中で眠りにもつかなければならなかったが、それが功を奏してな、この世界中にある全ての世界樹と繋がっていられたわけじゃよ。だから、ソフィアに頼んで『門』の力をあまり使わなくても儂は世界中を移動出来た。その中にたまたま魔界もあったってだけの事じゃよ。」
と、どうやって自分が世界を移動してきたかの種明かしをレオルステイルは答えた。
セレスは、世界樹の守護者の本当の意味での恐ろしさを垣間見た気がした。




