第27話 別動隊
「そんなにミカゲが怖くなってしまって居たか―。」
額に左手を当てながら、セレスはまた溜息をついた。
確かに、あの時あんな脅しを目の当たりにすれば、ミカゲに対して抱いた猛烈な恐怖心は相当長い時間をかけないと消える事は無いだろう。
むしろ、今の今まで台所で一緒に料理をしていたと言う現状が不思議だったのだが。
多分グレアラシルの中では、常時ミカゲに恐怖心を抱きながら平静を装い、何か少しでもミカゲから変な気配を感じたら逃げ出せる様に精神状態を保っていたに違いなかった。
それを想像したセレスは、
「ああ~、お前、結構頑張ってたんだな~。」
と、憐憫の念を込めながら労った。
普通の人間なら、とっくの昔にこの場所から逃げ出していたかも知れなかったけど、割と頑張ってたんだな~とセレスはグレアラシルの恐怖について考えた。
「よし、分かった。」
不意にセレスは言う。
「何が分かったんだち?」
ミカゲが問いかける。
セレスはグレアラシルを強い光を讃えた緑の目で見据えると、
「明日のクレモストナカ遠征には、グレは連れて行かない。」
と言い放った。
それを聞いたグレアラシルは、ほっとした様なでも残念そうな複雑な表情を見せる。
そして、
「スミマセン、俺の精神的な問題を考慮して頂いた所為で・・・」
と、謝った。
「何でお前が謝るんだ?これは、アタシの計画にはお前が同行すると実行が難しくなるから、それでお前には留守番してもらう事にするんだ。勘違いするな。」
セレスはグレアラシルの言葉に、少し強めに返答する。
「何でグレが留守番なのか?の疑問だが、グレには別動隊として総務大臣の動向を探って欲しい。」
そう言って、今度は信頼の目をグレアラシルに向ける。
緑色の目の深い色は、セレスの意思をしっかりと映し出していた。
「アタシとミカゲは世界樹の元に行き、一時的に守護者の任をミカゲに移行する。ただこのミカゲが代理をやっていられる時間はせいぜい長くても一週間と言う所だろう。その間アタシは、『アルメイレ』に居るエルフを尋ねた後、世界樹の本来の守護者である母さんを探しに行く。」
セレスは、これから実行する計画をグレアラシルとミカゲに伝えた。
「グレアラシルにやってもらう総務大臣の動向を探る任務だが、多分一番のネックはお前が不意に変身してしまう事だと考えられる。だから後で~ライカンスロープ専用の勝手に変幻しない様にするアミュレットを渡すから、肌身離さず付けておいてくれ。それとーー・・・・」
セレスはグレアラシルが絶対に捕まったり、正体がバレない様にするためのアイテムや装備の指示を徹底した。
この、総務大臣がソルフゲイルの御三家の次男坊と一体、何を取引したのかを知る必要がセレスにはあった。
ソルフゲイルとは、100年前の戦争の後は国交を断絶している筈なのに、最近は書架の魔導書を狙っている魔道士以外にも街中で普通にソルフゲイル軍を見かける様になっていたからだ。
セレスの知らぬ所で、メルヴィ・メルヴィレッジは良からぬ方向へ進もうとしているのかも知れない、いや、既に何か動いているのかも知れないので、その動向や計画をグレアラシルに探って来てもらうのだ。
「アタシが動くと多分、ソルフゲイルの魔道士に察知される。アイツら何かあの戦争以降、銀狼族から搾り取った魔力を散々利用して、アタシの様な特殊な種族の気配や魔力の動きを瞬時に察知する力を身に付けた様なんだよ。だからアタシは絶対に動けない。だから!この任務はグレアラシルにしか頼めないんだ。」
言いながら、グレアラシルの鳶色の瞳を見据えた。
グレアラシルは感動のあまり、泣いていた。
「わ、分かりました・・・・姐さん・・・!俺、期待に応えられるように頑張ります!!」
そう言って、テーブルに置いてあった布巾で涙を拭った。
「まぁまぁまぁ、そんなに感動する様な話をアタシはしていないさ。むしろ、他の人から見たら~コレットみたいな綺麗な正義感の強い子が聞いたら多分、「グレアラシルさんを捨て駒にするんですか!?」とか言われているぞ、アタシは。なので、この任務は相当危険だが・・・・頼めるか?」
グレアラシルは顔を上げて、セレスを正面から見据えた。
そして、
「任せてください!姐さん!!」
と言って笑った。
グレアラシルの清々しい笑顔を見たセレスは、
「ヨシ!これでアタシは、何の悩みも無く母さんを探しに行ける!」
そう言って、これからの計画に何ら支障が無くなった事を喜んだ。
セレスとグレアラシルとのやりとりを見ていたミカゲも、
「良かったんだち!あちしも心おきなく竜になって飛べるち!完全体になるの久しぶりだから、めちゃくちゃわくわくするお~!」
と言いながら、腕をブンブン振り回した。
振り回して喜んでいる途中で、ふとミカゲは一つの疑問に思い当たった。
「所でセレス、あちしはどこで拘束具を外せば良いんだち?」
その言葉を聞いたセレスは、一瞬にして顔が青ざめた。
そうだった。
ミカゲを完全体にしないと、竜の姿にしないと1日のうちの数分で世界樹には着かない。かと言って3日かけて現地に赴くのは疲れる。
さて、一体どうやったら、ミカゲの拘束具を安心安全に外して更に誰にも気づかれずに飛行して、世界樹の近くまで行く事が出来るのだろうか~・・・・・・
「あああああああーーー!!!」
セレスはまた頭を抱えて、その場で苦悶した。




